これで会議の沈黙がゼロに…MC明石家さんま・有吉弘行がしている"集団トーク"に花を咲かせる話術以前のワザ
※本稿は、渡部建『世界一わかりやすい コミュニケーションの教科書』(きずな出版)の一部を再編集したものです。
■みんなのアイデアを引き出すための超簡単な方法
ミーティングや会議などで「なにか意見のある人はいませんか?」と聞いても、誰も手があがらない、発言しないで、議論が盛り上がらないことは日常茶飯事でしょう。
こんなときに大事なのは、まず自分がなにかひとつアイデアを出すこと。いわば、たたき台を自分が提供するということです。
そもそも、まったくのゼロベースでなにか発言するのは難易度が高いことです。そのため、いちばん大変な「先陣を切る役目」を自分が引き受けることで、ほかの人の発言を引き出すことができます。このとき、アイデアの質はまったく問いません。むしろ、あまりよくないアイデアのほうがいいくらいです。
たとえば私も、番組の打ち合わせで、若い作家さんがあまりよくないアイデアを出してきたほうが、「いや、それだったらこっちのほうがいいよ」など、そこから議論が発展してきた経験があります。
とにかく大事なのは、まず「一つ目のアイデア」を出すこと。そのアイデアが良いものか悪いものかは、問われません。一つ目のアイデアが呼び水となって、ほかの人からもアイデアが出てくるようになるのです。
■誰かが発言したら…明石家さんまや有吉弘行がすること
会議を活性化させるためには、参加者全員が「自分が発言してもいいんだ」という心理的安全性をもてることが非常に重要です。逆に「こんなことをいったら、バカにされるんじゃないか」という不安がある状態では、活発な発言なんてできるわけがありません。
心理的安全性を確保するために大事なことは、誰かが発言したら、すかさずポジティブに反応するということです。私はこれを「ポジティブリアクション」とよんでいます。
明石家さんまさんや有吉弘行さんなど、人気の司会者は、テレビ番組を見ているとよく笑いますよね。あれも、どんな人の発言であってもまず司会者である自分が率先して笑うことで「どんなことを発言してもいいんですよ」という心理的安全性を共演者の人たちに提供している役割を持っているわけです。
会議やミーティングもこれとまったく同じ。どんな発言であっても、無視されたり否定されたりせず、ファシリテーターである自分が意見の一つとしてちゃんと受け止めますよ、と示すことが、全体の議論を活性化させるために必要なのです。
■ネガティブなものもポジティブに変換
もちろん、たくさんの人が参加している会議やミーティングだと、ちょっと筋違いの発言が出たり、議論を停滞させてしまうような発言が出てくることもあると思います。
そのような発言にも、すべてポジティブに返答することが大切です。そんなときに役立つ、ネガティブなものをポジティブにする言い換えです。
たとえば、こんな感じです。
●視野が狭い → 一つの物事を深く考えられる
●ありきたりでつまらない → 王道、定番
●的外れ → 別の角度から物事を考えられる
●話がダラダラ長い → 丁寧な説明
●心配性 → リスク管理がしっかりしている
●消極的 → 慎重、思慮深い
●出しゃばり → 積極的
●無謀 → チャレンジング
●重箱の隅をつつく → こまかい点にもよく気がつく
会議やミーティングで大切なのは、もちろん参加している人たちからたくさんの意見・アイデアをもらうことですが、じつはそれに加えて「参加者の一体感を高める」ということが真の目的でもあります。
だからこそ、参加している人たちが誰も「他人事」にならないように、発言できる環境を整えることがファシリテーターの大事な仕事なのです。
■会議の目的は「よいアイデア・結論」を出すことではない
自分以外の他人のモチベーションを引き上げることはとても難しいことで、ある程度の強制力を発揮する必要があります。
たとえば会議や打ち合わせであれば、
「次の会議では○○について、みなさん一人ずつに意見をもらおうと思っています。一言ずつでいいので、準備しておいてください」
と事前に伝えておくなどしましょう。
このやり方、いろいろなメリットがあります。まずは、なかなか発言しない人からも意見を引き出すことができます。そしてもう一つは、世間話をしたり、話が長くなりがちな人の話を制止する理由にもなります。
話が長くなりそうになったら、
「すみません、今回は参加者全員から一言ずつ意見をもらうことにしているので、いったん次の方の意見を聞いてもいいですか」
といって、切り上げやすいということです。
そして最後に、全員がなにかしらの発言をすることで、参加した人たちの当事者意識を高めることができる、というメリットもあります。
むしろ私は、参加者全員からの意見を集めることは、このモチベーションアップの効果のほうがずっと大きいと感じています。
■意見やアイデアのほとんどは採用されない
正直なところ、いいアイデアというのは、いろいろな人から集めたところでたくさん集まるものではありません。世の中のヒット商品と呼ばれるようなものは、個人のちょっとした思いつきから生まれたことが多いです。
たくさんの人が集まってアイデアを練り合わせても、それがいいものになるわけではない、ということは、社会人の方ならなんとなく実感することも多いのではないでしょうか。アイデアというのは、1をたくさん集めても、それが10になったり100になったりはしないものです。
だから、いいアイデアを出すという目的だけあれば、じつはセンスのいい、勘所のある人のワンアイデアだけで結論がついてしまう、むしろそのほうが効率的でエッジの立ったものになる、ということがあります。
でも、それでは、そのアイデアを実行に移すときに参加するメンバーのモチベーションは高まりません。誰かが考えたアイデアを実現するためのお手伝いにすぎない、というような意識が働いてしまうからです。
だからこそ、どんなにつまらなくても、凡庸(ぼんよう)でもいいから、全員からまずは一度意見を出してもらうというプロセスが大事になるのです。
おそらく、最終的に半分以上の人の意見はまったく取り入れられないような結果になってしまうこともあるでしょう。でも、少なくとも一度は自分のアイデアが議論の俎上(そじょう)にのぼったという事実が大事なのです。
会議というのは、いい結論を出すことだけが目的なのではなく、むしろその結論に至るまでのプロセスをみんなで共有し、やろうと決めたアイデアを実現させやすくすることにこそ価値があります。
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渡部 建(わたべ・けん)
お笑い芸人
1972年、東京・八王子生まれ。1993年、神奈川大学在学中に高校の同級生であった児嶋一哉に誘われ、お笑いコンビ「アンジャッシュ」を結成。2003年、NHK「爆笑オンエアバトル」5代目チャンピオンに輝き、日本テレビ「エンタの神様」などのネタ番組では“コント仕掛け”のスペシャリストと呼ばれる。その後は数々の人気番組の司会を務め、現在はコミュニケーションをテーマにした企業向けの講演などを積極的に行っている。著書に『ホメ渡部!「ほめる奥義」「聞く技術」』(小学館)、『大人のための「いい店」選び方の極意』(SB新書)などがある。
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(お笑い芸人 渡部 建)