その食品、本当に安全といえますか(写真:syogo/PIXTA)

清涼飲料水、ガム、のど飴、ゼリーからスーパーなどで売られている弁当まで幅広い食品に使われている人工甘味料の「アスパルテーム」が先日、WHO(世界保健機関)の専門組織から「ヒトに対して発がん性の可能性がある」と分類され、話題となっています。本稿では、『新版「食べてはいけない」「食べてもいい」添加物』(大和書房)の著者で、科学ジャーナリストの渡辺雄二氏が、アスパルテームがそのように分類された経緯や、実際どういった問題があるのかを指摘します。

アスパルテームをめぐる議論は一応の決着

WHOの専門組織であるIARC(国際がん研究機関)は7月14日、飲料やお菓子などに幅広く使われている人工甘味料(合成甘味料)のアスパルテームについて、グループ2B「ヒトに対して発がん性のある可能性がある(Possibly carcinogenic to humans )」に分類しました。

これは、「ヒトにおいて発がん性の限定的な根拠がある」「実験動物において発がん性の十分な証拠がある」「作用因子が発がん性物質の重要な特性を示す有力な証拠がある」のうちのいずれか1つを満たす場合に適用されるものです。

アスパルテームについては、アメリカや日本などで長い間その安全性をめぐってさまざまな議論が繰り返されてきましたが、これで一応の決着を見たといえるでしょう。

ちなみにIARCでは、化学物質や食品などについて、発がん性に関して4つの分類をしています。グループ1「ヒトに対して発がん性がある(Carcinogenic to humans)」、グループ2A「ヒトに対しておそらく発がん性がある(Probably carcinogenic to humans)」、そして今回アスパルテームが分類されたグループ2B、さらにグループ3「ヒトに対する発がん性について分類できない(Not classifiable as to its carcinogenicity to humans)」の4分類です。

なお、IARCでは2015年10月、ハムやソーセージ、ベーコンなどの加工肉をグループ1に分類しました。これは世界に衝撃を与え、賛否をめぐる議論が沸き起こりましたが、これに比べると今回の分類はそれほど大きな波紋とはなっていないようです。

アスパルテームは、アミノ酸のL-フェニルアラニンとアスパラギン酸、それに劇物のメチルアルコールを結合させたもので、砂糖の180~220倍の甘味を持っています。1965年にアメリカのサール社が開発したものです。

日本では、味の素が早くから輸出用として製造していましたが、アメリカ政府の強い要望によって、1983年に当時の厚生省が使用を認可しました。これで、アメリカで製造されたアスパルテーム入りの食品が日本にも輸入できるようになったのです。

体内でメチルアルコールを分離する

アメリカでアスパルテームの使用が認可されたのは、日本より少し早い1981年のことです。しかし、摂取した人たちから、頭痛やめまい、不眠、視力・味覚障害などに陥ったという苦情が相次いだと言われています。アスパルテームは体内でメチルアルコールを分離することがわかっています。

メチルアルコールは劇物で、誤って飲むと失明するおそれがあり、摂取量が多いと死亡することもあります。おそらく体内で分離されたメチルアルコールが、さまざまな症状を引き起こしたと考えられます。

さらにアスパルテームは、がんとの関係が取りざたされています。TBSテレビが1997年3月に放送したアメリカのCBSレポート『How sweet is it ?』の中で、がん予防研究センターのデボラ・ディビス博士は、「環境と脳腫瘍の関係を調べると、アスパルテームは脳腫瘍を引き起こす要因の可能性がある」と指摘し、またワシントン大学医学部のジョー・オルニー博士は、「20年以上前のアスパルテームの動物実験で認められたものと同じタイプの脳腫瘍が、アメリカ人に劇的に増えている」と警告しました。

また2005年にイタリアで行われた動物実験では、アスパルテームによって白血病やリンパ腫の発生が認められました。この実験は、同国のセレーサ・マルトーニがん研究所のMorando Soffritti博士らが行ったもので、8歳齢のオスとメスのラットに、異なる濃度(0~10%の7段階)のアスパルテームを死亡するまで与え続けて、観察したというものです。  

その結果、メスの多くに白血病またはリンパ腫の発症が見られ、濃度が高いほど発症率も高かったのです。また、人間が食品から摂取している量に近い濃度でも異常が観察されました。

この実験結果や前の脳腫瘍との関係は、アスパルテームが、発がん性があることを示唆しているものであり、おそらくIARCの研究者たちは、これらのデータやその他のデータを検討して、今回の結論に至ったと考えられます。

なお、食品の原材料名にアスパルテームを表示する際に、必ず「L-フェニルアラニン化合物」という言葉が添えられていますが、これには理由があります。フェニルケトン尿症(アミノ酸の一種のL-フェニルアラニンをうまく代謝できない体質)の子どもがアスパルテームを摂ると、脳に障害が起こる可能性があります。そのため、注意喚起の意味でこの言葉が必ず併記されているのです。

砂糖類が敬遠されている中で利用が増えた

現在、アスパルテームはコーラなどの清涼飲料水、ガム、のど飴、ゼリー、チョコレート、清涼菓子、スーパーのお弁当など数多くの食品に使われています。「スーパーのお弁当とは意外だ」と感じる人もいると思いますが、具材の味付けに使うたれや、つゆなどに添加されていると考えられます。

以前から危険性が指摘されているにもかかわらず使われ続けているのは、肥満や高血糖の人が増えていて、砂糖類が敬遠される傾向にあるからでしょう。

各企業は、「ダイエット」「低カロリー」と銘打って、砂糖類の代わりにアスパルテームを使った飲料やお菓子などを次々に発売しています。また厚生労働省は、企業の意向をくみ取ってアスパルテームの使用を禁止しようとはしません。こうしてアスパルテームがさまざまな食品に使われ続けているという現状があるのです。

ところで、WHOとFAO(国連食糧農業機関)で作るJECFA(合同食品添加物専門家会議)は、アスパルテームについて、1日摂取許容量(ADI)を体重1kgあたり40mgと設定しています。これは体重70kgの人の場合、2000~3000mgのアスパルテームを含む清涼飲料水9~14本分に相当するといいます。つまり、実際には1日にこれほど多くの清涼飲料水を飲むことはないので、心配ないということです。

アスパルテームに「しきい値」は必要か

しかし、発がん性のある物質の場合、放射線と同じように「しきい値」がないという考え方があります。「しきい値」とは、「これ以下なら安全である」という値です。その値がないということは、ごくごく微量であっても危険性があるということです。


発がんは、細胞中の遺伝子の変異によって起こります。現在は、各種の遺伝子の変異が何段階にもわたって起こり、その結果、がん細胞が発生するという考え方、すなわち「多段階発がん」が有力視されています。

この変異は、遺伝子に作用する物質が1分子でも起こり得るのです。ですから、発がん性物質がごくごく微量であっても遺伝子の変異は起こるのであって、その観点からすると、「これ以下なら安全」という量はないということです。

したがって、アスパルテームに発がん性があるということであれば、「しきい値」は存在しないということになります。ですから、微量であっても摂取し続ければ、遺伝子を変異させて、細胞をがん化させる危険性があることになるのです。

EU(ヨーロッパ連合)では、「予防原則」、すなわち人体に害をもたらす可能性のある化学物質は避ける、という考え方が一般化しています。この予防原則に従えば、アスパルテームは避けるべき添加物といえるでしょう。

(渡辺 雄二 : 科学ジャーナリスト)