ビル・ヘイダー(右)はアリ・ウォン(左)と放送映画批評家協会賞の授賞式に出席(CCA/Getty Images)

年が明けて、ハリウッドではアワードシーズン真っ盛りとなっている。セレブたちは同じ週に何度もレッドカーペットに立つのに大忙しだ。

カップル社会の欧米では、こういった場に配偶者や恋人を同伴するのが常。テレビカメラが回る中、受賞スピーチで愛する人を名指しして「アイラブユー」と言う場面をよく目にする。仕事上での成功の裏には、しばしば支えてくれる人の愛があるもの。晴れの場でそのことを認め、感謝の言葉を贈るのは、ポジティブなことなのだ。

デ・ニーロのパートナーはアジア系

今年もまたそんな場面が続々展開する中、ふと気づいたのは、大物セレブの男性とアジア系女性の新カップルが複数誕生していること。たとえば、ロバート・デ・ニーロ。『マイ・インターン』(2015)でデ・ニーロに太極拳を教えたインストラクター、ティファニー・チェンとの間で、昨年春に赤ちゃんが生まれ、交際の真剣度が明らかになった。2人はまだ交際について何も語らないままながら、今月のゴールデン・グローブ授賞式で、チェンは堂々とデ・ニーロの隣に座っていた。

最初の妻、2番目の妻も含め、デ・ニーロの過去の女性たちは軒並み黒人。アジア系と交際するのは、現在80歳の彼にとって初めてのことだ。全部で7人いる子供たちの中でも、アジア系とのハーフはチェンとの間に授かった娘のみである。

次に、最新作『The Holdovers』(2023)で主演男優部門の最有力候補のひとりと考えられているポール・ジアマッティ。1997年にユダヤ系の女性と結婚し、ひとり息子を授かったジアマッティは、ほとんど知られないうちに離婚しており、今月初めのパーム・スプリングス映画祭にはアジア系女優クララ・ウォンを同伴して出席した。

ナショナル・ボード・オブ・レビューやゴールデン・グローブ賞などの授賞式、その後のイベントにも、ジアマッティとウォンはカップルとして仲睦まじく登場している。今月14日の放送映画批評家協会賞(Critics Choice Awards)授賞式での受賞スピーチで、ジアマッティは、「私は、美しい恋人クララ・ウォンを愛しています。なぜあなたが私なんかにかまってくれるのか、わかりません」と、世界に向けて彼女への愛を語った。

ジアマッティ(56)とウォンは2016年に始まったテレビドラマ『ビリオンズ』で共演しているが、交際開始がいつだったのかは不明。ウォンについては、年齢がおそらく30代で、妹がいることくらいしかわかっていない。


放送映画批評家協会賞での受賞スピーチで恋人のクララ・ウォンに愛の言葉を送ったポール・ジアマッティ(CCA/Getty Images)

アジア系のコメディエンヌとしてスターに

そして、映画『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(2019)や、テレビドラマ『バリー』(2018〜2023)などで知られるコメディアンで俳優のビル・ヘイダー(45)。監督、脚本家のマギー・キャリーと離婚した後、アナ・ケンドリック(38)やレイチェル・ビルソン(42)など白人女優と交際した彼の新恋人は、アジア系のコメディエンヌで女優のアリ・ウォン(41)。

ウォンはサンフランシスコ生まれで、母はベトナム系、父は中国系。彼女がエグゼクティブ・プロデューサーも兼任する出演作『BEEF/ビーフ〜逆上〜』(2023)は、昨年Netflixで配信されて大ヒットし、このアワードシーズン、あらゆる賞を制覇している。

ヘイダーが製作、主演、監督を務める『バリー』も同様にあちこちで候補入りしているが、それぞれに違う作品で授賞式に来ていても、ふたりの席は常に隣同士。今シーズンは賞を逃し続けているヘイダーは、授賞式でウォンの名前が呼ばれると自分のことのように感動しては、誇りに満ちた表情で恋人を祝福している。

ウォンもバツイチで、元夫妻の間には娘が2人おり、離婚後も友好な関係を続けて協力しながら子育てをしているようだ。ヘイダーにとっても、ウォンにとっても、異人種交際は初めてと思われる。

一方で、アジア系女性に関してはいわばベテランなのが、ニコラス・ケイジ。最初の妻(パトリシア・アークエット)と2番目の妻(リサ・マリー・プレスリー)は白人だったが、12年続いた3番目の妻アリス・キムは、ロサンゼルスのレストランでウエイトレスをしていた韓国系アメリカ人。ラスベガスで電撃結婚するも後悔して4日後に結婚無効を申請した相手エリカ・コイケと、2021年に4度目の妻として迎え入れたリコ・シバタは日本人だ。

シバタとの出会いは、園子温監督の『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』(2021)。もともとメキシコで撮影するはずだったこの映画は、園監督の病気のせいで舞台を日本に変更することになったもの。その現場にエキストラとして呼ばれた大勢の若い女性のひとりが、シバタだったのだ。英語の映画が日本で撮影されることはあまり多くないが、その珍しいことが起きたおかげで生まれた愛だといえる。

主演スターとエキストラのロマンスは稀ながら、そんなふうに日本をはじめアジアの国でもっと撮影がなされるようになれば、あるいは、アメリカの映画、テレビ、配信作品でアジア系の活躍が今後も増えていけば、アジア系と別人種のカップルもまた増えていくのではないか。

アメリカのエンタメ界で存在感が薄かったアジア系

そう遠くない昔、アメリカの映画やテレビでアジア系を見ることはめったになかった。カメラの後ろでも、存在感はあまりなかったものだ。しかし、ハリウッドが多様化に向けて真剣な努力を重ねるようになったおかげで、少しずつアジア系にもチャンスが与えられるようになってきた。

そんな中で、アリ・ウォンのように、コメディアンになるだけでも珍しいのに、作品をヒットさせて数多くの賞を受賞するというアジア系女性が出てくるようになったのである。

一番大事なのは、そこだ。アジア系が、メジャーな場で、もっと実力を発揮できるようになること。好きな仕事で優れたことをやってみせる人は、男性でも女性でも魅力的だ。誰が誰と付き合おうと自由だが、そんなふうに輝いた結果、思いもしなかった特別な人の心をつかむことになったとあれば、素敵ではないか。

(猿渡 由紀 : L.A.在住映画ジャーナリスト)