「結婚では高価な指輪をもらい、タワマンに住む姉の結婚生活が理想」。そう婚活中の女性は話すが――(写真:shimi/PIXTA)

男女平等という言葉がどんなシーンでも当たり前に使われる時代なのだが、婚活では、“デート代を払える男がかっこいい”、結婚では、“家庭のお金は男性が多く出して当然”と思っている女性たちが、まだまだ多い。ゆえに婚活や結婚においては、どうしても金銭的負担が男性に多くかかってしまう風潮にある。

仲人として婚活現場に関わる筆者が、婚活者に焦点を当てて苦労や成功体験をリアルな声とともにお届けしていく連載。今回は、婚活と結婚における男女の金銭事情を見ていき、時代にあった金銭感覚を見直してみよう。

稼ぎのいい相手と結婚して専業主婦に

入会面談にやってきたみえこ(37歳、仮名)が言った。

「ほかの相談所で1年活動をして、成婚退会したのですが、私から婚約破棄をしました。理由は結婚の話を進めていくうちに、男性があまりにもケチで、貯金もなかったから。男性側の親も、お金のない息子をまったく援助しようとしなかった。ウチの親も、男性や向こうの両親にあきれていました」

とても憤慨している様子だった。みえこは続けた。

「結納式もやらない。結納金もなし。婚約指輪は男性が買うけれど、予算は30万円。結婚指輪は、私が彼のを買って、彼が私のを買う。結婚指輪の予算は1個5万〜6万円だというんです。さらに彼には、預金が100万円もなかった」

そこで、筆者は言った。

「結納式をきちんとして、結納金を男性側が持参するというのが当たり前だった時代もありました。そうしているカップルは今も確かにいます。でも、最近は、結納式も結納金もなし。婚約指輪の平均価格は20万円から30万円。結婚指輪はお互いプレゼントし合うというのが、普通になってきていますよ」

すると、みえこは、落胆した表情を見せながらまくし立てた。

「私、4つ上の姉がいるんですね。姉は26歳のときに結婚したんですが、結納金は100万円、それとは別に100万円近い婚約指輪を贈られて、結婚指輪も姉はお金を出すことなく、義兄が2人の分を買っていました。義兄は、今でもウチの両親や私と食事をしたときには、さっと会計をすませる。私や両親にお金を払わせたことはありません」

世の中には、そういう男性もいるだろう。しかし、それができるのは、経済的にしっかりとした収入のあるごく一部の人たちだ。婚活市場の中で、そうした男性を探すのは、とても難しい。

さらに、みえこは続けた。

「姉は、都心のタワーマンションに住んでいます。専業主婦です。私も姉のような結婚がしたいんです」

そこで、筆者はみえこに言った。

「でも、そうした男性を探すことができずに、ここまで来てしまったんですよね。理想ばかりを掲げていたら、お相手が見つからないままに、ますます年を重ねてしまいますよ。現実問題、年を重ねれば重ねるほど、結婚は難しくなっていきます」

これまで筆者は仲人として多くの婚活者を見てきたが、結婚できずにずっと婚活市場を彷徨い続けているのは、相手に多くの条件や金銭的負担を求めている人たちだ。

「お見合いするなら、年収600万円以上」「デート代は、男性が払って当然」「結婚したら、生活は男性の収入で賄って、自分が稼いだお金は自分で好きに使う」「家事や育児は、分担してほしい」などなど。

みえこは、言った。

「私は、専業主婦希望なので、家事を分担してほしいなんて思っていません。その分、男性にはしっかりと稼いできてほしいんです」

姉の結婚を憧憬しているようだが、夫に養ってもらっている姉にも、親や妹には言えない苦労があるはずだ。ワンオペレーションの家事、子育ては思いのほか大変だし、ストレスも溜まる。

また一般的に、夫が一家の経済のすべてを担っていると、 “家族は自分のお金で生活できているのだから、自分の言うことを聞いて当然”という思考回路になりがちだ。そこに家族のヒエラルキーが生まれる傾向にある。

……と、こんな話をしたのだが、「今は、まだ理想を曲げることはできません」という言葉を残し、みえこは入会をせずに帰っていった。

200万円の婚約指輪が欲しい

半年ほど前、まさのぶ(35歳、仮名)が入会面談にやってきた。まさのぶは、ほかの相談所で成婚退会をしたのだが、結婚の話を進めていくうちに、女性側から婚約破棄をされていた。

その理由がこうだった。

「婚約指輪を買うためジュエリーショップを回っていたときに、『私、これがいい』と言われのが、200万円の指輪だったんです。その場では『そんな高額なものは買えない』とは言えなかったので、『ちょっと考えさせてほしい』と言って、その日は帰りました」

結婚するとなると、結婚式をしたり、家を借りたり、家具や家電を揃えたりと、何かと物入りになる。年収も平均的、貯金もたいしてあるわけではないまさのぶにとって、婚約指輪に200万円を払うことはできないと思った。

