三笘薫が見せたS級プレー ブライトンは経験不足を克服して欧州戦線に踏みとどまれるか
欧州ランク1位のプレミアリーグで昨季6位だったブライトン。実力的には全欧州のトップ20以内に入りそうなチームと考えられる。実際、ブックメーカー各社はヨーロッパリーグ(EL)の優勝予想で、ブライトンをリバプールに次ぐ2番手に挙げていた。だが、ブライトンは開幕節で昨季のギリシャリーグ(欧州ランク20位)の覇者、AEKアテネに2−3で競り負けてしまう。まさかの敗戦スタートを切ることになった。
続く第2節はマルセイユとのアウェー戦。昨季のフランスリーグ(欧州ランク6位)の3位ながら、今季は開幕から7戦した段階で12位に低迷している。監督交代が行なわれたばかりで、とても難敵には見えなかった。
ところがブライトンは前半19分と20分、マルセイユに連続ゴールを許してしまう。このまま終われば2連敗。グループリーグ突破の可能性は大きく減退する。優勝予想で2番人気の看板は吹っ飛ぶことになった。
マルセイユ戦にフル出場、1アシストの三笘薫(ブライトン)
欧州カップ戦初出場。監督のロベルト・デ・ゼルビにはシャフタール・ドネツク時代、チャンピオンズリーグに駒を進めた経験はあるが、クラブとしては初の挑戦だ。AEKアテネ戦に続き、マイペースで戦えずにいる姿を見せられると、ブライトンのクラブとしての経験値の低さを思わずにはいられなかった。
昨シーズン躍進を遂げ、欧州カップ戦出場を果たしたものの、試合増による過密日程に耐えかねて必要以上に成績を悪くするチームを、これまでにいくつも見てきた。監督が退任に追い込まれたケースも珍しくない。問われているのは選手層で、勝ち抜くためにはまさに使える選手が2チーム分必要になる。
ブライトンも過密日程に備えてこのオフ、多くの選手を獲得した。だが、ELの優勝予想で2番手に推されるチームにしては、それでも数が少ない。柱になる選手も不足している。この日、1トップ下で先発したアンス・ファティといえば、バルセロナでプレーした欧州的に名の知れた選手である。しかし、見せ場を作ることなく後半17分という早い段階でベンチに退いている。知名度と活躍度が一致しない状態にある。
【後半になって訪れた見せ場】
三笘薫のベンチスタートを予想する地元メディアは多かった。5日前に行なわれたアストンビラ戦にフル出場したことに加え、この後、中2日でリバプール戦を控えているからだ。7日で3試合はさすがにキツい。
さらに言えば、それが終わると代表戦ウィークで、三笘は日本に帰国して2試合(カナダ戦、チュニジア戦)を戦う。それが終わると、今度はマンチェスター・シティ戦が待ち受ける。マルセイユ戦は本来、三笘を休ませるべき試合だった。だが三笘の名前はスタメンにしっかり存在した。挙げ句、90分間プレーすることになった。ブライトンの弱みは三笘の出場時間の長さに見て取ることができる。
マルセイユに2−0とリードされた前半は、三笘のプレーも鳴かず飛ばず、だった。まともにプレーする機会がなかった。パスが回ってこなかったのだ。ブライトンは身動きが取れない状態にあった。そのパスサッカーはマルセイユの陣形にスッポリと嵌まっていた。
三笘にとっては、もはや相棒的な存在となっているペルビス・エストゥピニャン(エクアドル代表)の故障欠場が痛かった。この日、左SBでプレーしたのは本来右サイドが主戦場のタリク・ランプティ(ガーナ代表)で、コンビとしての魅力が発揮されるまで54分間も費やすことになった。
後半9分。そのランプティがスローインから左のタッチライン際をスルスルと突破。ゴールライン際まで到達したところで三笘に戻すように短いパスを出した。すると三笘は、今度は俺の番だとばかり再び縦方向に突破。敵陣の最深部に進出し折り返した。ゴール正面で構えたパスカル・グロス(ドイツ代表は)は、このマイナスボールをインサイドでプッシュするだけだった。ブライトンが1点差に迫った瞬間である。
三笘の見せ場は後半28分にも訪れた。
自軍ゴール前でボールをカットしたブライトンは、相手のプレスをかいくぐるように低い位置でショートパスをつなぐ。前方に視野が開けたのはグロスにボールが渡ったタイミングだった。得点をマークして乗っていたのか、グロスは左サイドを走る三笘に勘よく縦パスを送る。
【相手を手玉に取るフェイント】
これを三笘はトップスピードで受けるや、CBシャンセル・エンベンバ(コンゴ代表)に身体を寄せられるも、左足でシャープなインステップを枠内に蹴り込んだ。相手GKパウ・ロペス(元スペイン代表)の好セーブに遭い、得点こそならなかったが、まさに欧州のAランクに値するプレーと言えた。
だが5分後、三笘はさらにその一歩上を行くSランクと言いたくなる超高級なプレーを披露した。左サイドの高い位置で、アンス・ファティと交代で入ったジョアン・ペドロ(ブラジルU−23代表)からボールを受けるや、対峙する相手の右SBジョナタン・クラウス(フランス代表)に突っかかっていった。
ドリブルに入った瞬間から三笘はノリノリで、ツボに入っているという感じだった。何かしらのマジックが飛び出すことは読めていたが、実際のプレーはこちらの想像を凌駕した。内に行くと見せかけてグイと縦方向に舵を切る、深々とした切り返しだ。まさに180度方向変換するコンパスのようなフェイントを、簡単に繰り出せる選手はそういない。特別天然記念物に推したくなる絶品のアクションだった。
驚いたように身体を裏返しにさせられることになったクラウスの反応に、それは集約されていた。これまでのサッカー人生でも、最も手玉に取られたフェイントだったのではないだろうか。
マルセイユサポーターしかり。その熱狂的なゴール裏サポーター席の目の前で起きた出来事に目を丸くしたはずである。
ブライトンは後半43分、PKをゲット。土壇場で2−2の引き分けに持ち込んだ。エリア内をドリブルで突いたランプティを迂闊にも引っかけたのは右SBのクラウス。その反則行為は10分前、三笘にマジックをかけられた後遺症だったと見る。
ブライトンにとって幸いだったのは同じ組(B組)の別カード、AEKアテネ対アヤックスが1−1の引き分けに終わったことだ。トップの勝ち点は伸びなかった。
第2節を終了して、順位は以下の通り。
1位AEKアテネ(勝ち点4)、2位マルセイユ(2)、3位アヤックス(2)、4位ブライトン(1)
しかし、ブックメーカー各社はそれでもブライトンを、リバプール、ローマ、レバークーゼンに次ぐ、優勝予想の4番人気に推す。初めて臨む欧州戦線でブライトンはこの先、実力を発揮することができるか。クラブとしての経験不足を克服できるか。三笘のプレーともども目を凝らしたい。