全国には個性的な消防車が数多く存在します。なかでも2023年3月に東京消防庁に配備されたばかりの工作車(強力吸引車)は、全国でも1台しかない激レア車です。いわばバキュームカーの消防版、どういう経緯で導入されたのでしょうか。

東京の山際エリアに配置された最新消防車両

 2023年6月中旬に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催された「東京国際消防防災展」において、今年から運用が始まったばかりのある特殊な消防車が披露されました。正式名称「工作車(強力吸引車)」というこの車両、いわば「消防バキュームカー」です。

 折しも、線状降水帯に起因する豪雨や台風によって、河川の氾濫や土砂崩れ、家屋の倒壊などが多発しています。この車両は、災害の激甚化で毎年のように命を落とす人が出ている状況に対応するために登場したものといえます。


「東京国際消防防災展2023」の消火・救助演技で会場に姿を見せた東京消防庁の工作車(強力吸引車)。2023年7月現在、日本唯一の消防車両(乗りものニュース編集部撮影)。

 工作車(強力吸引車)は、バキュームタンクを中心とした搭載機器により、水分量の多い土砂や乾いた砂、泥水、瓦礫などを強力に吸引することが可能な性能を有しています。

 市井の工事現場などで用いられる「汚泥吸引車」や「強力吸引車」などに近似するものですが、これがあることで、土砂崩れなどの大規模災害や、汚泥や砂などで満たされ重機が進入できない建物内や槽内、立坑内などといった、救出までに時間を要する場面において、活動阻害の要因となる土砂を瓦礫ごと排除し、短時間での救助が可能になると見込まれています。

 配置先は、東京都西部を管轄区域として受け持つ第九消防方面本部の消防救助機動部隊(通称ハイパーレスキュー)です。

 第九消防方面本部は、東京消防庁が管轄する地域の約半分を占める東京都の西多摩地域・南多摩地域の8市3町1村を受け持っています。特筆すべきは、東京消防庁管内で山岳地域を有するのは、同方面本部のみであり、広域林野火災、土砂崩落災害などといった大規模災害への対応力強化が求められるエリアでもある点です。

 一方で、八王子や町田、日野、多摩などといった人口の多い都市も点在し、管轄地域内の人口は約170万人にものぼるそう。ゆえに東京消防庁でも、この地域は都市型市街地、住宅密集地、丘陵住宅団地郡、アメリカ軍基地、高速道路、湖水、山岳地帯などなど、あらゆる消防対象物が存在する地域で、災害の発生も多種多様であると認識しているのだとか。

 だからこそ、国内の消防機関として初めて導入した工作車(土砂吸引車)を配備したといえます。

ひょっとしたら全国各地に派遣されるかも

 2023年7月現在は1台しかない工作車(強力吸引車)ですが、導入のきっかけは2021年7月に起きた熱海市伊豆山土石流災害だといいます。

 大雨によって発生した大規模な土石流によって、死者28名、負傷者3名を出したこの災害に、東京消防庁も緊急消防援助隊として人員を派出。泥濘やがれきで覆われた被災地において、派遣された隊員たちは文字通り泥だらけになりながら、土砂を少しずつ取り除きつつ行方不明者の捜索などにあたりました。

 そういった経験から、翌2022年度予算で調達され、今年(2023年)3月に現場部隊に配備されました。なお、当初は「土砂吸引車」(仮称)と呼ばれていましたが、のちに東京消防庁の公式ホームページなどで画像と共に正式名称が披露されています。


東京消防庁の工作車(強力吸引車)の後ろ姿。2023年7月現在、日本唯一の消防車両(乗りものニュース編集部撮影)。

 東京消防庁の説明によると、同車は全長7.50m、全幅2.39m、全高2.87m、車両総重量1万3375kgで乗員は3名です。最大積載量は4710kg、このうち泥濘や土砂などを収容するための汚泥タンクは最大積載量4160kg、最大積載容積3200リットルあり、このほかに容量200リットル(200kg)の水槽も搭載しているため、これを使って瓦礫を押し流したり、洗浄したりすることも可能です。なお、残り350kgは各種資器材で、その中に含まれる吸引ホースは最大100mまで伸ばせるといいます。

 ホースを積載した姿は、さながら「真っ赤なバキュームカー」といった感じですが、消防車両として緊急走行が可能なよう、赤色灯やサイレンは完備しています。

 過去の教訓から東京消防庁が初めて導入した工作車(強力吸引車)。全国唯一の車両のため、今後は緊急消防援助隊の一員として全国の被災地で活動する可能性もあると思われます。

 ただ、この車両が活躍するときは、逆にいうとその地域が大規模災害に遭っているという証左です。はしご車などと同じく、活躍せずに済めばそれに越したことはないでしょう。