エディー・ジョーンズ独占インタビュー 日本に戻ってきた理由を語る「初戦のイングランド戦はいい皮肉」
2015年のラグビーワールドカップ(W杯)で、過去1勝しかしていなかった日本代表を率いて、優勝候補の南アフリカ代表を下した「ブライトンの奇跡」を起こした、日本にもルーツを持つ豪州出身の世界的名将エディー・ジョーンズ(64歳)。日本を離れた後、イングランド、母国オーストラリアの指揮官を経て、今年の1月から再び、日本代表の指揮官の座に就いた。6月、新生エディー・ジャパンが本格的に始動し、6月22日のイングランド代表戦に向けて、宮崎で急ピッチに強化合宿を行うなか、ジョーンズHCが目指すラグビーやターゲット、そして若手日本人選手の育成に対する思いに迫った。
会見をするエディー・ジョーンズ監督 photo by Saito Kenji
――あらためて、どうして再び日本代表のヘッドコーチを受けようと思ったのでしょうか?
W杯でトップ8、トップ4を目指すチームに、私がその一翼を担っているのは光栄であり名誉なことです。プロのコーチングを始めたのも日本でしたし、日本で自分のコーチングキャリアを終えたいとも思っていました。また日本のラグビーに対する使命感を持っていたし、まだまだ成長する余地があると感じていたので、私が今まで学んできたあらゆることを日本ラグビーに還元したいと思ったのです。
――ラグビー日本代表の指揮官に再び就任し、6月22日(土)の初戦が2022年まで7年間指揮を執ったイングランド代表となりました。
いい皮肉とういか、ちょっと劇的というか......。しかし、自分が考えているのは、2027年のW杯に向けて、トップ4に進むチームをいかに作っていくかということで、イングランド代表戦に関しては、その中のひとつの試合に過ぎないと思っています。
――ホームで、0勝11敗と過去1回も勝ったことがないイングランド代表を下せば、初戦としてかなりのインパクトを与えることになります。
おっしゃるとおりです。ですが、現状はチームを作り上げていくといった形で、今は(トップ4を目指すには)十分なレベルにありません。日本代表は現在世界ランキングで12位、過去8年でトップ10の国に対して7%と高い勝率を収めていないですから。その現状を考えた上で、より高みを目指す。やはり、梯子を一段ずつ上っていくことが必要です。
――昨年12月の就任会見から、「超速ラグビー」というキーワードを掲げました。概念、戦術を先に思いついたのか、それとも言葉を先に決めたのでしょうか?
日本代表のヘッドコーチに就くと決断をした時、チームは過去にいいときもあったが、現状はうまくいっておらず、さほどいい成績を収めていなかった。何が足りないのかと考えたとき、必要なのは日本ラグビーのアイデンティティを取り戻すことだと考えました。日本のラグビーが成功を収めていたころの歴史を振り返ると、やはりアタックは、どんどん相手のディフェンスラインに仕掛ける、発明的、改革的なプレーがあった。ディフェンスでは非常に容赦ないタックルを続けていた。そのようなイメージで日本代表がプレーするところを自分も見ていました。あとは見ている人が興奮するような試合、プレーを見せていきたいと思った。
そして日本人はキーワード、スローガンというものを好む傾向にあると思うので、私は戦略の専門家に会いにいきました。その方が「超速ラグビー」という言葉にまとめてくださった。「超速ラグビー」はキャッチーでインパクトがあるし、「超速ラグビー」と口にしたくなる。そして日本のラグビーをもっと見たい、知りたい、興奮するといったような意味合いも含めて、もっとユニークなチームになっていきたい。
――新生エディ・ジャパン、初戦ということで「超速ラグビー」を日本のラグビーファン、スポーツファンに試合で見せる初めての機会となります。
もちろん、ワクワクします! ただ3年後(のW杯時)にはもっともっと興奮していると思います。アタックでボールを持っているとき、持たないときに関わらず、どういう意図でアタックをしているのかを見てほしい。集団的、コレクティブ(組織的)にスピードに乗ること、勇気を持って全員でプレーし、どんどん相手に仕掛けていく。相手のディフェンスに問いかけるような、迷わせるようなアタックをしていきたい。それを達成するためにやはり「インモーション」、つまり動き出しが必要です。
そして、ディフェンスでは容赦なく、常に2枚でタックルに入ることが大事になってくる。常に日本は世界で一番、チョップタックルができるチームなので、ディフェンスでもどんどん前に上がり続けるチームを目指します。そういった姿勢をぜひ見ていただきたい。それこそが日本のラグビー、ジャパニーズラグビーだと思っています。
――アタックでは「インモーション」だけでなく、「ライブアタック」という言葉も聞かれます。
モメンタム(勢い)を得てチャンスを作り出せば、すぐに相手のディフェンスラインにどんどんと仕掛けていく。フォーメーションでプレーするというより、どんどん相手に畳み掛けていくようなラグビーで、ポッド(選手を横幅に合わせて配置する戦術)でポジションにセットするわけではなく、ボールの位置に合わせて、ボールのモメンタムのスピードに合わせてプレーしていくというコンセプトです。
フォーメーションではなく、ボールがどこにあるかによってアタックを設定しています。どちらかというとサッカーのようなイメージです。サッカーだと3−4−3といったようなフォーメーションでプレーすることがあると思いますが、相手のディフェンスラインを突破したときには関係ない形になっていく。それと同じように、どんどんとボールがあるところでプレーをしていく。伝統的にジャパンが得意だったところはそこだと思っているので、そういったアタックを取り戻していきたい。
――前回、日本代表を率いていた2012~15年は、ボールを継続することに重きを置いていました。今は、モメンタムに乗ったら少ないフェーズでトライを取り切りたい?
スポーツそのもの、ラグビーそのものも変わってきています。ディフェンス(の潮流)も変わっていますし(ボールを継続して)長いフェーズでプレーするようになるのは、(強化の)サイクルの一番後です。自分たちの成長があってキャパシティが備わってきたころにはできるかと思いますが、現状ではそれにふさわしいフィットネスがまだ足りていない。
2012年から2015年の頃を振り返ると、W杯の直前までなかなかプレーがまとまってない部分もあった。選手たちには、ユニークなラグビーをしろと要望しているなかで、フィジカル面では非常に疲弊する試合になってくる。そうなると、積み重ねて習得していくのは時間がかかると自覚しています。それまでは、ここはうまくいった、でも次はここだといった形で、要所、要所でいいプレーというのは見られるかもしれませんが、2026年あたりには自分たちがまさにプレーしたい形が、継続的に一貫性を持ってできるかなと思います。
■Profile
エディー・ジョーンズ
1960年1月30日生まれ。オーストラリア人の父と広島県にルーツのある母を持つ。ラグビー選手として活躍後、数々の代表、クラブチームを指揮し、2012年にはラグビー日本代表のヘッドコーチに就任。2015年ラグビーワールドカップでは初戦で強豪国の南アフリカと対戦し、見事勝利を収めた。歴史的な勝利は「ブライトンの奇跡」と呼ばれ、社会現象を巻き起こした。その後、イングランド代表、オーストラリア代表を歴任し、2024年から2027年までの4年間、再び日本代表の指揮を執ることとなった。