拡張する成田空港「鉄道アクセス強化を」千葉県が要望 凍結状態の「壮大な地下鉄構想」動かすか
千葉県が国に対して「成田国際空港の鉄道アクセスの充実」を要望しました。事実上凍結状態にある「都心直結線」や空港付近の線増などが盛り込まれています。
「都心直結線」や空港付近の複線化などを想定
千葉県は2023年6月、「成田国際空港の鉄道アクセスの充実」などを盛り込んだ国の施策に対する要望をまとめました。今年度の要望は、2022年7月に運輸総合研究所が提言した成田空港の鉄道アクセス向上案や、2023年3月にNAA(成田国際空港)が中間取りまとめ公表した「新しい成田空港」構想を踏まえたものとなっています。
京成スカイライナー(画像:写真AC)。
成田空港では、C滑走路の新設やB滑走路の延伸などにより、年間発着回数を30万回から50万回に引き上げることが計画されています。空港利用者の増加が見込まれることから、鉄道においては、空港周辺に存在する単線区間の解消や駅ホームの拡充など、抜本的な施設の整備が必要になるとしています。
要望では、年間発着回数50万回に対応した鉄道整備・アクセス改善について、関係機関や事業者との検討を計画的に進めることや、成田空港と東京駅を直結する地下鉄新線「都心直結線」に関して、関係者による協議の場を設置することを求めるとしています。
現在、JR線は成田〜成田空港間、京成線は成田湯川〜成田空港間がそれぞれ線路1本のみの単線となっています。運輸総合研究所の提言では、鉄道アクセスの充実について、まずは長編成化や運行本数の増加による輸送力向上を図ることが必要と指摘。単線区間の北側または南側に線路を増設する4案を作成しており、それが今回の要望でも引用されています。複線化の事業費は700〜1400億円と試算されています。
また、都心直結線は都営浅草線とは別に、押上から東京駅付近を経て泉岳寺までの約11kmを大深度地下で整備し、途中駅は東京駅付近のみとする構想で、概算事業は約4000億円を見込んでいます。京成線や京急線と直通し、成田・羽田双方への速達性を高める狙いであり、鉄道整備の方向性を示す交通政策審議会答申では、国際競争力の強化に貢献するプロジェクトとして位置付けられています。答申では、事業計画を精査した上で事業性の見極めが行われることを期待するとしています。
ただ、東京都が事業化に向けて検討の深度化を図るとしている路線(羽田空港アクセス線、蒲蒲線、有楽町線延伸、大江戸線延伸、多摩都市モノレール延伸)には選定されず、事実上、凍結状態となっています。過去の検討では、都心直結線の整備によって都営浅草線の運行本数が減少し、サービスレベルが低下することなども課題として指摘されていました。成田空港の機能強化が具体化したことから、千葉県側が国に対し、改めて関係自治体や鉄道事業者を含む協議の場を設置することを要望した形です。
今回、県が要望した成田空港の鉄道アクセス向上案は、いずれも現時点で事業化に向けた動きはありませんが、空港ターミナルの再編などと合わせて今後の動向が注目されます。