ニデックが公表した「公開買付けの開始予定に関するお知らせ」(下写真)によると、2022年に資本業務提携の提案をTAKISAWAに持ちかけたが、協議の実施を「謝絶」されたという(写真は記者と編集部が撮影)

「今回のTAKISAWAとのジョイントは大きなシナジーを両社にもたらす。敵対的とかじゃなく、日本の工作機械業界は、中国と戦っていける規模に持っていかないと負ける」

7月20日、モーター大手・ニデック(旧日本電産)の永守重信会長兼CEOは、四半期決算の説明会でそう力説した。この1週間前となる7月13日、ニデックは旋盤などの金属工作機械を製造するTAKISAWA(岡山市)の完全子会社化を視野に、株式公開買い付け(TOB)を行うと発表していた。

永守氏が「敵対的ではない」とわざわざ語ったのには訳がある。ニデックは9月14日のTOB開始を目指すとしたが、当のTAKISAWAは精査したうえで見解を公表するとしたのだ。つまりTAKISAWA経営陣は、現時点でTOBに賛同していない。

TAKISAWAが協議を「謝絶」

ニデックの公表資料によると、2022年1〜3月にかけてニデック子会社との資本業務提携を提案した際、TAKISAWAには「特段の理由のご説明をいただくことなく(中略)協議の実施を謝絶」された。だが、工作機械事業を拡大するため、2023年2月より再度検討を開始したという。

TAKISAWAの買収防衛策に則り、ニデックは大規模買付意向表明書を提出した。今後ニデックは、株主の判断や取締役会の見解形成のために必要となる情報を提出する必要がある。そのうえでTAKISAWAの取締役会は60日間または90日間をかけて買収提案を検討する。

相手の同意を得られなくても、永守氏が欲するTAKISAWAとは、どのような会社なのか。

近年のTAKISAWAは、業績も株主からの評価も決して芳しくなかった。
2022年度は売上高279億円、営業利益11億円、純利益3.3億円。営業から得られた金額を示す営業キャッシュフローは赤字だった。

過去最高益は営業利益だと2006年度の38億円、純利益だと2004年度の26億円。足元の業績はそれらに比べると大きな乖離がある。東証スタンダードに上場している株式の評価をみても、6月時点で時価総額は80億円、PBR(株価純資産倍率)は0.44倍にとどまっていた。

にもかかわらず、ニデックは「同意なきTOB」をしてでもTAKISAWAを必要としている。しかも予定するTOB価格は、1株あたり2600円。TAKISAWAの株価は足元で急騰しているが、2018年5月以来、長らく2000円台をつけていなかっただけにプレミアム(上乗せ幅)は大きい。

ニデックの手中にはない旋盤メーカー

TAKISAWAの旧社名は滝澤鉄工所。創業100周年を迎えた2022年に現社名に変更した。主力製品はCNC旋盤だ。旋盤とは材料を回して削る機械。円柱状の金属を大まかに削って規定通りの直径にする、といった工程で使われる。CNC旋盤はその旋盤をコンピューターによる数値制御で動かす。

TAKISAWAの製品は、主に日系自動車メーカーで使われているようだ。自動車向けでは一般的に、エンジン回りの部品やシャフトといったパワートレイン関連の部品を製造する際、旋盤が使われることが多い。EV(電気自動車)化が進むと、現在のビジネスから転換を迫られる可能性がある。

2022年5月、TAKISAWAは中期経営計画を発表した。そこでは、EV関連に加え、建設機械や農業用機械、半導体製造装置など自動車以外の市場でも売上高を伸ばし、海外に営業拠点を新設すると掲げた。

2024年度の目標は売上高310億円、営業利益25億円と意欲的な数字だ。ただ、自動車領域以外の開拓について、目立った成果はまだ表れていない。

ニデックから見ると、TAKISAWAの買収には、従来持っていなかった旋盤のラインナップを取り込めるというメリットがある。

これまでに71社を買収し事業を拡大してきたニデック。工作機械業界にも買収を通じて参入した。皮切りとなったのは、2021年の三菱重工工作機械の買収だ。その後、OKK、イタリアのPAMAと3年連続で買収を行ってきた。

だが旋盤メーカーは、まだ手中になかった。ニデックの調べでは、工作機械市場の機種別比率で旋盤は33%を占める。旋盤が手に入れば、顧客に提案できる自社製品の幅が広がる。モーターなどの内製化を進めて他部門の製品をコストダウンできるという側面もある。

TAKISAWAの製品は仕向け地ベースの売上高(2022年度)で日本向けが34%、アジア向けが40%を占める。ニデック傘下の企業で欧米向けの販売網を補完できるとニデックはにらむ。

「社数集約が必要」は共通認識だが

工作機械業界では、社数を集約すべきという共通認識が長らく持たれてきた。「日本の工作機械メーカーは数が多く、世界的に戦うには集約しないといけない」(工作機械を手がけるメーカーの社員)。

ただ、総論としては社数の集約に賛成でも、いざ自身が買収される立場となると、各論反対となる可能性は十分にある。TAKISAWAも昨年はニデックからの資本業務提携を断っている。

2023年3月現在におけるTAKISAWAの株主構成はどうなっているのか。有価証券報告書に記載の「所有者別状況」によると、「個人その他」が61.9%の株を所有する。


大株主のほうは、信託銀行を除くと、8.6%の取引先持株会、4.7%のファナック、4.53%の中国銀行が保有比率の上位に名を連ねる。このうちファナックは旋盤に組み込むNC(数値制御装置)の調達元とみられる。

経営陣が買収を拒否したいと考えても、創業家など「味方」になってくれそうな大株主はいない。

「(TAKISAWAは)どうやってPBRを1倍以上に持っていくのか。うちと一緒になったらいっぺんに持っていけますよ。両社にとって幸せな話を提言している。誰かが窓を開けないと進まない」。決算説明会で永守氏はそう力を込めた。

TAKISAWAは今後、買収に賛同するのか。もし拒否するなら、2600円というTOB価格を上回る企業価値向上策を株主に示す必要がある。

(遠山 綾乃 : 東洋経済 記者)