アメリカの民間企業アストロボティックによる米国民間企業初の月着陸ミッション「Peregrine Mission One(PM1)」の着陸船として日本時間2024年1月8日に打ち上げられた「Peregrine(ペレグリン)」が問題に直面しています。アストロボティックやアメリカ航空宇宙局(NASA)によると、ロケットからの分離後にペレグリンの推進システムで異常が発生し、月面へ軟着陸できる見込みはないと判断されています。【最終更新:2024年1月11日12時台】


【▲ ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)の新型ロケット「ヴァルカン」のフェアリングに格納されるアストロボティックの月着陸船「ペレグリン」(Credit: ULA)】

PM1のペレグリンは日本時間2024年1月8日16時18分に米国フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地からユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)の新型ロケット「Vulcan(ヴァルカン、バルカン)」初号機で打ち上げられ、発射約50分後に月へ向かう軌道に投入されました。


機体にはNASAの5つの科学機器をはじめ、カーネギーメロン大学の小型月探査車や日本の民間企業のタイムカプセルなど、NASAの商業月輸送サービス(CLPS)の下で合計21のペイロードが搭載されています。アメリカの民間企業で開発された月着陸船の打ち上げは今回が初めてです。


関連記事:ULA、新型ロケット「ヴァルカン」初号機打ち上げ 月着陸船ペレグリンの分離に成功(2024年1月8日)


アストロボティックによると、ヴァルカンからの分離に成功したペレグリンとの通信はNASAの深宇宙通信網(ディープスペースネットワーク)経由で確立され、推進システムの起動と安全状態での運用を開始。しかしその後に推進システムで異常が発生し、太陽電池でバッテリーを充電するための姿勢制御が不安定になってしまいました。運用チームの努力によって太陽電池を太陽に向け直すことには成功したものの、推進剤を損失したことで月面へ軟着陸できる見込みはないと判断されています。


同社によれば、異常の原因は酸化剤タンクとヘリウムタンクの間に設けられたバルブではないかと推定されています。ヘリウムは燃料や酸化剤に圧力を加えてエンジンへ送り込むために搭載されていますが、推進システムの初期化時に一旦開かれたバルブが閉じなかったことで酸化剤タンクに大量のヘリウムが流入し、加圧されたタンクが限界を超えて破裂した可能性があるようです。また、今回が初飛行だったヴァルカンはペレグリンを計画通りの月遷移軌道に問題なく投入しており、打ち上げが推進システムの異常につながった形跡はないとしています。


【▲ アストロボティックの月着陸船「ペレグリン」のペイロードデッキに搭載されているカメラで撮影された画像(Credit: Astrobotic)】

月面へ軟着陸できる可能性はなくなったものの、アストロボティックは可能な限りペレグリンの寿命を延ばしつつデータの収集に取り組んでいます。日本時間2024年1月9日6時すぎにはペレグリンに搭載されているカメラで撮影された1枚目の画像が、日本時間2024年1月10日8時頃には2枚目の画像が公開されました。2枚目の画像の右上隅には三日月状に見える地球の一部が写り込んでいる他に、中央下には日本の民間企業によるポカリスエットの容器を模したタイムカプセルも写っています。


【▲ アストロボティックの月着陸船「ペレグリン」のペイロードデッキに搭載されているカメラで撮影された画像。右上隅に三日月状の地球の一部、中央下にポカリスエットの容器を模したタイムカプセルが写っている(Credit: Astrobotic)】

日本時間2024年1月11日8時半頃にアストロボティックから発表された最新情報によると、ペレグリンは地球から約20万km離れた位置を飛行しています。バッテリーは完全に充電された状態を維持しており、推進剤の残量は約36時間分と予想されています。日本時間2024年1月9日11時すぎの時点では推進剤は残り約40時間分とされていましたが、その後も段階的に予想が更新され続けています。ただ、1月9日の時点ですでにペレグリンの姿勢制御スラスターは耐用寿命を大幅に超えて作動し続けているとされていることから、推進剤を使い切るまで運用できない可能性もあるとみられます。


PM1のペレグリンに関しては新たな情報が発表された後に改めてお伝えします。


 


※更新にあわせて記事タイトルと本文を変更しました。


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文/sorae編集部 速報班