都内に住む17歳差の新婚カップル。その関係性から見えてくるものとは?(イラスト:堀江篤史)

春に酒場で知り合い、冬に結婚をしたカップルがいる。都内に住んでいる会社員の武田和人さん(仮名、61歳)と美容師の愛さん(仮名、44歳)だ。

Zoom取材の日程は日曜日の夜9時。画面の向こう側ではテニス帰りだという和人さんがダイニングで酒を飲む準備をしている。細身の体がよく日焼けしていて、髪型は清潔感のあるソフトモヒカン。若々しい印象を受ける男性だ。

色白の愛さんはすっぴんのパジャマ姿。お風呂上がりだという。筆者とは5年ほど前からの飲み仲間なので気を許してくれているのだろう。和人さんが買ってきたという焼き鳥でシャンパンを飲みながら取材に応じてくれた。

出会いは居酒屋のカウンター席

2人が出会ったのは2021年4月。東京の下町にある居酒屋のカウンター席だ。和人さんは同僚と、愛さんは女友だち連れでそれぞれ来ていた。アットホームな店なのでグループを越えて自然と会話が生まれ、和人さんが自分の携帯電話を愛さんに渡した。LINEをつないでおいてくれ、と。和人さん、一目惚れだったのだろうか。

「わかりません。酒の勢い、じゃないですか。あー、焼き鳥とシャンパンは合わないな」

恥ずかしがりの和人さん。筆者とも2度ほど飲み交わしているのだが、お酒が進まないと口が滑らかにならないようだ。まずは愛さんの話を聞こう。

北陸出身の愛さんは美容師として長く東京で働いている。結婚願望はあったものの、恋愛はうまくいかないことのほうが多かった。「会話が続く」相手を求めていたため、年齢を重ねるとともに婚活にも苦戦。きちんと働いている会話上手の30代40代男性は都会の婚活では売り手市場だからだ。

美容師なので土日休みではない。夜の仕事の女性向けに髪をセットする仕事も続けていた。それでもたまには憂さ晴らしで飲みに行きたい。出会いを求めずに訪れた酒場に和人さんがいた。

結婚した今でも名字で呼ぶ

「武田さんとはほとんどしゃべらなかったので第一印象はほとんどありません。嫌じゃない、ぐらいです。また同じ店で会ったら一緒に飲むぐらいは構わないし、LINEで誘われても嫌だったら断わればいいだけです」

結婚した今でも和人さんを名字で呼ぶところが興味深い。年齢差があるので遠慮があるのだろうか。ちなみに和人さんは「愛」と下の名前で呼び捨てである。

和人さんの行動は早かった。すぐにLINEで「ご飯を食べに行こう」と愛さんを個別に誘ったのだ。酒場で会ってから3日後の初デートだった。

「その後は夜の仕事が入っていたので、たまたまです。ゴハンぐらいはいいかなと思って行きました」

と淡々と話す愛さん。照れ隠しなのでなく、本当に「誰とでもゴハンぐらいは付き合う」きさくな人柄なのだ。ただし、改めて和人さんと2人で会ってみると「よくしゃべってくれて楽しい」と感じたと明かす。その3日後には交際することになり、同じ月の下旬には愛さんが一人暮らしをしている賃貸マンションで半同棲をするようになった。

「私の家のほうが会社まで近いし、夜は私がゴハンを作ってくれるから、という理由です。ひどいですよね(笑)。でも、武田さんが来ることが嫌ではありませんでした。彼の家には『部屋が汚いから』と入れてくれないので(実は既婚者なのかと)疑いましたけど」

和人さんは都内で家族向けの分譲マンションを購入して一人暮らしをしていた。結婚した今ではその家で愛さんのために掃除と洗濯を一手に担っているが、「自分のためにはキレイにできない」タイプらしい。

