楽天・早川隆久が2ケタ勝利にこだわる個人的理由 「早稲田の先輩たちの背中を追いかけていきたい」
チームが開幕投手を任命する背景には、さまざまな意図が含まれている。
春季キャンプからの状態のよさが評価されるケースがあれば、対戦チームとの相性、自投手陣のコンディションを考慮して抜擢されることもあるし、時には奇策だってある。
そうは言っても、チームはやはり絶対エースをはじめとする信頼度の高いピッチャーにオープニングゲームを託したいものである。このピッチャーを中心にローテーションを回していく──チームの意思表示、覚悟を背負うにふさわしいピッチャーが開幕投手なのである。
今シーズン、楽天の開幕投手を担った早川隆久 photo by Koike Yoshihiro
今シーズン、プロ4年目にして初めて大役を担った楽天の早川隆久もそのひとりだ。
早稲田大から鳴り物入りで入団し、これまでの3年間で通算20勝。2ケタ勝利は一度もない。数字が物語るように、楽天ではエースの称号をまだ勝ち得ていない早川が、2月28日と早い段階で開幕投手を指名された理由を挙げるとすれば期待値だ。それまで主戦として先発マウンドを守り続けてきた則本昂大が、今シーズンから抑えに転向することによって、「次期エース候補」の筆頭としての奮起をチームから促されたからに他ならない。
開幕してからの早川は、マウンドでその答えを示し続けている。
12試合に登板し4勝3敗と、勝ち星に恵まれているとは言えないが防御率は2.22。「6回3失点以内」を示すクオリティスタート(QS)率が75.0%と、安定したパフォーマンスを続ける(成績はすべて6月23日現在)。
このピッチングを支えているひとつに変化球がある。早川が自己分析する。
「変化球のアップデートが、今年は大きくできている。フォーク、カーブ、カットボールとか全体的に言えることなんですけど、スライダーなんかは試合で使わないこともあったなかで、縦気味にしたり、スイーパーみたいに大きく曲げたりとか、状況やバッターを見ながら効果的に使えているのかなって」
つまり今シーズンの早川は、変化球で"真っ向勝負"できていることになるわけだ。
変化球をストラークゾーンからボールゾーンに投げて様子を見ることなく、初球からどんどんストライクを入れてくる。それはすなわち、相手バッターに的を絞らせずに打ち取れるという、自信の表われでもあるのだ。
早川が「そうっすね」と頷く。
「どの球種でもそういうピッチングができていることで、真っすぐも生きてくるっていうのはあると思っています」
早川は「シーズンの成績とか負けた試合の結果をネガティブにとらえるのではなく、一段階レベルアップできる材料にしていきたい」と、自らの基本理念を説いている。
早川のこの姿勢が、常に視野を広げ、吸収意欲を駆り立てる。
今シーズンのパフォーマンスを語るうえで「欠かせない」と、早川が振り返っていたシーンがある。昨年11月のアジアプロ野球チャンピオンシップで侍ジャパンに初選出されたことと、その後に参加したオーストラリアでのウインターリーグでの経験だ。
「みんな、こんなに野球が好きなんだ」
純粋にそう思い、目を丸くする早川がいた。
「ウインターリーグに参加していた選手も侍ジャパンの代表選手も、すごく好奇心が旺盛で。変化球の握りひとつとってもそうですし、腕の出し方のイメージなんかもすごくこだわっているなって。自分も考えながらトレーニングをしてきてつもりだったんですけど、まだまだ熱量が足りてなかったんだなって感じましたね。そういうところに気づけて、実践できていることも大きいとは思います」
【楽天初の左腕投手2ケタへ】今シーズン、投げるたびにパフォーマンスを上げる早川がいる。
2勝目を挙げた5月3日のロッテ戦から3勝無敗。すべての試合でQSを続けている。とりわけ圧巻だったのが、楽天にとって交流戦初優勝をかけた6月14日の広島戦だ。
キャリア初となる延長10回を投げ、自己最多の11奪三振をマークしながらも球数は117球にまとめ、無失点でマウンドを降りた。チームが敗れたことで試合後の早川は俯き加減だったが、言葉はポジティブだった。
「全体的に球数は少なかったですし、バランスよく投げられました。キャッチャーの太田(光)さんとうまくコミュニケーションを取りながらリードを信じて投げられたこともありますけど、いい感じの内容でした」
次期エースとしてのチームの信頼を高めている今シーズン。開幕投手が果たすべき最低限の回答は、2ケタ勝利である。早川自身もそうだが、じつは楽天が誕生してから19年間、そこに到達した左腕は誰ひとりいない。
ストレートに、早川にそう向けた。
「それは今年、自分が達成しなければいけないことだと思っています」
すぐさまそう反応した左腕は、「あと......」と個人的な想いも打ち明けた。
「早稲田出身でご活躍されている先輩たちの系譜も受け継がないといけないというか。和田(毅)さんや有原(航平)さんもそうですし、大学時代にお世話になった先輩で言えば、大竹(耕太郎)さんと小島(和哉)さんも2ケタ勝利しているんで、『今年は勝たないとな』っていう使命感と、ちょっとしたプレッシャーと(笑)。偉大な先輩たちの背中を追いかけていきたいな、という気持ちもあります」
楽天は交流戦の最終戦で初優勝を決めた。
名門・早稲田の誇りを背負い、未踏の地への到達を約束する早川は交流戦で3試合に登板し、1勝ながら無敗。防御率は脅威の0.39と、球団初の快挙の大きなピースとなった。
今年の早川は、やはり違う。
そのマウンドを目の当たりにすれば、誰だってそう確信するはずである。