書くだけで「先延ばしがなくなるコツ」があります。(写真:mits/PIXTA)

耳馴染みのない専門用語、難解な公式、膨大な英単語、数分間のスピーチ原稿やプレゼンの台本、複雑な歌詞やセリフ、何人もの顔と名前……。

大量に覚えなければいけない課題やテキストを前に圧倒され、絶望した経験が皆様にもあるかもしれません。そんな方にオススメしたいのが「A4・1枚記憶法」

A4・1枚の「魔法のシート」に書くだけで、覚えにくいものも大量に記憶できる画期的なメソッドです。

考案したのは、記憶力日本一を6度獲り、日本人初の「世界記憶力グランドマスター」の称号を得た池田義博氏。

池田氏は、40代半ば「ド素人」の状態からたった1年で記憶力日本一になりました。

その体験から生まれた「超効率的なシート学習法」をまとめたのが新刊『まるごと覚えて 頭も良くなる A4・1枚記憶法』で、同書は発売後たちまち重版がかかるなど、大きな話題を呼んでいます。

以下では、その池田氏が「行動量を爆上げさせる会議メモの取り方」について解説します。

できる人は「気付き」から行動を変える

複数のメンバーで集まる会議(ミーティング、打ち合わせ)の時間は貴重なものです。

相手の本音を垣間見たり、組織の新たな動きを知ったり。また、発言によっては自分自身が高評価を得ることも可能でしょう。


しかし見方を変えると「会議」の持つ底力は、まったく違うところにあります

そもそも会議とはゴールではなく、スタートであると認識を新たにしてみてください。

あるツールを使って記録に残せば、会議で受けた刺激をもとに、仕事の質を高めたり、スキルをレベルアップさせたり、自分自身を成長させたりすることも可能になります。つまり会議とは、最終的なゴールでも、単なる通過点でもありません。

活用次第でクリエイティブな営みの源泉となってくれるのです。

では、いったいどんなツールを使って会議を記録すればよいのでしょうか。

「リアルタイムでAIが議事録を作成してくれるアプリ?」「書いた文字を記録してくれるデジタルホワイトボード?」

いろんな声が聞こえてきそうですが、残念ながら不正解。なぜならこの場合、会議で出た意見を、そのまますべて記録することにさして意味はないからです。

最低限、記録したいのは「自分に対する周囲からの要望」でしょう。

それに加え、自分をより刺激してくれる発言に意識を向けていきましょう。「メンバーの全発言」という膨大な情報の中から「何をすべきか」必要な情報だけを選択することが大事です。

自分の心の中でレーダーを立てて、発言の重要度を見極める作業から、クリエイティブな営みは既に始まっています。なぜなら、会議で得たさまざまな気付きをもとに自分の行動を変えていくことこそ、大事なことだからです。

「記録」とは、未来をよくするための行為

とはいえ、「何をすべきか」という問いの答えを見つけ、それをすんなり実行に移すことは、至難のワザであるはずです。

そこでおすすめしたいのが、私が開発したA4・1枚の「4分割シート」です。

当初は「覚えにくいものを大量に記憶するため」という目的で考案したツールなのですが、「未来を豊かにしてくれる記録装置」としても活用できます。

何しろ、この「4分割シート」に書くだけで、やりたいことが言語化・可視化され、行動が変わり、さまざまな能力までアップするのですから、使わない手はありません。

どのようなものか、作り方をご紹介しましょう。

簡単!「A4記憶シート」の作り方

A4サイズの紙を縦半分、横半分に折り(順不同)、全体に大きな十字の折り目を付けます。

ここでは左上を第1象限、右上を第2象限、左下を第3象限、右下を第4象限とします。第1から順に、第4の象限までZ字を書くような順で記入していきます(※通常、数学のグラフなどでは、右上が第1象限、左上が第2象限)。


A4サイズの紙を縦半分、横半分に折り(順不同)、全体に大きな十字の折り目を付ける。4分割にしたシートを使って「言葉」と「イメージ」の両方を書き留める(図『A4・1枚記憶法』より)

何をどこに書くか

第1象限(左上)=客観的な事実(日付・タイトル・参加者)
第2象限(右上)=議題
第3象限(左下)=やらないといけないこと・気付き
第4象限(右下)=自分で調べた結果


4つ折りにして作った「4分割シート」には次のものを書く。第1象限(左上)=客観的な事実(日付・タイトル・参加者)第2象限(右上)=議題第3象限(左下)=やらないといけないこと・気付き第4象限(右下)=自分で調べた結果

第1・2象限については、会議に出るまでに記入することも可能です。
大事なのは第3・4象限ですから、事前に書いておいてもよいでしょう。

第3象限には、会議に参加して明らかになった事柄を、リアルタイムで書き込んでいきます。「調べなくてはいけないこと」「やらなくてはいけないこと」、つまり「To Do」(タスク)を手書きで記入します。

