西武バスがいわゆる路線バスの自動運転車両を公道で走らせています。その設備は車両側だけでなく、道路の“舗装”部分にまで及び、トータルでバスの走行を支えています。

西武バスが埼玉県飯能市で自動運転技術の実証実験

 西武バスは2023年7月12日(水)から7月21日まで、自動運転技術の早期実用化を目指し、中型バスによる実証実験を埼玉県飯能市の「飯能駅南口〜美杉台ニュータウン線」で行います。実証実験で使われるバスは自動運転を支える設備が盛りだくさんで、さらに、道路にも仕掛けが施されています。


実証実験で使用する中型バス「エルガミオ」(右)(乗りものニュース編集部撮影)。

 実験を行うのは飯能駅南口と美杉台ニュータウンを結ぶ片道2.5kmの路線。2021年にもこの路線で自動運転の実証実験が行われています。この路線は西武バス管内では、歩道と車道が明確に分離されており、安全性が高いため、再度、実証実験の場として選定したといいます。
 
 前回は西武バスが保有する大型バス車両を使用し、実際に客を乗せて実験が行われましたが、今回は東京大学発のベンチャー企業「先進モビリティ」が保有する中型バス車両を持ち込み、客は乗せずに実証実験が行われます。自動運転の講習を受けた運転士が運転席に座りますが、加減速やハンドル操作を部分的に自動化した「自動運転レベル2」となります。

 さらに今回の実証実験では、自動運転バスを通常の路線バスに続行させる形で運行します。事前に作成した3Dマップ(SLAM)に沿って、センサーで目標物を感知しながら位置情報を取得する仕組みと、衛星から走行位置を把握する「GNSS」を併用した自動運転システムを使用しています。上空に歩道橋や街路樹があり、電波が微弱となる道路上には、人の目に見えにくい特殊な塗料「ターゲットラインペイント」を塗装。これをセンサーで把握してペイントに沿って走行させ、位置情報の取得を補強できるようにしていることが特徴です。

まるで未来のバス?自動運転バスに乗ってみた

 西武バスは7月12日(水)の実証実験初日、自動運転の様子を公開しました。車内に入ってみると、運転席の後部に設置された巨大なモニターが目につきます。このモニターには、車内外の至る所に設置されたカメラの映像や、現在使用している自己位置の取得方法、どの部分を自動制御しているか、信号の色などを認識して表示するようになっています。
 
 走行中は基本的にSLAM(事前作成した3Dマップ)モードで走行し、上空の歩道橋や街路樹により電波が微弱となる「ひかり橋」停留所付近で、SLAMとTLP(ターゲットラインペイント)を組み合わせたモードに切り替わりました 。「GNSS」モードは上空に遮蔽物がない飯能駅のロータリー付近で使用しているそうです。

 通常、飯能駅南口〜美杉台ニュータウン間は約8分ですが、今回は全ての停留所に停まり、安全を確認しながら走ったため、約15分を要しました。とはいえ、スピードは36km/h程度で極端に遅いわけではなく、揺れも少なく乗り心地は上々でした。基本的には自動運転モードで走りますが、現時点では道路上の駐車車両を自動で避けることはできないそうで、その場合は手動運転に切り替えていました。
 
 自動運転バスは、西武バス飯能営業所に設けられた遠隔監視室から監視。このシステムは映像分析AIを活用しており、危険な物体を察知してアラート表示する機能も備えています。また、車両に取り付けたドライブレコーダーを通して、AIが道路の劣化状態などを判断するシステムも使用しています。道路の劣化状況の確認はバス運転士の業務でもありますが、こうしたシステムで負担軽減が見込めるといいます。
 
 今後の見通しについて、西武バスの石田知大 次世代モビリティサービス推進担当 兼プロモーションスタッフ 主任は「バスの自動運転は、車内における運転以外の業務も解決する必要があるため、実用化には時間がかかると考えています」としたうえで、「少子高齢化による乗務員減少への対応だけでなく、自動運転によって路線バスの安全性を向上させることも視野にいれています」と話します。