健康診断で「クレアチニンが低い」と言われたら筋疾患の可能性が?医師が解説!

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健康診断でクレアチニンが低いと言われたらどうすべき?Medical DOC監修医が血液検査の見方や基準値・主な原因と病気のリスク・対処法などを解説します。

健康診断・血液検査で「クレアチニンが低い」と診断されたときに考えられる原因と対処法

健康診断や採血検査でクレアチニン値が低い場合、どうなるのでしょうか?原因や対処法について解説いたします。

クレアチニンが低いと診断されたときに考えられる原因と病気のリスク・対処法

筋肉を動かすためのエネルギーを蓄える物質であるクレアチンリン酸が、代謝されてできる老廃物がクレアチニンです。クレアチニンは、体に不要なため腎臓から排出されますが、腎機能が低下すると体内に残り、値が高くなります。そのため、腎機能の評価として使われることが多いのですが、体の筋肉量が非常に少ない場合には腎機能が正常にもかかわらず、クレアチニン値が低くなることもあります。体格が小さい方、女性や高齢者で筋肉量が少ない場合がこれにあたります。そのほかに、筋肉量が減ってしまうような筋炎や筋ジストロフィーなどの筋肉の病気が潜んでいる可能性もあります。

クレアチニンが低く尿素窒素が高いと診断されたときに考えられる原因と病気のリスク・対処法

タンパク質が代謝されるときにできる尿素は腎臓から排泄されますが、腎臓の機能が低下すると、十分に排泄されなくなり血液中に残ってしまいます。尿素中の窒素を測定した値が尿素窒素です。尿素の腎臓での排泄能力が分かるため、腎機能を評価することができます。尿素窒素は腎臓の排泄能力以外にも、脱水、消化管出血、蛋白の摂取量が多い場合にも影響されて高くなります。同じく腎機能を評価するクレアチニンが低いにも関わらず尿素窒素が高い場合、以下のことが考えられます。

筋肉量が少なく、本当は腎機能が悪い(高齢者、女性、筋疾患で筋肉量が少ない人の腎不全)

腎機能は低下していないが、消化管出血がある

腎機能は低下していないが、蛋白の摂取量が多い

これらに当てはまらないか考え、気を付けましょう。

女性でクレアチニンが低いと診断されたときに考えられる原因と病気のリスク・対処法

女性の場合には、男性と比較し筋肉量が少ないためクレアチニンが低値となることが多いです。クレアチニンのみでは腎機能を正確に評価できない時には、eGFRやクレアチニンクリアランスなどで評価することが勧められます。クレアチニンが低くとも腎機能が低下している場合もあり、注意が必要です。やせ型で筋肉量が少なすぎる場合には、適度な運動、適度なたんぱく質摂取を心がけましょう。

男性でクレアチニンが低いと診断されたときに考えられる原因と病気のリスク・対処法

男性でクレアチニンが低い場合には、通常より筋肉量が低下している可能性が高いです。筋肉量が低下する筋ジストロフィーなどの筋肉疾患も考えられます。立ち上がりにくさなど、筋力の低下を自覚する場合には、神経内科を受診しましょう。異常がなかった場合には、筋肉量を増やすために、適度な運動、タンパク質の摂取が勧められます。

小児(子供)でクレアチニンが低いと診断されたときに考えられる原因と病気のリスク・対処法

小児のクレアチニン値の基準値は出生直後、母親と同程度ですが、数日後には0.4mg/dL程度となり、一歳代で0.2mg/dL程度となった後に、成長に伴い徐々に上昇し、思春期あたりの急激な筋肉量の増加と合わせて急上昇して、成人と同じ値となります。このように年齢による変化があり、また男女差が大きいためクレアチニン値の異常が判断しづらいです。クレアチニンが低いと心配される場合には、小児専門医での診断を受けましょう。体格が小さい場合には年齢よりクレアチニンが低めとなることも考えられます。バランスの良い食事、適度なたんぱく摂取、十分な運動を心がけましょう。

高齢者でクレアチニンが低いと診断されたときに考えられる原因と病気のリスク・対処法

高齢者でクレアチニンが低い場合には筋肉量の低下が疑われます。歩行速度がゆっくりになることで気が付くこともあります。高齢者では運動量が減り、骨格筋量の低下と筋力の低下が起こりやすいです。この病態をサルコペニアといいます。サルコペニアとなると転倒、骨折などのリスクが高まり、死亡リスクも上がると報告されています。1日適正体重1kg当たり1.0g以上のたんぱく質の摂取がサルコペニアの発症予防に有効といわれています。栄養を充分にとり、適度な運動をすることがとても大切です。

健康診断の「クレアチニン」の数値の見方と再検査が必要なクレアチニンが低い診断結果

ここまでは診断されたときの原因と対処法を紹介しました。
再検査・精密検査を受診した方が良い結果がいくつかあります。
以下のような診断結果の場合にはすぐに病院に受診しましょう。

「クレアチニン」の基準値

クレアチニンの基準値は下記のようになっています。

基準範囲

男性0.65-1.07mg/dL

女性0.46-0.79mg/dL

クレアチニンは筋肉量により変わるため、男女で基準値が異なります。基準値を下回った場合に低値と判断されます。

「クレアチニンが低い」ときの数値と再検査内容

クレアチニンが低く、筋力の低下などの症状を伴う場合には、採血検査にてCK(クレアチニンキナーゼ)の上昇がないかを測定します。また、CKの上昇も伴い、筋ジストロフィーなどの筋肉疾患が疑われる場合には、通常神経内科専門医へ紹介され、さらに詳しく検査を行うこととなります。専門医では、筋電図などを含めた検査を行います。筋力の低下などの自覚症状がある場合には、早めに受診しましょう。

