快進撃を続ける江頭2:50さんのYouTubeチャンネル『エガちゃんねる』。その人気の秘密に迫ります(画像:『エガちゃんねる』より)

2020年2月に誕生した江頭2:50のYouTubeチャンネル『エガちゃんねる』。持ち前の体を張った過激なネタが大ヒット。動画再生数とチャンネル登録者数が驚異的な伸びを見せ、開設9日目でチャンネル登録者数100万人を突破した伝説のチャンネルだ。

このチャンネルを立ち上げ、現在も制作の指揮を執るのが総合演出・ディレクターの藤野義明氏。この記事の前編では、その藤野氏と江頭氏の出会い、そして、チャンネルブレイクまでの軌跡を取り上げた。後編ではその成功の秘訣についてさらに深く探っていく。

前編:江頭2:50の「エガちゃんねる」が伝説になった必然

伝説のチャンネルの「制作の裏側」

開設からわずか9日で登録者数100万人を突破、現在では登録者数376万人(6月14日時点)を誇る『エガちゃんねる』。

その人気を支えているのは、江頭の圧倒的な存在感と共に、藤野を中心としたディレクター陣の制作力・編集力によるものが大きい。質の高い『エガちゃんねる』の動画はどのようにして誕生しているのだろうか。

「うちは動画を1本編集するのに4〜5日かかるんです。これだけ時間をかけているところは僕はYouTubeでは知らないです。編集してくれるディレクターがいて、それを僕が引き取って、1〜2日かけて最終的に仕上げます」


江頭2:50の『エガちゃんねる』

編集ディレクターは藤野以外に3人。テレビ業界でトップクラスの編集能力を持っている選りすぐりのプロフェッショナルたちばかりだ。たとえばそのうちの1人は『月曜から夜ふかし』『しゃべくり007』『世界の果てまでイッテQ!』(いずれも日本テレビ系)を立ち上げたテレビ業界の最前線を走る人物という。

「僕はADの頃から編集を学んで、ディレクターになってから10年以上ほぼ毎日、編集をしてきました。どうやったら少しでも笑いを作れるかを追求していくと、やっぱり『編集がうまい、うまくない』の差が出てきます。『エガちゃんねる』を編集しているディレクターは数多くいるテレビ業界の中でもトップクラスの人たち。現在、それが3人です。編集スタッフ何十人体制で、手分けしたりとかすれば効率もいいと思うんですけど、そういう作り方とは僕らは全然違いますね」

動画を見やすくする編集はできても、その先の「笑いを作る編集」となるとさらに難易度が上がる。

「『お笑いの編集』はフリとオチや笑いの構成を理解していないとやれません。ツッコミテロップ(演出側が出演者に対してツッコミを入れる役割を持ったテロップ)とかはお笑いのセンスも試されます。『?』のツッコミテロップ1個を入れるにしても、効果音を「ポン」と入れるのか、「パフ」と入れるのかで全然イメージが違って、その効果音一つで笑いが変わってきます。フリとして音楽で感動的な方向に持っていって、パッとカットアウトとしてオチで爆発させるとか。ナレーションで煽ってから、こっち方向に行くと見せかけて逆方面に行くとか。そうやって笑いを1個1個作っていく」


『エガちゃんねる』総合演出・ディレクターの藤野義明氏(写真:藤野氏提供)

たとえば、「笑いを作る編集」によって、笑いが増幅した一例として紹介してくれたのが、江頭がチャットGPTが考えた罰ゲームを受けるという動画だという。

「江頭さんがAIが考えた罰ゲームを受けるんですけど、その内容が街中でダンスをするというものなんです。街中でダンスをさせられてるだけなんですけど、そこを音楽とテロップで目線付けをしたり、江頭さんの気持ちだったり、みんな素通りしていく状況に『これは都会の冷たさでもあり、優しさでもある』みたいなテロップを入れたり(笑)。ちょっと笑いを足していくことでより見てもらえるような内容に仕上げています」

(動画:エガちゃんねる EGA-CHANNEL/YouTube)

今、動画制作に関わる一般の人も増えているが、どうすれば、人の心に響く映像にできるのだろうか。藤野が真っ先に挙げたのは意外にも音楽だった。

「『エガちゃんねる』と他のチャンネルではBGMが違います。音楽の効果は大きく、それで無意識に面白くなったりしているんです。BGMや効果音は全部、版権フリーのありものからダウンロードして、それぞれ何千、何万とある中から、その動画に合うものを使って、笑い、ストーリーを作っていく感じですね」

