娘のヴィヴィアンと歩くアンジェリーナ・ジョリー(写真:The Image Direct/アフロ)

昨日までアメリカは感謝祭の4連休だった。映画にもよく出てくるように、この日、アメリカでは家族が集まり、大きな七面鳥やパイなどの食事を楽しむ。

かつて、ブラッド・ピットも、この日は6人の子供たちと楽しく食卓を囲んでいた。だが、2016年の秋、アンジェリーナ・ジョリーに離婚を申請されてから、すべてが変わった。7年経つ今も親権争いは終わらず、その間、ほとんどの時間をジョリーと過ごす子供たちの父に対する思いは複雑になっている。

つい最近は、長女ザハラちゃんが、ラストネームを「ジョリー=ピット」から「ジョリー」に変えたことが判明した。娘に嫌われていることをこんな形で知らされたピットは、さぞ悲しかったことだろう。

共同親権を認めたくないジョリー

争いをこじらせているのはジョリー。その根底には、ピットが最も大事にするものを奪いたいという執念があるように見える。ふたりは結婚時に婚前契約(pre-nup)を交わしているし、アメリカでは共同親権が一般的なので、大人の解決を図ることもできたはずだ。だが、ジョリーは子供たちが父親と仲良くするのが絶対に嫌なようなのである。

そこにエネルギーを注いできているからというわけではないかもしれないが、ジョリーの女優としてのキャリアは、ここのところ、ぱっとしない。2019年の『マレフィセント2』はそこそこヒットしたものの、声の出演をしたアニメーション映画『ゴリラのアイヴァン』は最近、Disney+のラインナップから外されてしまった。

2021年の主演作『モンタナの目撃者』は、コロナ禍とはいえ世界興収わずか1900万ドルで、話題にもならなかった。同じ年の秋には『エターナルズ』に出演するも、これまた全世界興収4億ドルと、マーベル作品の中では芳しくない結果に。これは今年の『マーベルズ』、2008年の『インクレディブル・ハルク』に次ぎ、マーベル史上で下から3番目の成績だ。以後、これまでに彼女の出演作は1本も公開されていない。

対して、ピットは離婚申請された後の2019年に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でアカデミー賞助演男優賞を受賞し、プロデューサーとしても『ミナリ』などの作品を成功させている。

ジョリーのほうは、慈善活動には相変わらずたずさわっており、「Time」に記事を寄稿したり、アムネスティ・インターナショナルと本を共著したりしている。また、近年監督業に力を入れてきたジョリーは、最近、『Without Blood』を撮り終えてもいる。しかし、選ぶ題材が地味なせいもあるが、監督としての彼女は決してヒットメーカーとは言えない。

ピットと結婚していた頃にふたりで共演した『白い帽子の女』は、このスーパーカップルが出演するというのに、1000万ドルの予算に対し北米興収はわずか9万6000ドルと、悲惨な結果に終わった。

『Without Blood』の撮影現場では、長男マドックス君と次男パックス君も仕事をしたが、マドックス君は、生まれ故郷であるカンボジアで撮影されたひとつ前の監督作『最初に父が殺された』の現場でも働いている。

ピットは離婚後も歩み寄りの姿勢を見せたが…

離婚申請された1年後に公開されたその映画のことを、ピットは当時、インタビューで「とても良い作品」だと誉め、元妻と息子へサポートする姿勢を見せた。また、ピットは、ジョリーが子供たちと住む家を買おうとした時、800万ドルを貸してあげてもいる。自分に悪いところがあったことも公に認めたし、酒もきっぱりやめた。

しかし、ジョリーのほうは、そんな元夫の歩み寄りに応じるつもりはまるでない。それどころか、ピットについて悪口を公言し続けてきている。別居して以来、養育費を満足に払っていないと公に責めたし(ピット側はこれに対し強く反論している)、自分が過去にセクハラを受けたと知っていながら、ピットがハーベイ・ワインスタインと仕事をすることを選んだ時のことを振り返って「とても傷ついた。悲しかった」とメディアに語ったりしている(ピットは、ジョリーとカップルだった間にワインスタインが配給する『イングロリアス・バスターズ』『ジャッキー・コーガン』に出演している)。


