2015年のラグビーワールドカップ(W杯)で、過去1勝しかない日本代表を率いて、優勝候補の南アフリカ代表を下した「ブライトンの奇跡」を起こした、日本にもルーツを持つ豪州出身の世界的名将エディー・ジョーンズ(64歳)。日本を離れた後、イングランド、母国オーストラリアの指揮官を経て、今年1月から再び、日本代表の指揮官の座に就いた。2019年W杯を目指すにあたって、エディーHCは外国人選手と日本人選手のバランスについて、そして若手選手の育成についてどう考えているのか聞いた。


独占インタビューに答えるエディー・ジョーンズHC photo by Saito Kenji

――2012年〜15年以来、2度目の日本代表指揮官に復帰し、エディーさんが一番楽しみにしていること、ワクワクしていることはありますか?

 若手選手の育成でしょうか。まだ日本代表の若手選手には伸びシロがあって成長すると思っていますし、それに関わることができるということです。過去を振り返って、自分が本当に楽しかったと思うことは、2019年のW杯では、日本代表のWTB(福岡)堅樹が非常にいいパフォーマンスをしたことです。当時、彼は左ウイングとしてはおそらく世界でもベストだったと思います。(私が指揮していた)2015年W杯時はちょっと準備不足の面が否めなかったですが、2019年W杯で日本人の選手がどれくらいのパフォーマンスができるかを証明してくれたと思っています。

 彼には大学2年生の頃から成長のチャンスを与えて、結果、そうなった。若手選手には必要な過程だったと思っています。2027年W杯で日本代表が成功を収めるためには堅樹のような選手が2人、3人と出てくることが不可欠だと思います。

――ラグビーでは、日本に5年居住(毎年10カ月以上が必要)で、外国人選手も日本代表になることができます。2027年W杯に向けて、日本代表資格を得る外国人選手が増えていくと思いますが......。

 私はベストな選手を選ぶだけです。2019年W杯もそうでしたが、現状、日本人選手たちに関して言えば、非常にいい選手たちがプレーをしています。ただし、日本代表の若手選手がハイパフォーマンスの環境にいるかというと、そうではありません。大学ラグビーは別枠のような形になっているので、非常に素質のある選手を見つけてハイパフォーマンス的な戦術で育てていかないといけない。だから、もう少し若手選手の成長の速度を上げていきたい。それができれば、日本代表に選ばれる日本人の選手の母数も増えるのかなと思います。

――2015年W杯時は、ロックとセンターは外国人選手の力を借りると言っていましたが、その認識はあまり変わっていないでしょうか?

 リーグワンのチームを見ると、ロックで日本人選手がプレーしているところは、そんなに多くないですよね。見たとおりです。そこは自分がコントロールしているわけではないですが、私がやろうとしているところは、U20日本代表、JTS(ジャパンタレントスコッド)プログラムで、若手の日本人選手が成長するチャンスを与えていきたい。現在の日本代表のスコッドを見ると、JTSから上がってきた選手がFB矢崎(由高/早稲田大学2年)、HO佐藤健次(早稲田大学4年)、PR森山飛翔(帝京大学2年)と3名いて、そこから伸びています。

 JTSが設置されていなければ、この3人はジャパンに入らなかった。だから3人は非常に伸びるチャンスがある。どれほど成長するのかはまだわかりません。ですが、それは自分の責任の大きな一部だと感じています。日本のファンの多くは、外国人選手でいっぱいのジャパンを見たくないと思っています。だから、正しいバランスを見つけるというのが自分の仕事ですし、そこは、若手の日本人の才能を成長させることで自分としても提言していきたい。

――菅平のトレーニングキャンプに、日本代表の名WTBだった小野澤宏時さんの子息である、大学生になったばかりのFB小野澤謙真(慶應義塾大1年)を招集しました。「大学とは違ったプレーを見せてくれた」という言葉が印象に残っています。

 彼は本当にいい選手です。成長のためのチャンスを与えるといったような形になるかと思います。JTSにも呼びましたし、スピード感のある、ハイパフォーマンスといった考え方を頭の中に植えつける非常にいい機会になったと思います。まだ大学生1年ですが、もう少し成長の速度を上げることはできるかなと思います。

――HO原田衛選手(ブレイブルーパス東京)曰く、宮崎合宿の最初のミーティングでエディさんが雑誌を見せて、2027年W杯では日本代表選手がボクシング井上尚弥のように表紙を飾れ、と話したそうですね。

 はい。選手たちにそうなりたいと思ってほしい。もちろんラグビーはします。しかし若手にとってチャンスをつくるというという意味合いもあります。今、日本の野球をやっている子どもたちは「(ドジャーズの)大谷翔平選手のようになりたい」と望んだり、目指したりすることができる、つまり世界一になる道標ができている。

 ラグビーでは、世界に一番近かったのは(2019年W杯の)トップ8です。そうなると1番からまだまだ遠いので、その壁をどんどん壊していきたい。そうなりたいと選手も考えないといけないし、夢を見ないといけないし、それに向けて活動しないといけない。

――現在の日本代表の若手選手の中で、大谷選手のように世界トップクラスになれる可能性のある選手は見つけられましたか?

 1名、2名は非常にいい選手がいます。ただタレントがあるから大谷選手のようになれるわけではありません。ハードワークがあるからこそ、かつそれを何度も何度も、長期間を経てやり続ける、その能力がある選手が大谷選手のようになれるのです。

――2019年W杯前後は、日本を本拠地とするサンウルブズがスーパーラグビーに参戦していました。リーグワンのレベルが上がっている一方で、もっと日本代表の若手選手は海外でプレーした方がいいと思いますか?

 それよりも日本人の選手にリーグワンでプレーするチャンスを与えることが大事だと思います。リーグワンで実際にプレーしている日本人選手の割合は実は53%にとどまっている。かなり低い数字です。だから、2027年に向けて75%ほどに、日本人選手がリーグワンでプレーするパーセンテージを上げていきたい。それは規定を変えるということではなく、プレーの質が大事になってきます。日本人の選手がベターにならないといけない。そこがチャレンジですが、うまくいけば日本人選手が成長しない理由はありません。

――トップ4を目指す2027年W杯の予選プール抽選のことを考え、世界ランキングを上げるためにテストマッチに勝っていかないといけないという現実もあります。その自信はありますか?

 100%、自信はあります。ただ4年間のプランなので、明日、明後日、実現するわけではないですが、そもそもイングランド代表に勝ちたいし、勝てると思っています。ただし時間がかかるプロジェクトだとも思っています。

■Profile
エディー・ジョーンズ
1960年1月30日生まれ。オーストラリア人の父と広島県にルーツのある母を持つ。ラグビー選手として活躍後、数々の代表、クラブチームを指揮し、2012年にはラグビー日本代表のヘッドコーチに就任。2015年ラグビーワールドカップでは初戦で強豪国の南アフリカと対戦し、見事勝利を収めた。歴史的な勝利は「ブライトンの奇跡」と呼ばれ、社会現象を巻き起こした。その後、イングランド代表、オーストラリア代表を歴任し、2024年から2027年までの4年間、再び日本代表の指揮を執ることとなった。