新宿から快速急行で約1時間。古来、大山詣りで栄え、現在は日本遺産のまちとして古の信仰文化を今に伝える伊勢原市の中心駅、伊勢原駅北口で再開発が始まる予定です。同時に小田急電鉄と連携、総合車両所の移転、都市計画道路の整備、スマート新駅の検討など、まちを変えようという動きもあります。

小田急線伊勢原駅北口。この前でこれから再開発が予定されています。右手に見えている商業施設は南口側(筆者撮影)

都心から約50キロ、交通利便性の高いまち、伊勢原市

伊勢原市は神奈川県のほぼ中央に位置する、東京から距離にして約50キロメートル、横浜からでは約45キロメートルにある人口約10万2,000人のまち。

市内を東西に走る小田急線。新宿駅からは快速急行利用で約1時間です(筆者撮影)

市内を東西に東名高速道路、国道246号、小田急線が走っており、2027年度に全線開通を目指して工事が進められている新東名高速道路の伊勢原ジャンクション、伊勢原大山インターもある交通利便性の高いエリアです。

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江戸時代には年間20万人が訪れた大山

伊勢原市を語る上で欠かせないのは、市の北西端に古来山岳信仰の対象として知られる大山があること。大山に鎮座する大山阿夫利神社は2200年以上前の崇神天皇の頃に創建されたと伝えられており、古来は別名「あめふり山」とも呼ばれ、雨乞いや五穀豊穣の祈りの対象とされてきました。

駅北口を下りたところには大きな鳥居も。この辺りも再開発予定地に入っています(筆者撮影)

江戸時代には手形不要で訪れられる旅先だったこともあり、江戸の人口が100万人の頃に年間20万人もの参拝者が訪れたといいますから、どれだけ栄えた場所だったかは想像に難くありません。

まちづくりのベースには歴史が

駅構内に掲げられていた大山詣りが日本遺産に認定されたことを示す掲示。あちこちにこうした掲示が見られました(筆者撮影)

現在は文化庁の日本遺産に認定されており、市ではそれをさまざまな形でPR。まちづくりの大きな特色となっており、駅前には大きな鳥居があるなど、随所に歴史を感じることができます。大山への参道には今も昔の宿坊の名残を伝える旅館が軒を連ねており、名物とうふ料理が楽しめます。

ちなみに市のホームページによると、伊勢原という市名は江戸時代初期、大山参りに来た伊勢山田(三重県)の曽右衛門らにより、千手ヶ原が拓かれ、やがて伊勢の国の人々がこの地に住みついたことから伊勢原になったといいます。

実際、伊勢原市内の小田急線より北側エリアからは遠くに大山の姿を望む場所が多く、豊かな自然にあふれた地域であることが実感できます。

駅北口で再開発事業が進展中

再開発エリアの立地。伊勢原駅の真正面にあたります(出典:伊勢原駅北口周辺の市街地整備)

さて、その伊勢原市の中心となる小田急線伊勢原駅北口で再開発の計画があります。このエリアではかつて1990年に都市計画が決定され、翌1991年に組合施行による再開発事業に着手したものの、バブル崩壊による急激な経済情勢の悪化から計画が頓挫。2004年に事業が中止されたという過去があります。

再開発予定地内にはバイク置き場などとして暫定的に使われている部分も多く、そこには駅前整備が始まるまでの利用であることが明記されていました(筆者撮影)

ただ、その後も後継事業による北口整備の検討は続けられてきました。2018年度からは住宅施設を導入した市街地再開発事業の成立可能性についての検証が行われ、複数の民間事業者の参画意向もあって2021年には伊勢原駅北口地区再開発準備組合が設立。2023年には事業協力者が決定し、協定が締結されました。

中央に広場を配した2街区を計画

今後の予定としては2023年度に都市計画決定、翌年度に再開発組合設立認可を経て2026年度には解体工事、本対工事着工となっています。

 

事業計画区域と計画概要(出典:伊勢原駅北口周辺の市街地整備 ~これまでの事業経過・新たな再開発事業)

現在事業が検討されている区域は約1.5ヘクタール。中央に駅前広場を挟んでA1街区、A2街区の2街区が計画されており、A1街区は観光交流の玄関口として3階程度の低層施設を計画。観光交流拠点を担う交流・にぎわい機能が整備されるとしています。

