リサ・ゲレラ氏は、共同設立したスキンケアブランドのエクスペリメント(Experiment)が最初の製品を発売する前の2020年にTikTokをはじめた。

「当時、TikTokに参加している化学者や皮膚科医は少なく、スキンケアに関する誤った情報が数多く流れていた」と、化学者としての経験を積んだゲレラ氏は投稿をはじめた理由について語った。2020年11月にエクスペリメントがソフトローンチされたとき、同氏はすでにこのプラットフォームやほかのTikTokインフルエンサーとの関係を築き上げていた。このブランドは最初に、アバントガード(Avant Guard)という名前のシリコンシートマスクを独力で発売した。現在、ゲレラ氏はTikTokで6万1000人を超えるフォロワーを擁している。4月19日にエクスペリメントは、ベンチャーキャピタルのグレークロフト(Greycroft)が主導する330万ドル(約5億1350万円)のシードラウンドを発表した。

ほかのクリエイターもエクスペリメントの成長に貢献している。2022年11月に同社は初となる本格的な外用剤であるスーパーサチュレーテッド(Super Saturated)というグリセリン配合の保湿美容液を発売した。数カ月後、インフルエンサーのミケイラ・ノゲイラ氏がこの美容液について投稿すると、計画よりも早く数カ月分の在庫が完売した。当時、ノゲイラ氏には約1450万人のフォロワーがいた。

「この経験から、ギフトの力とTikTokの力、人々がどのように互いのコンテンツを築き合っているかがわかった」とゲレラ氏は語った。「インスタグラムではこのようなバイラル性はあまり見られない」。ゲレラ氏は、インスタグラムで2700人のフォロワーを抱えている。エクスペリメントのフォロワー数は、TikTokが7000人以上、インスタグラムが1万5000人以上だ。

「適当さ」が支持されるTikTok



スキンケアブランドのデュー(Dieux)の共同創業者であるシャーロット・パレルミノ氏も、ブランドをローンチする前に個人のソーシャルフォロワーを増やした。現在、同氏のフォロワー数はTikTokが42万3000人以上、インスタグラムが32万4000人以上である。一方、デューのフォロワー数もTikTokで8万1000人、インスタグラムで11万9000人を超えている。

デューとエクスペリメントは、TikTokでの起源に多くの類似点がある。デューが最初に発売したシリコン製の目元マスク、フォーエバーアイマスク(Forever Eye Mask)は、TikTok上のほかのクリエイターのおかげで口コミが広がった。「インスタグラムではストーリーズ(Stories)やグリッド(grid)に製品に関する投稿が行われたが、広がらなかった」と同氏は語った。一方TikTokでは、このマスクを着けた姿で「苦手なこと」などを適当に話す動画が作成された。そしてそれがTikTokで「主力」になったという。

デニムを中心としたアパレルライン、パルケ(Parke)の創業者チェルシー・クレイマー氏は、起業に合わせてフォロワーを増やした。同ブランドは2022年にローンチされたが、これまでのところアプリ上での無料投稿が「基本的に唯一のマーケティング」であると同氏は語った。クレイマー氏のTikTokのフォロワー数は7万6000人以上、インスタグラムでは3万3000人以上だ。パルケのフォロワー数はTikTokで9000人以上、インスタグラムで2万1000人以上となっている。

TikTok禁止は「ビジネス成長に影響する」



TikTokはブランドが成長する方法とマーケティング活動を行う方法の両方を大きく変えた。「今や消費財を探す場所はソーシャルメディアになった。ソーシャルメディアは経済をうまく動かす力になっている」とゲレラ氏は語った。「新製品を見つけるために印刷広告を見た最後の日は、いつだっただろうか」。

そして、2023年9月にローンチされたTikTokショップ(TikTok Shop)は、多くの人の買い物のしかたを変えた。

米国には1億5000万人のTikTokユーザーがいて、最大の市場となっている。しかし4月24日にジョー・バイデン大統領は、このアプリが米国で禁止されることになるかもしれない法案に署名した。上で紹介したブランド創業者にTikTokが禁止される可能性について聞くと、TikTokでブランドを構築したとはいえブランドの将来については心配していないが、それでも禁止には強く反対していると語った。

「3つの主要なソーシャルメディアプラットフォームのうちの1つを排除することは、多くの人々と、米国でビジネスを成長させる方法に影響を与えることになる」とゲレラ氏は述べた。TikTokは「ベンチャーキャピタルの支援を受けていない小規模なビジネス」に、本業で成長する道を提供してきたという。

議会が可決した法案は、このアプリが中国と関係していることを考慮し、国家安全保障上の懸念があるとして禁止を正当化しているが、ゲレラ氏は懐疑的だ。「政府は、『中国』だの『サイバーセキュリティ』だのと繰り返すのではなく、TikTokの何がいけないのかを答えるべきだ」と同氏は述べている。「サイバーセキュリティの観点でいえば、TikTokはほとんどの米国企業よりも予防策を講じているのだから、これは矛盾した法案だ」。

短尺動画がなくなるわけではない



パレルミノ氏は、この禁止は経営者としてよりも一市民として気がかりだと語った。「民主主義の社会として、考えるべきことがたくさんある」。

「TikTokがなくてもブランドは成功していただろう。当社の製品は素晴らしいし、それがもっとも重要なことなのだから」とパレルミノ氏は述べた。「しかし、今の地位に到達するまでには、もっと時間がかかっただろう」。また、すぐに禁止されたとしても、デューは多くのソーシャルチャネルを利用しているため、問題はないだろうという。「すべての卵を1つの籠に入れてはいけない。戦略全体がTikTokに依存していたら、いずれにせよ何らかの問題は生じる」。

クレイマー氏は、禁止された場合はインスタグラムのリール(Reels)をもっと頻繁に使うようになるだろうと述べた。気に入った「日常」的なコンテンツを投稿するためにYouTubeも利用するだろう。これまでのところ、時間の都合で1つのプラットフォームだけを優先していて、そこで選んだのがTikTokだったというだけだ。

TikTokの運命がどうであろうと、短い形式の動画がなくなるわけではない。

一方、ゲレラ氏は、エクスペリメントにとってもっとも影響力のあるマーケティングチャネルはEメールだと話した。同氏は「当社ではずっと独自のチャネルを強化しており、これがもっとも高い収益性を達成している」と付け加えた。

結局のところ、TikTokの禁止は「成長中の小規模な新しいブランドにとって」損失になると同氏は述べ、次のように付け加えた。「TikTokは労力を必要とするが、その長所と、できることについて強い思い入れがある。我々は、TikTokの巨大な拡散力がもたらす利益と、それがブランドのために何を生み出すかを見てきた」。

[原文:Glossy Pop Newsletter: These founders built their brands on TikTok - this is what they think about the potential ban]

SARA SPRUCH-FEINER(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)