「7月にはようやく入れてくれましたが本当に汚かったので掃除をしていたら、私がコロナにかかってしまいました」

高熱が続き、仕事はおろか身の回りのこともできなくなった愛さん。そのまま和人さんの家で過ごすことにした。体調的には最悪だったようだが、2人の関係性はコロナをきっかけに深まった。

「武田さんにも伝染ってしまいました。でも、彼は自分も熱があるのに私を看病してくれたんです」

自分も熱があってつらいのに看病してくれた

「いやー、大変でしたよ。愛はとにかく機嫌が悪かった。おじやを作ってあげたら『いらない』、放っておいたら『お腹がすいているんだから何か作ってよ!』と言うのです」

愛さんの傍らでシャンパンを飲んでいた和人さんが口をはさみ始めた。調子が出てきたようだ。大企業の関連会社で正社員として長く勤めている和人さん。定年を迎える年齢まで結婚しなかったのはなぜだろうか。

「ずっと好きな人がいたからですよ。一回り年下の同僚で、彼女は今でも独身です。告白したこと? ありません」

この恋愛については多くを語ろうとしない和人さん。年下の同僚だからセクハラにならないように配慮したのだろうか。意外なほど真面目な人物である。業務に関しても朝6時ごろに出社して、あやふやなことは基礎から勉強して資料を読んでから取り組むという日々を過ごしてきた。

「やるべきことはきちんとやらないとアカンと思っています。60歳で定年退職をしましたが、延長雇用の今も業務内容は変わっていません。給料は半額になっても、他で働くよりは良い金額だと思います。頭が働く限りは働きますよ。僕が先に逝くので、愛にこの家と1億円ぐらいは遺そうと思っています」

「よく言うよ〜。そんなに持っていないくせに!」

今度は愛さんがツッコミを入れ始めた。結婚したのは出会ってから9カ月後の2022年1月。和人さんとは一回り以上違うが、年齢差は気にならなかったのだろうか。

「あと7、8歳若かったら子どもが欲しかったので気にしていたかもしれません。でも、この年齢になったら一緒にいて気楽だなと思う人のほうがいいでしょう。私は仕事上で人に気を遣っているので、家に帰ってまで気を遣いたくありません」

「オレが気を遣っているよ!」

酔い始めた和人さんの反撃は無視して、愛さんにさらに聞きたい。43歳で結婚してどんな感想を持っているのか。

ケンカはお互いを認め合っているからこそ

「(私の相手は)この人なんだな、と感じています。いろんなことを助けてくれるからです。仕事場まで車で送ってくれることもあります。体力的というよりも精神的に楽になりました。あと、私がワガママを言っても適当に聞き流してくれるのもいいですね。武田さんは我慢しているかもしれないけれど、私は楽です」

愛さんの両親は和人さんとの年齢差を心配した。しかし、実際に会ってみたら「よかったね」と祝福してくれたという。

「愛の両親は酒をあまり飲まないのですが、親戚は酒好きが多いようです。挨拶に行ったとき、『あそこの家はつまんないからうちに遊びにおいで』と言われました」


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愉快そうに笑う和人さん。愛さんとの結婚に関しては強気でやや上から目線の発言が多いが、根っこのところでは自分を受け入れてもらうことを願い、常に努力しているのだと思う。結婚生活について改めて聞くと、独特な表現でこう答えてくれた。

「愛は一生懸命にやってくれています。人間、それが一番大事です。このジジイのために朝早くに起きてゴハンを作ってくれるし夜もこの時間まで付き合ってくれますから。よくやってくれていると評価しています。まあ、評価できないこともいっぱいありますけど。酔っ払って家の中を徘徊したり」

徘徊なんてしてないよ、もう!と愛さんが嬉しそうに怒っている。言いたいことを言い合えて、認め合っているからこそ仲良くケンカできる。そして、一緒に飲むお酒が妙に美味しい。今夜は晩婚さん夫婦に乾杯、である。

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(大宮 冬洋 : ライター)