1冊のノートに時系列でメモをしている場合、「To Do」が全体に埋もれるリスクがありますが、「To Doは第3象限に集約させる」と決めておけばそんな見落としも避けられます。

第4象限については、第3象限についてのアンサーを書き込みます。

「調べなくてはいけないこと」に対する答えや、「やらなくてはいけないこと」の成果や進捗などで埋めるのです。

ネット検索の結果、たどりついた資料やキーパーソンの名前、訪れるべき場所、ヒアリング先、取材先の候補……。

つまり、行動をとらなければ書けない仕組みになっています。

「空欄」が脳のやる気に火をつける

この「4分割シート」の使い方のポイントは、会議が終わるまでに(会議があった日のうちに)、第3象限までを完成させることです。

そして第4象限は、あえて空欄にすることです。

その理由について見ていきましょう。

第3象限までをその日のうちに完成させたほうがよい理由は、会議中の集中力を高められるからです。「第3象限まで埋めなければ」と思うことで、会議へのコミットの具合はおのずと強くなります。

相手の発言により興味が湧いたり、「反応を見るために意見をしっかり述べておこう」という気持ちも働いたりするからです。

また、手書きでの記入にも大きな意味があります。

手でメモをとる場合は時間に余裕がないため、見聞きした情報を頭で要約しながら、言葉を圧縮して記録することになります。

実はこの作業は、脳にとって非常に高度な営みであり、言語化能力などを鍛えることにもつながります。

そして第4象限は空欄にしたほうがよい理由は、会議後の行動力を高められるからです。

脳には空白を埋めようとする不思議な能力が備わっています。

空白に気付くと、無意識のうちにそこを埋める努力をしてしまうのです。
たとえば「昨夜の夕食のメニューを教えてください」と訊かれたとき。咄嗟に答えることができず、歯がゆい思いをしたことはありませんか? 

また、その直後にメニューを思い出してすっきりした、という経験をしたことはありませんか? 

脳は空白(宙ぶらりんの状態、わからないこと)を嫌い、そこを埋めようとするため、答えを無意識のうちに探してくれる(解決してくれる)のです。

つまり、真っ白な第4象限を見ると「早く書き込みたくなる」「早く行動したくなる」のです。

脳の性質を逆手にとり、行動力を上げる

このように、脳にはさまざまな特性があります。

基本的には怠けたい(何もしたくない、ラクをしたい)という性質がありますが、「空白が許せないので(頼まれてもいないのに)ひそかに稼働し続ける」という相反するような性質も備えています。

そのような脳の仕組みを逆手にとって、目標達成のための適切な行動の量を効率よく増やしていきましょう。

また、脳には「言葉や文章を記憶しにくい」という特徴もあります。
ファーストインパクトという意味で言うと、脳は文字よりもイメージ(ビジュアル)からの刺激を強く受けます

よくも悪くも、イメージからの刺激は感情を強く揺さぶります。ですから、手軽に刺激を味わえるテレビや漫画、映画などの娯楽が、広く一般の人気を集めているわけです。

一説によると、文字情報をイメージ化することで、情報量を500分の1に圧縮できると言われています。

イメージ化とは、袋の中を真空にして容積を減らし、効率よく収納スペースを稼げる布団圧縮袋のようなものなのです。

ですから、会議の印象を一瞬で思い出すために、イラストを描いておくのもおすすめです。

たとえば「山下部長がこの案件について怒っていた。この案件は地雷だ!」と記録したいとき、文字ではなく、「激怒している山下部長の顔」をイラスト化しておくのです。もちろんシンプルな絵でかまいません。

ビジュアルは、脳への訴求力が抜群に優れています。そのときの臨場感を一瞬で、鮮やかに思い出させてくれます。

会議後のアウトプットが未来を変える

このように「4分割シート」を使えば、「会議後の行動力」を即増やすことができます。そして行動こそがあなたを変えます。

「会議での学びを、ブログに書いてみよう」
「会議での気付きを、先輩に聞いてみよう」
「会議での驚きを、家族に話してみよう」

行動量の増加に伴い、アウトプットの量も増えることは間違いありません。

会議とは、見せかけのデモンストレーションをする場でも、義務感から参加する消化試合でもありません。あなたに行動変容をもたらしてくれる貴重な機会です。

「4分割シート」を使って、参加しっぱなしの会議から卒業しましょう。


第4象限は空欄にしておき、会議後の行動をしながら埋めていく。 空欄をあえて作ることで、「空白」嫌いな脳に行動を起こさせる

(池田 義博 : 記憶力日本選手権大会最多優勝者、世界記憶力グランドマスター)