コストコの「高時給求人」に、地方企業の経営者から嘆きの声が相次いでいるーーそんなニュースが話題になっている今、労務費を中心としたコスト構造から同社の強さを分析します(写真:yu_photo/PIXTA)

コストコ、時給1500円で求人募集

とても清々しいニュースが飛び込んできた。コストコが日本各地で、時給1500円のアルバイトやパートを募集しているという。読者もアルバイトやパートを検索できるサイトで「コストコ」を検索してみてほしい。なるほど、レジ打ちや品出し、キッチン業務などを1500円で大募集している。

この1500円はスタートで、それ以上の時給を提示するものもある。なかにはご丁寧にコストコのメンバーシップカードが無料でもらえると「特典」を打ち出している求人もあった。


コストコ広島倉庫店の短期スタッフ募集記事/出所:スタンバイ

各都道府県では最低賃金が異なる。最低賃金が1000円だとしても、約1.5倍になる。当たり前だが、時給1000円と時給1500円では、6時間働くと3000円もの差が生まれる。働きがいは時給だけでは決まらない、とはいえ、この差は人びとに訴求するにじゅうぶんだろう。

ところで気になるのはコストコの労務費を中心としたコスト構造だ。私はこれまでコストコのビジネスモデルについて解説記事を執筆した。今回は利益の仕組みというよりも、労務費を中心としたコスト構造について見ていきたい。

まず最初に、コストコのアメリカ本社が公開している決算状況を見てみよう。


コストコのアメリカ本社が公開している決算状況/出所:コストコ公式サイト

<コストコ2022年8月期決算>
・商品収益:222,730百万ドル(≒31兆円)
・会員費収益:4,224百万ドル(≒5914億円)
※1ドル=140円として計算

上記合計で、総収益226,954百万ドル(≒32兆円)だ。この総収益を稼ぐため労務費はどうなっているのだろうか。

そこで「販管費及び一般管理費」を見ると19,779百万ドル(≒2兆7690億円)となっている。収益に対する販管費比率は8.7%となる。これは異常に低い値だ。

コストコvsウォルマート

なお、「販管費及び一般管理費」は労務費だけを指さない。付随する共通設備の減価償却費、光熱費やクレジットカードの決済手数料、ECサイトの運営費、等々が含まれている。

しかしながらコストコもアニュアルレポートのなかで、主には「労務費や福利厚生費(社会保障費含む)」と記しているので、労務費の概算としてこの値を採用しても問題がないだろう。

私はさきほど異常に低いと論じた。では同じくアメリカで小売りジャイアントのウォルマートを取り上げてみよう。


ウォルマートが公開している決算状況/出所:ウォルマート公式サイト

<ウォルマート2023年1月期決算>
・商品収益:605,881百万ドル(≒85兆円)
・会員費収益:5,408百万ドル(≒7571億円)

上記合計で、総収益611,289百万ドル(≒85兆7571億円)だ。次に「販管費及び一般管理費」を見ると127,140百万ドル(≒18兆円)となっている。収益に対する販管費比率は20.8%となる。

なお、このウォルマートの値を比較すると、なんだかウォルマートが悪く思える。しかし、そんなことはまったくなく、ウォルマートは業界水準にあるといえる。あくまでウォルマートを引き合いに出したのは、コストコの販管費の低さを際立たせたいためだった。

ちなみに、日本のスーパーマーケット有名各社の、売上収益にたいする販管費率を計算すると20〜25%ていどとなる。日本のスーパーマーケットと、グローバルに展開するコストコ、ウォルマートと単純に比較はできないが、こう見てもコストコの販管費の優位性が感じられるはずだ。

コストコのまわりでは、「時給1500円は出せない」と嘆く小売店があるという。しかし、身も蓋もない結論をいえば、コストコはコスト効率がもともと高く、労務費を上げても求人できるほどの余裕がある。積極的に求人をかけ、働いてくれる人たちを集めたほうがいい。

高効率ゆえの販管費の低さ

労働者一人ひとりの報酬が低いわけではない。商品収益と比較した総額で見ると、他社よりも圧倒的に低く抑えているのだ。だからこそ、たとえば日本で、アルバイトやパートにも高い報酬を与える下地がある。労働者一人への絶対額は高く、全体では低く。

「コストコのように高い時給を払えるはずがない」と嫉妬してみせるより、むしろコストコ並みの低コスト構造を学んだほうが、はるかに生産的だろう。誰もがコストコの模倣はできないし、誰もがコストコになれないかもしれないが、少なくとも羨むだけよりはいいだろう。

そこで、同じくコストコのアニュアルレポートで、自らのコスト高効率性について語った箇所がある。おそらく、これがすべてであろうと私は思う。

・メーカー直接取引による効率的な物流を実現、メーカーはコストコの倉庫に直接納品をし、そこから各店舗に配送。圧倒的な物流費の低減を実現
・倉庫と店舗の効率的な設計・連結により単純な動線で商品を運搬できる
・厳密な会員制度と入退場管理で万引きを含む在庫ロスリスクを最低限に抑えている
・店舗の開店時間が他のチェーン店よりも短いのに効率的な販売が実現できており、販管費が低減できる
・陳列はパレット、ダンボールむき出しのままであり労務コストを抑えている。あれだけの大型店舗にもかかわらず商品点数は4000ほどであり(著者注:日本のコンビニエンスストア並み)、限定された商品数で低価格かつ高品質を実現できている

(※和訳は筆者による)

ところで、このようにビジネスを好転させ続けている企業があり、その企業が高報酬を武器に求人を行うのは当然といえないだろうか。最低賃金を下回る募集は問題があるが、最低賃金を大幅に上回る求人だ。地元の人たちが応募し、賃金を得、それを地元に還元するのだから見事なモデルというほかない。

優れた企業は採用も大胆な高賃金を武器にする。そして、大変に言いにくいが、報酬に魅力のない企業は、それ以外の働きがいを提供するか、求人を諦めるしかない。

しかし、今回の件は私には清々しいニュースに映った。きっと時給2000円を払う小売業が登場したら、おそらく私たちの意識も変わるだろう。

(坂口 孝則 : 調達・購買業務コンサルタント、講演家)