ドイツ・バイエルン州ゲーレッツリートでの地熱開発事業の完成予想図(提供:中部電力)

この革新的な技術は、地熱開発のゲームチェンジャーになるかもしれない――。

中部電力は7月14日、カナダのベンチャー企業がドイツ南部バイエルン州で進めている地熱発電・地域熱供給プロジェクトへの資本参加を決め、現地の事業会社の株式引受契約を締結したと発表した。出資比率は40%で、出資額は数十億円に上るという。事業会社には非常勤取締役を送り、技術者を現地に派遣する。

同事業はカナダのエバーテクノロジーズ(Eavor Technologies)社が開発した「クローズドループ地熱利用技術」を用いる。地下約5000メートルの深さに「ロックパイプ」という透水性のシール材(坑壁保護剤)による編み目状のループを掘削・設置し、その内部に水を循環させることで地下にある熱を取り出し、発電や熱供給に利用する。

同技術はヨーロッパ連合(EU)からカーボンニュートラルへの移行を促進する革新的な技術として評価されており、EUが新設した「EUイノベーションファンド」から9160万ユーロ(約140億円) の補助金を受けることも決まっているという。

地球を湯沸かし器として活用

ドイツ・バイエルン州ミュンヘン近郊ゲーレッツリートでのプロジェクトでは、2026年8月までに4本のループを完成させ、年間発電電力量約7700万キロワット時、年間熱供給量5600万キロワット時を見込む。それぞれ、一般家庭約1.8万世帯、同約20万世帯が使用する量に相当するという。1本目のループの掘削は7月10日に始まっており、2024年10月に一部商業運転を開始する。

【2023年7月24日11時00分追記】上記の年間発電電力量の数字を修正しました。

この地熱利用技術が画期的なのは、「地上から水を入れることで、地球を湯沸かし器のように使うことにある」(佐藤裕紀・中部電力専務執行役員グローバル事業本部長)。沸点の低い触媒(イソブタン)を用い、沸点の差を利用して高い温度の水蒸気から熱交換する。

通常の地熱発電のように自噴する蒸気や熱水を必要としないため、「掘ってみたけれど蒸気が出てこない」といった地熱開発特有の開発リスクがないという。

佐藤氏は「この技術を用いれば、熱さえあれば湯を沸かすことができることから大きなポテンシャルがある」と期待を込める。

一定の出力によるベースロード運転のみならず、エネルギーの需要が少ない時には地下に蓄熱し、需要が多い時に蓄熱したエネルギーを取り出して電力に変換することができるのも特徴だ。いわば巨大な蓄電池のようなイメージだ。エバー社の試算では4〜10分でフル出力に高められるといい、「調整用電源としても期待できる」(佐藤氏)。


ゲーレッツリート地熱事業の設備構成図。約5000メートルの地下深くにループを掘削・設置し、内部に水を循環させて熱を取り出す(提供:中部電力)

中部電力はドイツでのプロジェクトに先駆けて昨年、エバー社本体に出資し、現在の出資比率は10%弱。エバー社との提携にかかわってきた佐藤氏によれば 、「エバー社は第1弾のドイツでの成功を足がかりにして、世界25カ国以上でプロジェクトを計画。その総出力規模は原子力発電所約10基分に相当し1000万キロワット超に上る。そこには日本も含まれている」。

日本でもゲームチェンジャーに?

中部電力はエバー社の技術を基に、日本での地熱開発を狙う。ドイツでの事業が成功すれば、日本にとっても朗報になるかもしれない。

というのも、日本はアメリカ、インドネシアに次ぐ世界第3位の開発ポテンシャルを持つ地熱エネルギー大国でありながら、資源の大半が自然公園内にあることに加え、開発コストの高さや成功確率の低さにも阻まれ、遅々として開発が進んでいないからだ。政府のエネルギー基本計画では2030年までに地熱発電施設を現在の倍に増やすのが目標だが、それが達成できたとしても発電電力量全体の1%を賄うにとどまる。

エバー社の技術が実用化できれば、地熱開発が直面している厚い壁を突破できるかもしれない。

(岡田 広行 : 東洋経済 解説部コラムニスト)