相談者さんは、兄弟の学び方があまりにも異なるために指導に悩んでいるといいます(写真:miya227/PIXTA)

【質問】

小6と小4の子どもがいます。2人の学び方が対照的です。上の子は、表面的にさらっとやりますが、深く考えることをしません。下の子は興味がある分野は深く考えて時間をかけてやりますが、その分、量がこなせずに困っています。2人の学び方があまりにも異なっていて親としてもどうやって指導してあげればいいかわかりません。

仮名:松永さん

学習スタイルにも個性がある

小6のお子さんは「水平型学習スタイル」で、小4のお子さんは「垂直型学習スタイル」ですね。この2つの学びの形態はどちらも重要ですが、子どものタイプによってデフォルト(もともと備わっている状態)が異なります。おそらく、小6のお子さんはマルチタスク型で、小4のお子さんはシングルタスク型のタイプだと推察されます(参考記事:「知って納得!人の価値観「2大タイプ」の決定的差」)。

*「水平型学習、垂直型学習、マルチタスク型、シングルタスク型」は筆者が独自に命名している名称です。

マルチタスク型とは「浅く広く認識するタイプ」で、さまざまなことに自然とアンテナが張られます。また、同時処理、同時進行ができますが、拡散している分、1つのことに深く集中することは容易ではないため、深く学ぶより全体を浅く広く学ぶスタイルをとる傾向にあります。

一方の、シングルタスク型とは「狭く深く集中するタイプ」で、一点集中型と言ってもいいかもしれません。1つのことに集中して深く入っていくため、探究的に学んでいく傾向があります。

以上の2つのタイプによって、学び方も異なります。

(1)水平型学習

「水平型学習」とは、幅広く、浅く学んでいく方法のことです。1つのことを深く考察するのではなく、関係性を知ったり、全体構造を知ったりすることに便利な学び方です。

この学び方はマルチタスク型の人がもともと備えている学び方ですが、全体像や構造がわからないと、知識の洪水でパニックになります。ですから、図にしてまとめることや、構造を「見える化」させる必要があります。それがないと、水平型学習が活かされません。

また「浅く広く学ぶことはいい学び方ではないのでは?」と思うとしたらそれは誤解です。浅く広いからこそ全体像が見えるわけです。また知る範囲が広くなるため、自分の興味関心領域に出会う確率も上がります。

例えば、水平型学習スタイルでは、歴史の勉強は漫画で全時代をさらっと読み、全体像をつかんだうえで、初めの時代から順に学んでいくと学びやすくなります。他の勉強でも、目次で全体像を見てから、今学んでいる部分を確認しながら進めていくと理解しやすいだけでなく、モチベーションも上がっていきます。

合わない学習方法を押し付けていないか?

(2)垂直型学習

この学習方法は、分野を絞り、深く掘り下げていく学び方です。実は学問は、もともとこのプロセスで出来上がっています。大学院の博士課程で書く論文はまさに、いかに狭く範囲を絞って狭く、深く掘り下げた研究をすることが求められます。筆者が東京大学の大学院博士課程にいたとき、教授から次のような話をされたことは今でも忘れることができません。

「修士論文は1冊の本の1ページを研究するイメージ。博士論文はその1ページの中の1文を研究するイメージ」

まさにこれが垂直型学習です。学問とはこのような形で研究していきます。

この学び方はシングルタスク型の人にはデフォルトで備わっている学び方です。そして1つのことを深く学んでいくと、その周辺分野を学ぶ必要が出てきます。そのようにして他分野に興味関心が広がっていくこともあります。

例えば、垂直型学習スタイルでは、歴史の勉強で例えれば、全時代の中で興味がある部分だけを学んでいきます。すると、そこから学びの範囲が徐々に広がって、全体を理解していくようになります。1ページ目から学ぶスタイルは適していません。

以上、2つの学び方についてお話ししましたが、学びの本質としては、垂直型がよいと思いますが、学校教育では幅広い分野を学ぶことが求められるため、水平型が基本となっています。

大人になると、時には水平型学びを、時には垂直型学びを、というように使いわけができるようになりますが、子どもの頃は、その子のタイプによって、デフォルト状態のままの学び方をしていくことが一般的です。

そこで、ご相談くださった松永さんのお子さんには、お子さんの特徴を活かしつつ、それぞれ次のようなアプローチをとってあげてください。

型ごとにアプローチの方法は異なる

マルチタスク型 小6のお子さん

(1)目次の全体像を見る。

(2)1つ終わったら目次の消し込み作業し、また1つ終わったらさらに消し込み作業をしていく。

(3)いつも、自分がどの部分をやっているのかを把握できるようにしておく。全体の中での自分のポジションを明確にしておきます。

(4)以上のような学びのプロセスにおいて、「面白い」と思う分野が出てきたら、そこだけを一時的に深く学びます。あくまでも「面白い」と思う分野です。深く学ぶ分野は少なくても構いません。例えば、先ほどの歴史でいえば、織田信長が面白いと思ったら、そこだけ、別の本や資料で深めていくようなイメージです。これは勉強というより、面白いからやっている状態です。この感覚で行うと、必然的に「考える」状態がやってきます。

シングルタスク型 小4のお子さん

(1)現在、興味関心がある分野をこれまで同様に深く学びます。

(2)その分野から興味の対象が広がっていけば、その流れに合わせていきます。

例えば、爬虫類の興味があった子が、その後、動物に興味が広がり、さらに生物に関心が出てくるようなイメージです。

筆者が指導していた高校生にこのような学び方をする生徒がいました。彼は、ゲームの「信長の野望」にハマり、そこから戦国武将へと発展し、日本史そのものに興味を持ち、その後、世界の歴史に興味を持ちました。教科書で勉強するスタイルではなく、本を読むことによって学んでいったのです。

当時のセンター試験では、日本史を選択しましたが、あまりにもすぐに終わってしまったので、余った時間で世界史も解いたようです。結果、日本史は満点で、世界史は自己採点で95点でした。教科書を1ページから学ぶスタイルは彼には向いておらず、興味関心分野を徹底することによって伸びたケースでした。

(3)興味がない分野をやらざるを得ないときは、ポイントの絞り込みをしてあげてください。

このタイプは、量より質を重視する傾向にあるため、重要ポイントだけをおさえていれば大丈夫と思って対応していきます。

例えば、10問の問題があったとして、そのうちの2問が最重要だとします。その2問だけを完全に理解するようにします。すると、他の8問をやらずとも、解けるようになっていることが起こります。このポイントの絞り込みは小学生ではまだ自分でできないと思いますので、親がサポートしてあげるといいでしょう。

もちろん、すべての問題ができればそれに越したことはありませんが、1点集中型のタイプはこのような重要ポイント絞り込みから入ったほうが伸びていきます。

区別ができるようになるとサポートも楽に

以上のように、子どもにもともと備わっている学びのスタイルを活かしながら、そうでない部分を少しだけ補う形で対応してあげると子どもはさらに伸びていきます。「この子は、水平型か、垂直型か」という考え方は、親御さんのみならず、子どもたちを指導する立場にいる先生たちも知っておくと子どもに合った指導ができると思います。

親は大人なので、両方の学び方を知っていると思いますが、子どもは知りません。ですから、足りない部分は上手に教えてあげればいいと思います。もともと備わっているのか、それとも後からインストールするものなのか、この区別がわかると、サポートがぐっと楽になります。


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(石田 勝紀 : 教育デザインラボ代表理事、教育評論家)