マーケティングよりも「自分の直感」

「テレビだと関わっている人が多くて、企業としても大きく、スポンサーもたくさんいて、ちょっとしたことでも『できる、できない』の判断を仰がないといけません。その点、YouTubeではやれることの幅とスピード感が全然違います。人を傷つけたり、迷惑をかけるようなことをしなければ、極論を言えば、僕と江頭さんが怒られさえすれば、腹を括って何をやってもいい。自己責任の中で、自分が正しいと思うお笑いをやるだけです」

そうして世に送り出される『エガちゃんねる』の動画だが、その人気企画といえば、「初めてシリーズ」である。普段、「食の冒険をせずに、決まったものしか食べない」という江頭に、有名飲食店のメニューを食べてもらい忖度なしでレビューしてもらうという内容で、容赦のない江頭の批評は賛否両論を呼んだ。この企画もテレビではまずありえない企画である。

(動画:エガちゃんねる EGA-CHANNEL/YouTube)

「江頭さんはマクドナルドの商品に対して『自動販売機で買ってきたのかよ!』『犬の餌じゃん!』とテレビで放送できないようなことを言っているんですよ(笑)。テレビだったら絶対できないですよね。でも、あくまでも江頭2:50個人の感想なので。そのあとにブリーフ団(S.M.L)の3人が『いや江頭さん、何言ってるんですか!』『めちゃくちゃうまいじゃないですか!』と一応フォローもしているので。そういう判断で押し切りました」

今のところマクドナルドを含め初めてシリーズで取り上げられた飲食店からもクレームはなく、モスバーガーに至っては、江頭に直筆の手紙で感謝の意を伝え、さらにギフト券までプレゼントしている。

(動画:エガちゃんねる EGA-CHANNEL/YouTube)

「江頭さんが何か言ってきたところで目くじらを立てるような世界のマクドナルドさんじゃないですよ。器がでかいです。それに江頭さんは弱い者いじめじゃなくて、強いものに対して言っているわけです。あんだけみんな大好きなマックを『まずい!』って言ってるから成立する、というのはありますね」

一般的なマーケティング感覚からいけば突拍子もない企画だが、実際、藤野にはある思いもあった。
 
「バズろうと思ってもなかなかバズらないですから、僕はマーケティングよりも自分の直感を信じようと思ってやっています」

夜中の2時50分に配信しているのも、自分の直感を信じてのことだ。

「YouTubeを始めた当時、毎日19時に配信するチャンネルが多く、そしてテレビ的な編集は嫌われるって言われていたんです。でも毎日配信する必要はないし、19時でなくてもいいのではと」

現状維持はどんどん停滞していく。勝ち続けるしかない

最近、有名YouTuberによる「広告収入が全盛期の10分の1」に減ったという告白が大きな話題となり、一説には「YouTubeバブル終焉」や「YouTubeはオワコン」という声が上がっている。またチャンネルをやめていくYouTuberも後を絶たない。このような事象に対して藤野はどう思っているのか。

「『エガちゃんねる』の収益は1年目より2年目、2年目より3年目の方がよくなっています。なのでYouTubeがオワコンという感覚はありませんが、今の状況が当たり前に続くわけではないという危機感は常に持っています。楽しいことや好きなことだけでご飯食っていくのは難しいんですけど、それをやるには勝ち続けるしかない。現状維持の場合はどんどん停滞していくので、日々進化することを心がけています」

藤野が考える『エガちゃんねる』の進化とは、チャンネルの舵取りや動画のクオリティを向上させることである。

「コアファン向けにウケることをやると、なかなか数字が取れないんですよ。やっぱりライト層にもウケなきゃいけない。そこで一般の人たちにも届くような企画をやると、さらに動画再生数やチャンネル登録者数が増加して『エガちゃんねる』は急成長を遂げて進化することができました」

新規ユーザー獲得に成功した『エガちゃんねる』だが、かといってヘビーユーザーであるコアファンを見捨てることはない。

「一時、コアファンの方は物足りないからか、ちょっと離れてたりしたんですけど、そこでコアファン向けのすごいどぎついネタと、みんなが入りやすいネタを並行してやってみたり。平和の中に急に昔ながらの江頭さんらしいネタを入れるという見せ方にしています」

YouTubeには、スポンサーからプロモーション料をもらって企業、商品、サービスの宣伝を行う「案件動画」という存在がある。チャンネルにとってはグーグル審査の広告収入以外の貴重な収益となるのが「案件動画」だ。さまざまな工夫を施し、視聴者が楽しめる内容に仕上げている。

