日本代表「超速ラグビー」のカギを握る司令塔・松田力也が語る「チームをリードしていきたい」
「超速ラグビー」の核となる、攻撃のタクトを握るのは誰か──?
5月30日、ラグビー日本代表のエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)が再任後初の日本代表選手を発表し、注目の司令塔であるSOには松田力也(前・埼玉ワイルドナイツ)と李承信(神戸スティーラーズ)のふたりが選ばれた。
※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)
新生エディージャパン飛躍のカギを握る松田力也 photo by Saito Kenji
12年前の高校生の時に呼ばれた山沢拓也(埼玉ワイルドナイツ)は、今回SOではなくFBとして選出。2季連続でチームをトップ4に導いたベテラン田村優(横浜イーグルス)の名前はなく、今季のリーグワン新人賞を受賞した郄本幹也(東京サンゴリアス)はバックアップメンバーとして選ばれた。
代表経験の少ない選手が多い新生エディージャパンで、現在30歳の松田はBK最多の37キャップを誇る。
「メンバーも若返り、自分の立ち位置も上になっているので、みんなが一番いいラグビーができるように、グラウンド内外でリーダーシップを取りたい」(松田)
ジョーンズHCは10番のセレクション基準について「(個々の)選手のパフォーマンスを見て、自分たちのラグビースタイルに合う選手を見極めて起用したい」と語っている。12番としても能力の高い松田を10番で招集したのは、司令塔として高く評価しているからだろう。
「ワイルドナイツで松田はSOとして非常にいいプレーをしていましたが、ジャパンのラグビースタイルはワイルドナイツとまったく異なる。それぞれの強みを活かしたスタイルで、日本代表はジャパニーズスタイルのラグビーを作っていきたい」
64歳の世界的名将は、松田に大きな期待を寄せる。
【松田が考える「超速ラグビー」とは?】強豪ワイルドナイツの10番を背負い、2シーズン連続してリーグワンのプレーオフ決勝までチームを導いた松田は日本人SOのトップランナーだ。今シーズンの決勝では元オールブラックスのSOリッチー・モウンガと対決してブレイブルーパス東芝に20-24と敗れたものの、「80分を通してみた時、(モウンガに)パフォーマンスでは負けていなかったと思います」と強気に振り返るほど、司令塔としての自負もある。
前回のエディージャパンが活動した期間(2012年4月〜2015年11月)、松田は当時学生(伏見工高→帝京大)だったこともあり、代表に招集されることはなかった(松田の代表初キャップは2016年6月のカナダ代表戦)。今回、6月6日より宮崎で行なわれている日本代表合宿が、ジョーンズHCから初めての直接指導となる。
「(以前の日本代表とは)ボールのもらい方や運び方も違い、新しい刺激があるので楽しく練習できています。エディーさんはラグビーに対する情熱もそうですし、一番ラグビーのことを考えていて、やる気を出させてくれるようなミーティングをしてくれます。
エディーさん(のエピソード)は怖い話しか聞いたことがなかったですが、具体的にいろいろ明確にしてくれるし、気持ちを前向きにしてくれます。でも(いつ雷が落ちてくるかは)常に気を張っていますけど(苦笑)」
ジョーンズHCは就任直後から「日本代表ではほかの国がしないラグビーをしたい」「超速ラグビー」という目標を掲げており、松田も今回の合宿で初めてその薫陶を受けている。
松田が考える「超速ラグビー」とは?
「どんな局面でも早く(立つべきポジションに)セットして、速くアタックする。今までより頭を速く使わないといけないし、判断も速くしないといけない。自分は10番として経験もあるし、いろんなラグビーを知っている分、引き出しもあるので、判断力や声がけなどの部分でも一歩先に立って、チームをリードしていきたい」
【松田が30歳でワイルドナイツを離れる理由】高校時代はFBとしてプレーし、大学4年時の初キャップもFBとして選出された松田。CTBとしての能力も高く、今季のリーグワン・プレーオフ準決勝で2トライを演出したように、走力も武器とするランニングSOだ。エディージェパンでも積極的にランで仕掛けることが求められている。
「ジェイミー(・ジョセフ前HC)の時の10番はゲームコントロールに重きを置いていましたが、超速ラグビーではボールを持って仕掛けていくイメージが強い。少ないフェーズでトライを取りきることもキーになってきます。
エディーさんからは、『もっとボールにアグレッシブに行ってほしい』と言われました。今まではゲームコントロールを学んできたので、次はどんどん勝負していきたい」
今年5月で30歳となった松田は今季終了後、2017年から7年間プレーしたワイルドナイツを離れる決断を下した。「2027年ワールドカップに向けて、どこでプレーするのが一番かを考えました、30歳になるので現実的なことを考えて」海外ではなく、国内チームに移籍する予定だという。
今の心境を、松田は語ってくれた。
「ワイルドナイツが嫌いになったわけではなないですし、日本代表でジェイミーからエディーに変わって違うラグビーのうれしさ・新鮮さをすごく感じているように、そういうのを感じたかった。ワイルドナイツを(倒すのを)目標に、移籍するなら勝ちたいと思います」
30歳での決断について、ジョーンズHCに話をふってみた。
「松田はまだ29〜30歳ですよね。(アイルランド代表のジョナサン・)セクストンは38歳でワールドカップに出ました。だから松田がもっと成長し続けようとするところを、ぜひとも見たいですね!」
そう言われた松田も、こう返す。
「セクストンと比べたら、誰でも若手になってしまいますが(苦笑)。チームでの立ち位置は上になりましたが、ベテランという気持ちにもなっていません。学ぶ姿勢、気持ちのところでも、誰よりもうまくなりたいです!」
【イングランド代表戦は新生ジャパンの試金石】6月22日、新生エディージャパンの最初のテストマッチの相手は、2023年ワールドカップで12-34と敗れた世界3位のイングランド代表である。
「昨年のワールドカップで負けているので、リベンジしたいという思いはすごくある。相手もメンバーは変わっていると思うが、日本代表のメンバーもラグビーも変わっている。夏の暑い環境で僕たちが速く動いて『超速ラグビー』を体現できれば、勝つチャンスがあると思っている」(松田)
名将エディーの掲げる「超速ラグビー」がイングランド代表戦で体現できたとき、グラウンドの上ではランでも積極的に仕掛ける司令塔・松田力也の姿が目に止まるはずだ。