井上尚弥のタパレス撃破を識者はどう見た?井上の第二の師匠が見解「距離の取り方とジャブの当て感が際立っていた」
タパレスは強烈な井上のパンチを殺していたが、やはりダメージの蓄積は大きかった(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext
モンスターたる所以を存分に見せつけた。
12月26日に東京・有明アリーナで世界スーパーバンタム級の4団体王座統一戦12回戦が行われ、WBC&WBO王者の井上尚弥(大橋)が、WBA&IBF王者のマーロン・タパレス(フィリピン)に10回1分2秒KO勝ち。史上2人目&史上最速となる「2階級4団体統一」を成し遂げた。階級を上げて2戦目での偉業達成は、識者の目にどう映ったのか。ロンドン五輪ボクシング・フライ級日本代表であり、井上が「第二の師匠」として慕う、須佐勝明氏に話を聞いた。
【画像】井上尚弥が圧巻KO勝ちで”モンスター”ぶりを見せつけた4団体統一戦のド迫力シーンをチェック
◆ ◆ ◆
早いラウンドでのKOとはなりませんでしたが、順当に井上選手が完勝しましたね。勝利のポイントになったのは、距離感をしっかりキープできていたこと。例えば、接近戦が多すぎたりといった偏った展開になると、どうしてもリズムが変わってきてしまう。しかし、井上選手はそうはさせずに、いつも通りに自分の距離をキープして主導権を握っていました。あの遠い距離感でのボクシングは、他の人にはなかなかできない。相手にとっては未知の距離なんです。その距離をキープして、井上選手のパンチだけが当たる状態を作り、ジャブで照準をあわせて、最終的に倒してしまう。やはり、あの距離の取り方とジャブの当て感がこの試合でも際立っていました。
ただ、タパレス選手も予想以上にいい選手でした。戦略的にスタミナを温存しながら善戦していたと思います。
前半はタパレス選手が、井上選手のパンチを上手く殺していました。ガードを固め、体勢を低くしてスタンスを広くとり、ダメージを減らしながら打ち疲れを待つような戦い方をしていました。そこは上手かったですね。中盤のラウンドになると、井上選手の息があがっている場面も見られたくらいです。
逆に言えば、井上選手にあれだけ打たせても、力のあるパンチを返したタパレス選手の力を感じました。井上選手が試合中盤であれだけ汗をかいていたのは、今まで見た記憶がありません。それだけ相手にも圧力があったのでしょう。井上選手自身もインタビューで言っていましたが、タパレス選手はポーカーフェイスというか、対戦している選手も効いているのか分からないくらい、タフな相手だったんだと思います。
井上選手は階級を上げてまだ2戦目なので、相手のパワーに対する”怖さ”もあったでしょう。そのプレッシャーを強く感じるのは必然だと思うんです。しかし、そうした要因があったとしても、あのパーフェクトヒューマンを相手に好勝負ができるなんて、タパレス選手の地力を感じました。
ただ、そういった相手にもしっかり勝ち切るのが井上選手の強さ。まだまだ底が見えません。例えば、井上選手がパンチをもらった時にガードがブレるとか、そういう場面が出てきたら『階級の壁が来たか』と感じると思うのですが、今はそうした様子はまったく見えません。相手のパンチをしっかりガードできていて、身体がブレることがない。つまり、まだ一番”キツイ状態”ではないということです。本人は「1、2年はスーパーバンタム級でやる」とインタビューで言っていましたが、そこで基盤を作っていけたら、まだまだ階級を上げるチャレンジができるんじゃないかという期待はあります。
今回の4団体統一で、また世界的な評価が上がり、井上選手の価値が上がったことは間違いないでしょう。メディアではサウジアラビアでの興行など様々な話が出ていますし、今後はさらに大きな注目を集めるはずです。
スーパーバンタム級は世界的に見れば人口的なヒエラルキーは大きくありませんが、それでも井上選手に対する注目度は図抜けています。メイウェザーのように、1試合で何百億という金額を稼げるようになったら夢がありますよね。井上選手はそれができる存在になりつつあると思います。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
【解説】須佐勝明(すさ・かつあき)
1984年、福島県生まれ。会津工業高校から東洋大学へ。2012年、自衛隊体育学校所属時にロンドン五輪に出場。ロンドン五輪ミドル級金メダリストの村田諒太は東洋大学の1学年後輩にあたる。株式会社AYUA代表取締役。日本ボクシング連盟理事。SUSAGYM会長。アジアコーチ委員会委員長。共同通信社ボクシング評論担当。会津若松市観光大使。ほか。