「クレアチニンが低い」ときに考えられる病気・疾患

ここではMedical DOC監修医が、「クレアチニンが低い」に関する症状が特徴の病気を紹介します。
どのような症状なのか、他に身体部位に症状が現れる場合があるのか、など病気について気になる事項を解説します。

筋ジストロフィー

筋ジストロフィーとは、蛋白質の遺伝子に変異が生じたことにより起こる遺伝性の病気です。筋肉が障害され、筋力低下や機能障害が起こります。この病気に対する根本的な治療薬はまだありませんが、新しい治療薬の開発が行われています。筋ジストロフィーは単に筋肉の障害のみではなく、筋肉が障害されることにより症状が進行すると、嚥下機能や心機能、呼吸機能など、多岐にわたる障害がみられます。筋ジストロフィーの場合、筋トレはかえって筋肉を傷めてしまうため勧められません。しかし、ストレッチなどの関節可動域訓練は痛みや変形を防ぐ効果が期待されます。クレアチニン値が低い、筋肉の障害に伴いクレアチニンキナーゼが高値、筋力低下、転びやすいなど筋肉の症状がある場合には、一度内科で相談し、専門である神経内科を紹介してもらいましょう。また、専門家の指導の下で早期からのストレッチ運動などを検討しましょう。

「クレアチニンが低い」ときの正しい対処法・改善法は?

クレアチニンが低い時、筋肉量が少なくなっている可能性があります。筋肉量が少なくなっている原因が筋ジストロフィーなどの筋肉の病気であれば、無理なトレーニングは勧められません。医師の指示のもと、ストレッチなどの関節可動域訓練を行いましょう。筋疾患がない場合には、運動量の低下や低栄養による筋肉量の低下が考えられます。適度な運動、十分な栄養を摂取しましょう。特にタンパク質を充分に摂取することが勧められます。

「クレアチニンが低い」についてよくある質問

ここまで症状の特徴や対処法などを紹介しました。ここでは「クレアチニンが低い」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

クレアチニン(Cr)が低いとどうなりますか?

伊藤 陽子 医師

クレアチニンが低いのみでは異常とは言えませんが、筋肉量の低下が疑われます。筋肉量の低下が栄養不足に伴って起こるサルコペニアでは、転倒の危険性が高くなり生命予後にも影響すると言われています。通常は高齢者で起こりますが、若いうちから食事摂取が不十分で栄養状態が悪く筋肉量が少ない場合には注意が必要です。また、筋力の低下を伴う筋ジストロフィーなどの筋疾患の可能性も考えられ、食事摂取が問題ないにも関わらず、筋肉の低下を自覚する場合には病院で相談してみましょう。

健診でクレアチニンが0.4mg/dLだとどんな病気の危険性がありますか?

伊藤 陽子 医師

性別、体格、年齢により異なりますが、通常より筋肉量が低下したサルコペニアや筋ジストロフィーなどの筋肉疾患が疑われます。クレアチニン値のみでは判断ができないため、病院で相談してみましょう。

クレアチニンクリアランスが低いと腎臓が悪い状態でしょうか?

伊藤 陽子 医師

クレアチニンクリアランスとは、クレアチニンの腎臓での排泄能力を計算したもので、より正確に腎機能を評価することができます。クレアチニンクリアランスが低いということは、腎臓の排泄能力が低下していることを言い、腎臓が悪い状態を指します。この排泄能力が低下している場合には、クレアチニンは高くなります。

血液中のクレアチニンを上げるにはどうしたらいいですか?

伊藤 陽子 医師

クレアチニンが上がることが一概に良いわけではありません。例えば、脱水となるとクレアチンが上がりますが、体に良いわけではありません。クレアチニンを適切に上げるためには、筋肉量を改善するために適切な運動とたんぱく質の摂取が勧められます。しかし、筋疾患がある場合には主治医に相談しましょう。

クレアチニンが低いのは食事で改善できますか?

伊藤 陽子 医師

栄養状態の悪化や運動量の低下によるサルコペニアが疑われる場合には、たんぱく質の摂取を一日適正体重1kg当たり1.0g以上摂取することでサルコペニアの発症を予防できると報告されています。十分な栄養を取ることが大切です。

まとめ 健康診断で「クレアチニンが低い」と言われたら十分な栄養と運動を!

クレアチニンが低いのみでは、異常がないこともありますが、病気の初期症状である可能性があります。一つは筋疾患の可能性です。筋ジストロフィーなどの筋肉疾患により筋肉量が低下している可能性があります。二つ目は栄養不足、運動不足による筋肉量が低下している可能性です。サルコペニアの前兆の可能性も考えられます。体格が小さい方では基準値よりクレアチニンが元々低いこともあり、病気ではない可能性も高いですが、上記のような病気の初期症状であることも考え、筋力が落ちてきたなど自覚症状がある時には、病院を受診しましょう。

「クレアチニンが低い」で考えられる病気

「クレアチニンが低い」から医師が考えられる病気は7個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

神経内科の病気

筋ジストロフィー

サルコペニア

多発性筋炎(病期による)

筋委縮性側索硬化症(病期による)

その他の病気

栄養失調

長期臥床

妊娠

クレアチニンが低い場合には、筋肉疾患もしくは、栄養不足、運動不足による筋肉量の低下が疑われます。栄養不足や運動不足の自覚がある場合には、十分な栄養と適度な運動をしましょう。立ち上がりがうまくいかないなど、筋力の低下の自覚がある場合には病院へ受診しましょう。

参考文献

小児の腎機能評価(日本小児泌尿器科学会)

サルコペニア診療ガイドライン.(日本サルコペニア・フレイル学会)

臨床検査のガイドラインJSLM2021(日本臨床検査医学会)

筋ジストロフィー(日本神経学会)