次に会ったとき、女性にそれを伝えた。

「いろいろ考えたけど、やっぱり今の自分には婚約指輪に200万円は出せないかな」

すると、彼女が言った。

「結婚のお祝いということで、親に出してもらうことはできないの?」

“あなたがダメなら、親が出して当然”という口ぶりに驚いたものの、せっかく決まった結婚をダメにしたくはなかったので、それを親に伝えた。すると、父親が言った。

「その女性は結婚相手としてどうなんだろうか。200万円の指輪を男に平気な顔でねだれる女性と結婚したら、先が思いやられるぞ」

そして、次に女性に会ったときに「親も出せないと言っている」という話をしたら、その翌日、「今回の結婚話はなかったことにしてほしい」と、婚約破棄の話が来たそうだ。

筆者は、まさのぶに言った。

「親御さんがおっしゃったことは、当然だと思いますよ。金銭感覚が違う相手と結婚すると、結婚してからが大変です。結婚は一生のことですから、婚約破棄になってかえってよかったのではないですか?」

こんな女性が結婚相手に選ばれる

面談のあと、まさのぶは入会し、心機一転、婚活をリスタートさせた。

最初に5人の女性とお見合いを組み、そこから仮交際に入ったのが3人。そして、そこから真剣交際に入ったのは、一番目にお見合いをしたみゆき(36歳、仮名)だった。

真剣交際に入ってからも、みゆきとは順調に関係を育んでいた。私はまさのぶに、前回の婚約破棄とは同じ轍を踏まないように、お金の使い方や考え方については、結婚を決める前にしっかりと話し合うことを勧めた。

プロフィールに年収は出ているが、貯金額は出ていない。今、貯金がどのくらいあるのか。

また、結婚したら、1カ月にどのくらいの金額で家計をやりくりしていくのか。結婚後も女性が仕事を続けるとしたら、家計のお金の一部負担をしてもらうことは可能なのか。その金額はいくらなのかなど、包み隠さずに話し合うことが、結婚前には大事なのだ。

また、結婚の話がより具体的になってきたら、婚約指輪や結婚指輪の金額、両家の挨拶をどうするか、どんな結婚式を挙げるかなども話したほうがいい。

まさのぶはみゆきにこれらの話をしたが、そのときの彼女の反応で、違和感を覚えたことは、ほぼなかったという。

そして、お互いの心が決まったところで、まさのぶがプロポーズし、それをみゆきが受けた。

筆者の相談所では、成婚が決まると2人を呼んで食事をしながらのお祝い会をやるのを恒例にしている。みゆきは、他の相談所の会員だったので、お祝い会で会うのが初めてだったのだが、話をしてみると、地に足のついたとても堅実な女性だった。

左手の薬指には、小さなダイヤが1つついたシンプルな婚約指輪が光っていた。それは、まさのぶの身の丈でプレゼントできる値段で、何百万もする高価なものではなかったが、幸せそうな笑顔を作っているみゆきには、とても似合っていた。

みゆきは、前の婚約破棄の話もまさのぶから聞いていたようだ。話がそのことに及ぶと、こんなことを言った。

「まさのぶさんが、これまでどんな人とお見合いしてきたか、どんな生活をしてきたか、貯金はいくらあるかを、私には包み隠さず話してくださいました。でも、それは私と出会う前のことだから、過去はどうでもいいんです。大事なのは、これから2人がどんな関係を築いていくか。貯金もこれから2人で貯めていけばいいと思っています」

筆者が思わず、「結婚したら男性に生活もお金も依存する女性が多い中で、みゆきさんはしっかりしていますね」と言うと、まさのぶが、破顔一笑して言った。

「本当に彼女は、僕のために生まれてきてくれたような女性なんです」

「そんなことを言ってもらえると、本当にうれしい。ありがとう」

婚約中のこの時期は、2人にとって気持ちが一番盛り上がっているので、こんな惚気(のろけ)も思わず口をついて出てしまうのだろう。しかし、この初心を忘れずに、これから何十年と続く結婚生活を過ごしていってほしい。

お祝い会を終えてレストランを出たときに、「お互いへのリスペクトを忘れずに、末長く幸せにね」という言葉を、筆者は2人に送った。

婚活も金銭感覚も男女平等の時代

結婚した女性が、人前で夫の話をするときに“主人”という言い方をする人がいる。主な人。家の主役だ。

対して、男性は“家内”や“女房”と言う。家内は家の中にいる人という意味だし、女房は語源をたどれば、朝廷に仕えた女官のことだ。なかには、人前で妻の話をするときに、 “愚妻”、愚かな妻と下げた言い方をする男性もいる。

これらの呼び方があるのは、古くからのしきたりで、日本の夫婦の在り方を表している。夫が上で、妻は下、ということだ。

しかし今、結婚も、夫婦の在り方も変わりつつある。

パートナーとして、同等の立場で家庭を築いていきたいと思っているカップルが増えてきているし、専業主婦を希望する女性も少なくなり、女性も男性と同様に働くのだから、家事や育児は分担してほしいと希望する女性も多くなった。


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また共働きだった場合、一昔前は、子どもが生まれてから育休を取るのは女性と決まっていた。それが時代の流れとともに、男性も育休が取れるようになり、2022年10月からは、男性の育児休暇を推進する「産後パパ育休」が本格的にスタートした。

時代は変わりつつある。婚活事情も変わりつつある。

婚活を苦戦している人たちは、いま一度、自分がなぜなかなか結婚できる相手に巡り会えないのか、見直してみるといい。そして、相手に求めるものが多い人ほど、今の時代は結婚できないということに気づいてほしい。

(鎌田 れい : 仲人・ライター)