NHK+より。連日、被災地の取材を続けるNHKの現場職員たち。国の支援に何を思うのか

 元日の悲劇から2週間……。1月14日時点で、能登半島地震の安否不明者は、いまだに24人もいる。

「現地では必死で捜索が続けられていますが、土砂崩れなど道路の寸断が相次ぎ、孤立状態が続く地域があります。自衛隊のホバークラフトやヘリコプターなどが活躍し、被災地支援と捜索が続けられていますが……」(社会部記者)

 一方、1月4日にその“貴重なヘリコプター”の優先利用を求める1通の文書が総務省に送られていた。送り主は、「我国の報道機関で唯一の指定公共機関」であるNHK。放送所が停波する恐れがあるため「自衛隊のヘリ等による人員・燃料等の運搬」を求めたうえで、石油など燃料の優先割当や、優先車両の登録、交換用バッテリーなど、テレビ局として必要な機材をNHKに優先するように、総務省情報流通行政局の地上放送課長に求めている。

 この文書に対し、

「うちは、国営放送になるつもりでしょうか……」

 と嘆くのは、NHK職員だ。

「どんな災害でも、民放各局は自前のリソースで取材をやっていますよ。自衛隊頼みとはあきれます。こうやって国から“恩”を受けておいて、政府を強く批判できるのでしょうか。現場の記者たちが知っていたら、こんな要請を出すのは絶対に止めたと思います。私の周囲には、この文書に憤る職員しかいませんよ」

 この文書を受け取った総務省の課長補佐は「初めてのことです」と言う。

NHKさんから一方的に送られてきたものです。対応できるものは対応しますし、できないものにはできないというだけです。実際に、自衛隊によるNHK支局への物資の運搬はさせていただきました。民放にも必要があれば対応します。これまで災害時に、このような文書を受け取ったことはありませんね」

 一方、文書を送ったNHKに尋ねると、

NHKは災害対策基本法により、報道機関で唯一の指定公共機関とされ、被災地域における放送の維持・継続にあたって、行政機関への応援要請も含め、必要な応急措置をすみやかに実施しなければならない、とされています」

 と“錦の御旗”を掲げたうえで、停電により停波する恐れのあった放送所について、

「民放各社とともに、自衛隊に対して山頂部の放送所までの燃料と作業要員の輸送を依頼しました」と言う。さらに、自衛隊に運んでもらった燃料は事前にNHKが用意したもので、それ以外に取材活動などで便宜を受けたことはなく「燃料の運搬以外はすべてNHKが自ら対応しています」と、当然の要求だったとした。

「難しい問題です。指定公共機関になるとはどういうことか、という議論をサボってきたツケですね」

 と語るのは、日本テレビで報道に携わり、現在、上智大学文学部教授としてメディア論を教える水島宏明氏だ。

「指定公共機関は、ほかにNTT、KDDI、セブン-イレブン、コスモ石油、JRや各電力会社など、いわゆる公共的な役割を担った会社が指定を受けています。国がすすめる災害対策のなかで、指定公共機関に求められる役割は年々増えており、もちろんNHKには、放送を維持する責任があります。しかし、報道の自由・独立についても考える必要があります。本当に切羽詰まった状況以外で『うちは指定公共機関だから優先してよ』と気軽に言ったのだとしたら、あまりにも残念ですね。逆に言えば、国の支援を受けてまで放送している内容ということになるので、今回の災害報道についても、世間から厳しい目でその内容を吟味されるべきでしょう」

 立教大学社会学部メディア社会学科教授・砂川浩慶氏も、“自主・自律”が軽んじられていると語る。

「指定公共機関だからこそ、災害時にも自前で処理をするのが大前提なんです。本来、被災地に振り分けられるべき自衛隊の余力を奪うのは、言語道断でしょう」

 切実に“国の支援”を必要とする人々は、能登半島でいまも冷たい夜を過ごしているはずだ……。