坂東玉三郎、女方の大役「阿古屋」を南座で上演「見た目の美しさや音楽の心地よさを楽しんでもらえたら」
6月12日(水)より京都・南座にて『坂東玉三郎特別公演』が幕を開ける。本公演は、玉三郎による口上から始まり、片岡千次郎による「阿古屋」の解説。そして、「壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)」より「阿古屋」を上演する。琴、三味線、胡弓の三曲を実際に演奏し、微細な心情を表現する女方の大役「阿古屋」。長年、阿古屋を勤めている坂東玉三郎が、その魅力をたっぷりと語った。
平家滅亡後、源頼朝の命令により残党狩りが行われる中、平家の武将悪七兵衛景清の行方を問いただすため、景清の愛人である遊君阿古屋(坂東玉三郎)が問注所(裁判所)に引き出される。榛沢六郎(坂東功一)の問いに対し、景清の所在を知らないと答える阿古屋。代官の岩永左衛門(片岡千次郎)は阿古屋を拷問にかけようとするが、詮議(取り調べ)の指揮を執る秩父庄司重忠(中村吉之丞)は阿古屋に琴、三味線、胡弓を弾かせることで彼女の心の内を推し量ろうとする。
公演では玉三郎による口上ののち、片岡千次郎による演目解説を行う。「平家と源氏、阿古屋と景清の関係などを解説させていただきます。「阿古屋」の段は、俳優がずっと座りっぱなしになるので、動きがないのですが、その中でなぜ岩永が人形振りをするのか、など解説でお話させていただこうと思っています。(話の筋を)すでにわかっていらっしゃる方も、改めておわかりいただけることもあると思います」と玉三郎。
坂東玉三郎
舞台上での動きが少ない芝居だが、「心情が幾重にも重なっている奥深い芝居」と話す。「景清はどこにいるのかと問いただす場面で、傾城(遊女)に三曲(琴、三味線、胡弓)を弾かせて、その音色で心のうちを判断していくという趣向が、「阿古屋」を人気狂言にしたんだと思います」。
そして、その場面こそが歌舞伎だと話す。「楽器の音色で判断して、みんなが納得するというのもおかしな話。辻褄の合わない、あり得ないことも観ている間に乗り越えていってしまう。芝居の夢の時間と言いましょうか。僕は幼い頃から歌舞伎を観ていて、目の前で絵のようなことが起こるところに惹かれて歌舞伎俳優になったと思います。たとえば詮議の場面でも豪華な衣裳で出るところが、歌舞伎の面白さです」。
玉三郎は、阿古屋を演じるたびに、次のような思いで三曲を弾いていると明かす。「遥か遠くにいる、もしくはもういないかもしれない恋人のことをしみじみ思う気持ちが劇場に響いていけばと思います。うまく演奏しないとなかなか響かないのですけれども(笑)」。
また、傾城という人物像については「教養と傾城という職業の許容量でもって、どんな人にも対応できるのが傾城の根本です。殿様とは歌を詠み合える。町人とは下世話な話に応じる。そして技芸もしっかりしている。その心構えと教養を備えるということは、それなりの女性でなければできないということです。平たい言葉で言うと、傾城は受け皿としての器の大きさを問われるものだと思います」と考えを示した。
坂東玉三郎
傾城を演じるにあたって「凛としていることが大事です。女方となるとくねくねした曲線を考えてしまいますが、そういう見せ方はナシということにしています。傾城となると支度をしてくれる人が周りにいるので、自分からは動かない。何もしない。たとえば手を出したらキセルが出てくる。「阿古屋」でも、楽器が出てきたらすっと弾く。動かない、何もしない中で見せていくことが大事だと思います」と動かないことが重要と続ける。
「解説があるので歌舞伎初心者も大丈夫です!」と笑顔で本公演にいざなう玉三郎。「歌舞伎らしい華やかさの中で、「いい世界で、いい音楽ね」と感じてもらえたら。見た目の美しさや音楽の心地よさをお楽しみください」。
取材・文=Iwamoto.K