子育てがひと段落して、定年退職も視野に迫った60代。いくつになっても働きたいと思う人もいれば、早めにリタイアして余生を悠々楽しみたいという人など、60代以降の時間の使い方はさまざま。

60代からの人生を豊かにするために

ただ、高齢者専門の精神科医として、数多くのシニア世代を見てきた医師・和田秀樹さんは「60代以降は働く人ほど幸せに、長生きできる」と語ります。

『60歳からはやりたい放題[実践編]』(扶桑社刊)では、60代から人生を最大限楽しむためのテクニックが盛り込まれています。同書を抜粋し、和田先生の提案する豊かな人生の過ごし方をご紹介します。

●いくつになっても働いた方が、人間は長生きできる

日本の大半の企業で、定年退職は65歳に定められています。

ときには早期リタイアを選び、60歳で仕事を辞める方もいらっしゃるでしょう。ただ、私としては、体と心の健康を考える上では、「働くこと」は非常に重要だと考えています。もし身体的に無理がないのであれば、60代になっても働き続けるという選択をしてほしいと思います。

先にもご紹介した長野県の高齢者就業率と平均寿命の高さを見ても分かるように、「仕事がある」と気持ちも若返るし、なにかと外出するようになるため、身体機能の老化も遅らせることができます。生涯現役とまではいかなくても、働けるうちは働いたほうが、結果的には心身ともに健康でいられるのです。

●60代以降は“自分のため”に働く

「いやいや、この年齢になってまで働きたくない!」とおっしゃる方もいるかもしれませんが、60歳以降は若い頃とは「働いてお金を稼ぐこと」の意味が大きく変わってきます。若い頃は、家族を養うため、家を買うため、車を維持するため…など、「なにかのために働いている人」が大半だったはず。

でも、60代になると、子どもは自立しているし、家や車のローンも返し終わっているケースも多く、大きな出費はありません。人によっては年金が入るので、その収入さえあれば基本的な生活費は賄うことができます。60代以降は、自分が稼いだお金は基本的には自分のために使うことができるのです。

海外旅行に行きたければパックツアーを予約すればいいし、自分が好きな食事も食べに行けるし、欲しい洋服があれば買ったっていい。これまで主婦として働いてきた人であっても、子育てなどがひと段落したのならば、アルバイトでもパートでもなんでもよいので働きに出ましょう。そして、自分で稼いだお金を使って、好きなように遊べばいいのです。

●「稼いだお金は自分で使える」と思えば働くモチベーションも上がる

もちろん、仕事には大変なこともあるでしょう。でも、「自分で稼いだお金を、楽しいことに使える」と思えば、働くことがこれまで以上にぐっと楽しいものになるのではないでしょうか?

さらに、そのお金を「貯金しよう」と思うからこそ、仕事をつらく感じてしまうかもしれませんが、「働いたお金は自分で使う!」と決めていれば、モチベーションも上がり、体も心も若々しくいられます。

●高齢者は「若い人の邪魔」にはならない

最近、「若い人の邪魔をしてはいけないのではないか」と、控えめに生きているシニア世代の方があまりにも多い。これは由々しき事態です。

いまの時代、年齢というものはあまり関係ありません。「若者だから」「年寄りだから」という価値観の違いは、以前ほど大きな差を生まないからです。たとえば、福山雅治さんや桑田佳祐さん、松任谷由実さんのコンサートに行ってみると、親子がコンサート(場合によっては孫と祖父母というケースも!)に一緒に来ている光景もよく見かけます。

一昔前であれば、親と子どもが同じコンサートに行くようなことはほとんどありませんでした。たとえば、私の世代の場合は、私たち子供世代はビートルズのコンサートに行きたいと言ったなら、親世代は東海林太郎のコンサートに行きたいと言う。つまり、若者文化と年寄り文化には大きな隔絶があったのです。

しかし、いまは親子で同じコンサートに行くなんてことは、ザラにあります。そう考えると、年配たちが思っている以上に若い人たちとの感覚は近い。60代以上が若者たちと行動しても、彼らの邪魔にはならないということを、心に刻んでほしいと思います。

●60代は下の世代に「ぜいたく」を教えてあげよう

むしろ、いまの50代よりも上の世代は、バブルを経験している分、若い世代よりも確実にぜいたくを知っています。祖父母や両親が連れて行く和食屋やフレンチの店のほうが、子供世代が友達と行く店よりもずっとおいしいしぜいたくだったりすることが多々あります。

たとえば、60代が自分の子どもや孫に「ちょっとお寿司でも食べに行こう」と言って連れて行った場合、普段、彼らが食べているお寿司屋さんよりも、ずっとランクの高い良いお店であることも多いのではないでしょうか。

自分だけでは体験できないような良い体験をさせてくれる高齢者を、決して若者世代は「邪魔だ」とは思わないでしょう。

とくに今60代くらいの人は、バブル時代の豊かな時代を知っているため、若い頃にかなりぜいたくな経験をしていたはずです。

「このままではお金を残して死んでしまうかもしれない」と思うのであれば、使えるうちに使っておいたほうがいいと私は思います。長生きできるし、なにより人生を楽しむことができますから。