角田裕毅が最適の戦略で7位にジャンプアップも濡れた芝上でまさかのスピン 今季初の「ミスらしいミス」も次戦への糧に
「僕のミスです。それだけです」
F1第9戦カナダGP決勝を14位で終えた角田裕毅は、言い訳もせず、手短に、そう言いきった。
激しい雨が打ちつけるなか、8番グリッドからスタートしたものの、水溜まりに足もとをすくわれて10位に後退。それでも中団グループの集団のなかで淡々と走り、雨が上がって徐々に路面が乾いていく状況のなか、タイヤマネージメントに徹していた。
角田裕毅は8番グリッドからスタートしたが... photo by BOOZY
誰もがそれを知っているから、それまでにスリックタイヤには換えたくない。乾き始めた路面では、温まりやすく柔らかいインターミディエイト(浅溝)タイヤはあっという間に磨耗が進んでダメになってしまう。それをなんとか30周保たせるために、負荷をかけないよう労わって走っていた。
25周目、雨雲が到来して空が暗くなってきた矢先に、ローガン・サージェント(ウイリアムズ)がクラッシュ。セーフティカーが導入されると、ここぞとばかりにほぼ全車がピットに駆け込み、新品のインターミディエイトタイヤに交換した。
そんななか、角田はコース上に留まり、7位にポジションを上げた。そしてレースが再開され、ニュータイヤのライバルたちと同等の走りを続けた。
雨で濡れた路面はあっという間に乾き、40周目には各所がドライ状態に。
角田は44周目までタイヤを保たせ、完璧なタイミングでドライタイヤに交換して7位に浮上するという走りを見せつけた。チームの戦略もうまかったが、角田がこれだけタイヤを保たせたからこそ、その戦略は成功した。チームとドライバーが一体になってこその結果だった。
「天候は自分たちでコントロールできないですけど、それを念頭に置いて十分(チームに対してコンディション情報を)フィードバックしながら、その時々のコンディションにアジャストしていくしかないですね」
予選を終えたあと、角田はこう語っていた。その言葉どおりにチームと密に状況をやりとりしながら、最適な戦略を見つけ出したのだ。
【ブレーキで急にロックアップする事態】だが、ミディアムタイヤに交換したところから、角田のレースは苦しくなっていった。
「ブレーキングに苦労していて、ドライに換えたあとはかなりミスが多くなってしまって、そこが一番の問題でした。ロックアップ(タイヤの回転が停止する状態)が多くて、それもいつロックアップするのか予想が難しい状態でした」
レーシングカーのブレーキは、最初に200kgにも達するような激しい力で踏みつけ、それを徐々に弱めていくという特殊なコントロールが要求される。
フルブレーキングをすれば、5Gもの減速Gで身体が前に振られる(G=重力による加速度)。市販車で身体が投げ出されるほどの急ブレーキをかけても、せいぜい1Gにしかならないと言えば、F1ドライバーたちがいかに激しいGに晒(さら)されているかがわかるだろう。それも1周のうちで何度も、そしてそれを70周も繰り返すのだ。
タイヤを労わりながら雨の中を走る角田裕毅 photo by BOOZY
そのブレーキングで、踏力を弱めていくフェイズの最後のほうで急にロックアップしたりする。その効き方が安定しておらず、角田はブレーキのコントロールに苦しんでいた。
52周目にはターン6でマシンが止まりきらず、ランス・ストロール(アストンマーティン)に抜かれて8位へ。
61周目にはターン10で右フロントがロックアップし、その次のバックストレートでエステバン・オコン(アルピーヌ)に抜かれて9位へ。
そのオコンをなんとか抜き返そうとしているなかで、66周目のターン8で再び右フロントがロックしてコースから飛び出し、濡れた芝生の上でマシンが大きくスライドし、スピンしてしまった。
角田が「僕のミスです」と言ったのは、そういうことだった。
後方にはチームメイトのダニエル・リカルドがおり、ミディアムでは角田よりもペースがやや速かった。そのリカルドに対し、チームはポジションキープではなく「裕毅と自由に戦ってもいい」と指示を出した。
リカルドに角田を抜く力があれば、前のオコンも抜いて8位を取り戻せるかもしれない。チームとしてふたりに順位を入れ換えさせるようなチームオーダーは出さなかったが、リカルドにその力があるならトライすればいい。それはある意味、ふたりのドライバー双方に対してフェアなスタンスだったと言える。
【8位を取り戻そうと躍起になってミス】前のオコンに仕掛けていくに際して、うしろのリカルドの存在がプレッシャーになったのではと問われると、角田は「いや、(プレッシャーが)あってもなくても、あそこでミスしなければよかっただけなので」と自分を責めた。
「インターミディエイトで履き替えずステイアウトして、ドライタイヤに履き替えるタイミングもうまく合わせ込めました。戦略はよかったですし、チームもいい仕事をしてくれたと思います。
それだけに、こういう形の終わり方になってしまったことにガッカリしています。今日はマシンを最後まで持ち帰るべきレースでしたし、こういう結果になってしまったのはとても残念です」
端的に言えば、問題はブレーキそのものにあった。リカルドもブレーキを強く踏みすぎてロックアップし、カルロス・サインツ(フェラーリ)に抜かれている。
だが、どんなマシン状況であれ、それを使いこなしてこそ一流のF1ドライバーだ。それは決して不可能だったわけではない。
今回で言えば、角田のブレーキングの技術に問題があったわけではない。それよりもむしろ、保守的に走って9位確保でも構わなかったところで、8位を取り戻そうと躍起になったことですべてを失ってしまったアプローチにこそ問題があった。
人間は誰でもミスをする。そのミスから学び、原因を突き止めて対策することで、成長する。
今シーズン、初めてのミスらしいミス。そこから角田は学び、さらに優れたドライバーへと成長を見せてくれるはずだ。