「『案件動画』は広告がつかなくてもいいので、割と冒険した内容でやったりしてみたんですが、数字が伸びなかったんです。これだと、案件を発注してくださった方々に申し訳ないですし、せっかく案件をもらったからにはプロとしてちゃんと数字を取れるようなものにもしたいんですよ。だから今は人気の動画の中に案件を入れ込むというスタイルでやっています」

『エガちゃんねる』が関わった案件について、その反響の大きさを物語るエピソードがある。

「以前、案件でモツ鍋をやって、すごい売れすぎて、すぐに販売中止になったんです。先方から『もう1回やってください。またやってもらえる場合は工場をもうひとつ作ります』と、販売停止にならないようにスタンバイしてくださって。それでゴーサインが出て再びモツ鍋案件をやると、また生産が追いつかなくなって、販売中止になったんです。我々もそういう話を聞くと本当に嬉しいですよね」

(動画:エガちゃんねる EGA-CHANNEL/YouTube)

(動画:エガちゃんねる EGA-CHANNEL/YouTube)

「だって、怖いじゃないですか」

大人気チャンネルになっても勝ち続けるために進化を積み重ねる藤野。『エガちゃんねる』で成功しながらも、なぜ彼は危機感を維持し続けられるのだろうか。

「だって、怖いじゃないですか。毎回、深夜の2時50分に動画を公開して、そこからずっとコメント欄をチェックして、動画の伸びとか見て、4時ぐらいまで寝れないですよ。『今回は良かった』『これは伸びないな』『コメント欄であんまり評判よくないな』と振り返って、動画の内容は変えられないから、タイトルやサムネイルを変更することもあります。再生数が伸びなければ、この企画はもうやめたほうがいいとか」


藤野氏(写真:編集部撮影)

そこには自身が映像ディレクターとして関わった『がんばれ!エガちゃんピン』『「ぷっ」すま』『さまぁ〜ず×さまぁ〜ず』の終了という苦い経験があった。

「終わった悲しみってあるんですよ……。だから『エガちゃんねる』を終わらせないために、再生数を獲得しながらも、江頭さんを生かすことを一番考えています。もし『エガちゃんねる』が終わったら、江頭さんにもスタッフのみんなにもお金を払えない。コアな方向に行きすぎると、再生数は下がってしまう。だから終わらないためにバランスを見ながらチャンネルを運営しています」

今後は、コロナ禍でなかなか踏み出せなかった海外進出や、今年11月に佐賀県で開催される『バルーンフェスタ』に佐賀県人会(江頭2:50、オラキオ、チェリー吉武、はなわ)で出場する計画を練っている。また年内に世間もビックリするようなサプライズがあるかもしれないという。

『エガちゃんねる』を大人気YouTubeチャンネルに育て上げた藤野には気になるYouTubeチャンネルがある。

「今、気にしているのは、『ジャにのちゃんねる』(二宮和也、中丸雄一、山田涼介、菊池風磨のジャニーズ4人が運営するYouTubeチャンネル)です。というのも、『エガちゃんねる』で2連覇してきたオリコンの『好きなYouTubeランキング』で今年は『ジャにのちゃんねる』に1位を獲られて、我々は2位。これで我々に『打倒!ジャにの』という新たな目標ができました」

「壁に見えたものが、別世界へのドアだった」

『エガちゃんねる』が、これだけの成功を収めたことについて、藤野はこう振り返る。

「『エガちゃんねる』は最初、テレビ局、いろんなプラットフォームに企画書を持っていっても駄目だったという壁がありました。でも意外と神様はご褒美をくれることもあって、結果的に壁に見えたものが、別世界へのドアだったのかなと思います。それはYouTubeへのドアだったなと」

藤野は40歳で結婚して、現在は4歳になる一児のパパである。仕事量をコントロールしながら、家族との時間を過ごし、好きなことができて、YouTubeでの収益で生活ができている。

「これからですか? 僕から江頭さんを誘ってYouTubeを始めたわけです。江頭さんがプレーヤーとして演じてる以上、これからもディレクターとして全力でやりますよ」

かつては王道や正道とされていた手法だとしても、それがずっと通じるような時代ではない。その不安定な世界をがむしゃらに泳ぐ藤野率いる『エガちゃんねる』に、我々が学ぶことは少なくない。

この記事の前編:江頭2:50の「エガちゃんねる」が伝説になった必然

(ジャスト日本 : ライター)