人の顔は子宮内の圧力によって形作られる可能性があるという研究結果
母親の子宮内で発達する胎児の身体的特徴は、主に遺伝的な要因によって形作られていると考えている人は多いかもしれません。ところが、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者が率いる研究チームが行った新たな研究では、「胚が感知する子宮内の圧力」が顔の特徴を形成する細胞に影響を及ぼすことが明らかになりました。
Competence for neural crest induction is controlled by hydrostatic pressure through Yap | Nature Cell Biology
Pressure in the womb may influence facial development | UCL News - UCL - University College London
https://www.ucl.ac.uk/news/2024/apr/pressure-womb-may-influence-facial-development
Your Face May Have Been Shaped by Pressure in The Womb, Study Finds : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/your-face-may-have-been-shaped-by-pressure-in-the-womb-study-finds
人間では受精卵が細胞分裂を繰り返して胚盤胞と呼ばれる球となり、これが母親の子宮に着床して胎児になり、人間を形作るさまざまな構造が発達していきます。2020年の研究では、妊娠初期に胎児を覆う膜が子宮の圧力から胎児を守る役割を担っていることが明らかになるなど、胎児の発達には遺伝的な要因だけでなくその他の外的要因が関わっていることも示唆されています。
今回、研究チームはマウスとカエルの胚、そしてヒトの胚細胞を組み合わせたヒト胚様体に外部から圧力を加え、胚の成長が圧力の違いによってどのような影響を受けるのかを詳しく調査しました。
実験の結果、胚やヒト胚様体に通常よりも高いレベルの圧力を加えると、骨や軟骨、神経細胞などに分化する神経堤細胞の細胞シグナル伝達経路が妨げられることが判明しました。顔の各部は神経堤細胞に由来しているため、子宮内の圧力上昇によって神経堤細胞の細胞シグナル伝達経路が乱れると、顔面の奇形につながるリスクがあるとのことです。
研究チームの分析では、神経堤組織が発生する場所の近くにある卵割腔に圧力がかかると、遺伝子の転写因子として機能するYAPというタンパク質の活性が低下し、細胞シグナル伝達経路のひとつであるWntシグナル経路が損なわれることが示されました。
多くの研究は胚に対する生化学的要因について調べたものですが、今回の研究は機械的要因が胚の発達に及ぼす影響についての新たな洞察を提供します。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの神経生物学者であるロベルト・メイヤー氏は、「私たちの発見は、顔面奇形が遺伝学だけでなく、子宮内の圧力といった物理的な手がかりによっても影響を受ける可能性があることを示唆しています。生物が圧力の変化を経験すると、母親の体内の胚を含むすべての細胞がそれを感知することができます」とコメントしています。
なお、今回の研究では子宮内の圧力変化により、神経堤細胞のシグナル伝達効率が低下することは明らかになったものの、それが胎児にどの程度の影響を与えるのかはわかっていません。メイヤー氏は、「体内の変化や環境圧力がヒト胚の発育にどのような影響を与えるかを理解するためには、さらなる研究が必要です」と述べました。