反対側のA2街区は、暮らしを支える生活拠点として高層の都市型住宅の整備がメインとなっています。合わせて低層階にはスーパーなどでしょうか、生活利便機能を誘導するとなっています。

また、駅から直結の歩行者デッキを整備し、A1街区の歩行者広場と繋がるような回遊性も意図されているようです。

駅舎から再開発予定地を見たところ。バスターミナルの右側が住宅街区になる予定。山々が近いこともわかるでしょう(筆者撮影)

現在の伊勢原駅北口は駅正面にバスターミナルがあり、その周辺には低層の古い建物中心の商店街が広がっています。駅前という立地を考えると、もう少し効率的に土地を使おうという計画が出てくるのも納得できるところです。

小田急電鉄とまちづくりで連携

伊勢原市では駅北口の開発のほか、もうひとつ、話題になっている計画があります。それが小田急電鉄との「持続可能なまちづくりを推進する連携協定」です。

きっかけは車両所の伊勢原移転

左下の赤い部分が候補地。その上の黒い線、点線が都市計画道路田中笠窪線。この道路は右手、伊勢原駅の右上にある行政エリアから延びるものです(出典:小田急電鉄(株)との持続可能なまちづくりを推進する連携協定の締結について。記者会見・説明資料より)

きっかけとなったのは小田急小田原線、小田急江ノ島線の分岐駅である相模大野駅に隣接する小田急電鉄の大野総合車両所が開設から60年以上を経て老朽化が進み、機能更新が必要になったこと。この総合車両所は同社唯一の総合車両所であり、年間を通じて稼働していることから現敷地内ではなく、新築移転が必要とされました。

その移転にあたり、候補地として挙がったのが伊勢原市内、伊勢原駅と鶴巻温泉駅の間にある約15ヘクタールの土地です。

道路やまちづくりで協力を

この土地は市内の東西交通を支える都市計画道路・田中笠窪線沿いに立地しています。冒頭で書いた通り、今後、新東名高速増路が全線開通します。その場合、市内には新たな交通需要が見込まれます。

市ではその日のために同都市計画道路の早期の整備を考えており、(仮称)伊勢原総合車両所の建設計画と相互に協力することになったものです。2023年に行われた伊勢原市、小田急電鉄の記者発表では産業系土地利用をつなぐ都市軸の形成として、新たな土地利用による企業集積、市内従業者数の増加、新規雇用、職住近接による生活利便性の向上、そのほか多くの目指すものが掲げられました。

スマート新駅ができる可能性も

また、総合車両所近くにはスマート新駅も検討されているそうで、新駅ができれば市内始発、終着の増発などにも期待がかかります。

計画自体は2023年3月に発表されたばかりで、今後の具体的なスケジュールなどはまだ公開されていないようですが、新しい大型施設、新駅ができるとなれば地域が変化することも想定されます。北口の再開発と合わせて伊勢原市への注目度が増しそうです。

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伊勢原市の住みやすさは?

伊勢原駅南口。駅ビル内、駅正面、少し離れてスーパーなどがあり、商店街も広がっています(筆者撮影)
大型店から個人営業の小規模店までさまざまな店が並ぶ、駅南口側の大原町商和会(筆者撮影)

以下、伊勢原市が実際にどんな場所かを紹介していきましょう。新宿から快速急行で約1時間。小田急線伊勢原駅には北口、南口があり、スーパー、複合商業施設、商店街やホテルなどが集まっているのは南口側です。

南側は比較的平坦な住宅エリア

バス路線図。南、海側の平塚駅に向けての路線が多数出ています(筆者撮影)

南口駅前のバスロータリーからはJR平塚駅方面へのバスが出ており、途中にはいくつもの戸建て住宅団地が広がっています。

伊勢原市の地形は北西端の大山から南の平塚市方向に向かって低くなっており、伊勢原駅から南、平塚方面に向かうと緩やかに坂を下ることに。逆に北側へは坂を上ることになり、ところどころには急な坂もあります。できるだけ平坦な土地をと考えるのであれば、小田急線の南側のほうが良いかもしれません。

県道沿いに古い商店街

県道61号沿い。歴史を感じる店の間に今風の飲食店などもあり、変遷が感じられます(筆者撮影)