2008年のカンヌ国際映画祭にて。この頃は仲が良かった(写真:ロイター/アフロ)

また、離婚申請の引き金となった、プライベートジェットの中でピットからDVがあったという主張も、機会があるごとに引っ張り出している。この出来事の直後にはFBIや児童擁護の団体が捜査をし、問題はなかったと判断された。しかし、ジョリーはそれに満足しておらず、彼をDV男として世間に知らしめたいようだ。

離婚裁判の最中の2021年、ジョリーは「DVがあったという証拠はある」と裁判所に新たな書類を提出して注目を集めたし、ワイナリーをめぐる訴訟にも、その件を持ち出した。

カップルだった頃、ピットとジョリーは南仏にワイナリーのある不動産を購入し、ピットはこのプロジェクトに全力を注いだ。その結果、彼のロゼワイン「シャトー・ミラヴァル」はアメリカのスーパーやワインショップで必ず見かける人気ブランドになった。

ワイナリーの半分の権利はロシア企業に

だが、ジョリーはピットに相談することなく、自分が所有する50%の権利をロシアのストーリ・グループに売ってしまったのである。ピットによれば、ジョリーはこのワイナリーにほとんど関与しなかったし、投資した額もピットのほうが5000万ドルは多かった。ジョリーは、彼が手塩にかけたそのブランドの半分を渡す相手としてロシア企業を選んだのだ。

ピットがこの件でジョリーを訴えると、ジョリーは、当初、「自分のシェアはピットに売るはずだったのだが、ピットがDVについて口外しないことを条件にしてきたため、売買が成立しなかった」と反論した。その書類の中で、彼女は、プライベートジェットの中で受けたという暴力をこと細かに描写している。

もし彼女の言う通りであればピットは相当にひどい男だ。しかし、ピットに近い人は、「L.A.Times」に対し、「彼女は6年前のことを、ありもしなかったことを付け足しながら、焼き直し、想像し直し、書き直しては嘘を言い続ける。自分が望むものを手に入れるまでそれをやるのだ」と語っている。秘密保持条件について話が出たのは事実ながら、DVとはまるで関係なく、ビジネスの内容についての基本的なものだったという。

だが、一方がどんなに嫌がっても、もうひとりの親に問題がないとわかれば、アメリカの裁判所はいずれ共同親権を認める。ピットは酒もやめたし、行動面での評価も良かったので、最終的に半分の親権が与えられるのは避けられないと、ジョリーはわかっていたはずだ。

しかしジョリーはそれを断じて受け入れたがらず、この裁判を「担当した判事がピットの弁護士とビジネス関係にあった」と指摘し、不適任だったと主張して、この判決を取り消しにしようとした。ピット側は、「彼の弁護士とこの判事の関係は隠されていたわけではなく、最初からわかっていたものだ」と反論したが、カリフォルニア州の最高裁はピットの主張をしりぞけた。

ピットに近い別の人によれば、ピットは周囲に「彼女は子供たちが全員18歳になるまで親権争いを引き延ばし、子供たちが父親とは何のかかわりも持ちたくないと思うようになるよう持っていくつもりだ」と話しているらしい。

子供たちは母の側に

そして、ピットの言う通り、事態はジョリーの思惑通りに向かっているようだ。ジョリーの連れ子だった長男マドックス君は最初から母親の味方で、破局以来、ピットとは疎遠のまま。次男パックス君は、2020年、インスタグラムに「世界級の酷い男へ、父の日おめでとう」と投稿した。長女ザハラちゃんは、前述した通りラストネームから「ピット」を外したし、次女シャイロちゃんは母と慈善活動のイベントに参加するのが好きで、母娘の絆を深めているようである。一方、一番下の双子は現在15歳。定期的に面会はしていても、日常生活に父がほぼいない状況で人生の半分を過ごしてきたことになる。

3年後、全員が親権の対象外になり、定期的に父と面会する必要もなくなったら、ジョリーが願うように、彼らは父とかかわらないで生きようとするのだろうか。

そうなったら、ジョリーはきっと満足するだろう。しかし、大人になった彼らのうち何人かが、将来いつか「今年の感謝祭はパパと過ごそう」と思ってくれる日が来ることを陰ながら願いたい。

(猿渡 由紀 : L.A.在住映画ジャーナリスト)