剪定は「健康のための剪定」と「美観のための剪定」の2種に分かれますが、実は相互に関係し合います(写真:MAPS/PIXTA)

慌ただしい生活でも鉢を置くだけで彩りがうまれ、癒しアイテムとして人気の高い観葉植物。100円ショップでも購入できる手軽さがある一方で、しばらくすると弱ってくることも多いのではないでしょうか。長く育てるほど枯れたときのショックも大きくなります。

観葉植物は本来、正しく「ケア」すれば人よりも長生きする「生きもの」です。お気入りの植物と、生涯をともにすることだって可能です。枯らすのはその生態を知らないだけ。植物をよみがえらせる園芸家、川原伸晃氏の初著書『プランツケア』の内容を一部抜粋、再構成してお届けします。

剪定は植物との対話



(漫画:厳男子)

プランツケアの上級編は「美観のケア」です。

「観賞価値を高める」ことが目的ですが、美観を整えることは植物の健康にもつながります。

その代表となるのが「剪定(せんてい)」です。

剪定は「健康のための剪定」と「美観のための剪定」の2種に分かれますが、実は相互に関係し合います。健康のための剪定は結果的に美観を作り、美観のための剪定も結果的に健康に影響します。

植物の活き活きとした姿は、人間を含めた動物にとって、本能的に「美」を感じさせます。

自然界では、植物が健やかに成長したあとには実りが訪れます。それに気がつかない鈍感な動物は飢えてしまいます。実りに敏感であるために、健やかさが美へと脳内変換されるようになったのではないでしょうか。

剪定とは葉や枝の一部を切り落として樹形を整えることです。

わさわさと葉が繁っているときは、不要な葉や枝を根から切り落とし、枝葉全体の量を適正に減らしましょう。特に株元や枝元には不要な枝葉が集中しやすいです。枝葉が密集し折り重なった状態では新芽の成長にも悪影響を及ぼします。


(イラスト:山田聖貴、澤ひかり)

剪定について、よく「枝を切るのは植物がかわいそう」と感じる方がいますが、ご安心ください。植物にとっての剪定は人間にとっての「散髪」です。定期的に美容院に行くように、年に1、2回程度の剪定は欠かせません。人間も髪の毛をすいて量を減らすことで扱いやすくなり、頭皮の蒸れが改善します。元気に伸びた枝を切るのは抵抗感があるかもしれませんが、伸びっ放しはむしろ悪影響を及ぼします。植物の健康と美観を保つためには必要不可欠なケアです。風通しを良くするイメージで思い切って切り落としましょう。

植物がひとまわり大きく成長したら、剪定で枝を切り揃そろえ、適当なサイズを維持することが基本です。適切にハサミを入れると、それに応じて植物も美しく成長してくれます。
剪定後は光と風が植物の内側や下にも通り抜けできるようになるので、満遍なく光合成ができるようになり、空気の滞留も解消され健康状態が改善します。また病害虫の予防にもなります。

「切ったらそこで成長が止まってしまう?」

剪定について最も多い誤解は、「枝を切ったらそこで終わってしまう」というものです。しかしご心配には及びません。植物さえ健康であれば、剪定した枝先からは必ず新芽が出ます。品種によってすぐ出るものと出にくいものはありますが、成長期になれば確実に萌芽します。そうでない場合は健康状態を疑ってください。

成長した枝を放置して伸ばし続けるといずれ下葉が落葉します。これは自然現象ですが、美観的にはおすすめできません。更に時間が経つと、伸びた枝の先端だけに葉が生えて内部は禿げ、ヒョロヒョロでスカスカな印象になります。

一方、適切な剪定を繰り返すと、剪定した枝先からは次々と新芽が展開し、下葉もほぼ落葉しません。葉はコンパクトで高密度に繁り、美しい樹形に育っていきます。


(イラスト:山田聖貴、澤ひかり)

どこを切る?

次に多い誤解がハサミを入れる位置です。

剪定の目的は枝の更新なので、成長点の切り替えが必須です。つまりハサミを入れるのは今ある新芽の枝です。この点についても「せっかく新芽が出ているのにかわいそう」という声がありますが、悪影響はなく、次世代にバトンが渡るだけです。


枝の付け根を5mm程度残して剪定するとより新芽が出やすくなります。

基本的には季節を問わずに剪定しても問題ありません。僕は樹形の乱れが気になったらその都度行います。目安は年に1、2回、春と秋の終わり頃をおすすめします。春と秋の過ごしやすい気候は観葉植物にとっての成長期に当たります。成長期を経て伸び過ぎた枝や思わぬ方向へ展開した枝を、乱れた樹形を整えるイメージで剪定しましょう。

樹形の美しさを乱し観賞価値を下げる枝は「忌み枝(いみえだ)」と呼び、除去対象として扱います。美しさを損なうために不必要とされますが、前述したように、実際は通気の悪化や光合成を阻害することが大きな要因です。忌み枝を剪定した後の違いは明らかです。枝の間には十分な風の流れが確保され、全ての枝葉に日光が行き届きます。

剪定直後は寂しく感じるかもしれませんが、時間が経てば次世代の新芽たちが次々に動き出します。人間の髪の毛だって散髪直後はなんだか違和感があるものです。



(イラスト:山田聖貴、澤ひかり)

(川原 伸晃 : 園芸家、いけばな花材専門店四代目)