北口側は県道61号線沿いに商店街があります。古いまちらしく、呉服店や和菓子店、風呂店などがある一方で、予備校、ビジネスホテルなども並んでおり、新旧さまざまな業種が並びます。

行政エリアにはさまざまな機能が集積

市役所。左手に見えているのが市民文化会館。その前に立っている銅像は江戸城を築城した太田道灌公のもの。太田道灌は伊勢原市で没したとされ、伊勢原市では秋に伊勢原観光道灌まつりを開催しています(筆者撮影)

商店街の東側、国道246号沿いには市役所や伊勢原市市民文化会館、子ども科学館、市立図書館、伊勢原協同病院、郵便局などといった行政施設が集まる一画があります。市の消防本部、伊勢原署も近くにあり、役所関係に用事がある場合にはここに行けばすべての用事が一度に終わらせられそうです。

左が市立図書館、右が子ども科学館。プラネタリウムなど子どもが楽しめそうな展示が多くありました(筆者撮影)
訪れたのは土曜日。午前中のプラネタリウム鑑賞券は売り切れになっていました(筆者撮影)

大学、病院も多い地域

東海大学伊勢原キャンパス。高層の建物が多く集まっているため、市内のあちこちからよく見えます(筆者撮影)

また、行政エリアと渋田川を挟んで北側には東海大学伊勢原キャンパス、東海大附属病院などが立地しています。行政エリア内にも病院があることを考えると、このエリアの医療事情はかなり良さそうです。

また、東海大学だけではなく、市内には産業能率大学湘南キャンパス、専修大学伊勢原総合グラウンド、成城学園伊勢原総合グラウンドなどもあり、伊勢原市は実は学生も多いまちでもあります。

自然、農業と親しみながら暮らせる

東名高速、新東名高速が交わる伊勢原ジャンクション付近。この辺りまで来ると畑なども多く、山の風景も遠望できます(筆者撮影)

東海大学伊勢原キャンパスの北には東名高速、新東名高速が交わる伊勢原ジャンクションがあり、この辺りまで来ると住宅地の間に畑があるのどかな雰囲気に。

菜園も目に付きました。身近に菜園のある暮らしも楽しそうです(筆者撮影)

ところどころに林もあって、自然とともに暮らしたい人にとっては魅力的な場所かもしれません。ただし、坂も多いので、その点は要チェックでしょう。

JAの直売所「あふり~な伊勢原店」。野菜、果実に花卉(かき)、豆腐、漬物と多彩な地元産品が売られており、つい、買いこみそうになりました(筆者撮影)
米やきくらげなど、「え、それも伊勢原産?」というような品も並んでいました(筆者撮影)

行政エリアの近くにJAの直売所「あふり~な伊勢原店」がありました。調べてみると伊勢原市は農業、畜産が盛んで、おいしいお米も収穫できる土地柄。野菜類は直売所や移動販売車で売られていますし、みかんの木や谷戸田オーナー制度など農に親しむ暮らしもできます。学校教育の中では食育にも熱心に取り組んでいるそうです。

フィルムコミッションの活動が活発

こうした地元の自然を生かした暮らしとは別に、伊勢原市には映画やドラマのロケ地としての一面もあります。

市の魅力発信を図る市民の有志団体「いせはらフィルムコミッション」が積極的に活動しており、映画『東京リベンジャーズ(実写版)』、テレビドラマ『エルピスー希望、あるいは災い』『半沢直樹』『ラジエーションハウスⅡ』などに多数登場しているのです。

市のホームページ内「あなたが選ぶ!いせはら10大ニュース」(年ごとに選ばれています)を見ると、その年、どんな番組に登場したかが見られます。

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自然と歴史を感じながらの暮らし

個人的には市のホームページ内の「いせはら文化財サイト」「伊勢原観光ガイド」の充実ぶりは必見。歴史、自然が魅力的な街なのです。

小田急線で小田原、箱根に向かうもよし、伊豆半島も近く、もちろん、丹沢もすぐそば。仕事だけでなく、遊びも充実させられる立地と言えるでしょう(筆者撮影)

都会へ1本で行けるけれど、ゆったりと自然の中で暮らしたい、歴史のあるまちで子どもを育てたいという人なら住まいを探して訪ねてみる価値はあるのではないでしょうか。

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