「鉄道×戦闘機エンジン=最強!」スピード以外の用途とは 米ソが実用化 日本も試作!?
旧ソ連を代表するMiG-15戦闘機のジェットエンジンを鉄道に応用する――こうして出来上がったのが除雪車でした。冬、氷雪に悩まされる鉄路において、高出力かつ高熱のジェットエンジンで除雪。1960年代に生まれたアイデアです。
スピード競争するだけでなく
ジェット戦闘機に鉄道車両を組み合わせると何ができるでしょうか。思いつくのはスピード競争用の「ジェットトレイン」です。鉄道は歴史的に、単なる輸送手段以上に国家の技術力を示す指標でしたので、蒸気機関車が発明されてから現代に至るまで、高速で安全、確実な列車開発の競争は現在も続いています。
旧ソ連のMiG-15戦闘機。沖縄にて、アメリカ空軍がテスト飛行した際のもの(画像:アメリカ空軍)。
ジェットトレインという高速鉄道のアイデアは、ジェットエンジンが実用化されて以降、アメリカやソ連、フランスが持っていました。実際に試作しており、日本も模型実験を行っています。しかし、ジェットトレインはインパクトある外見で当時の速度世界記録も樹立しましたが、騒音など問題も多すぎて実用化にはほど遠く、スピード競争用の試作のみで終わっています。
ただ、ジェットエンジンを使った鉄道車両はスピード競争用だけではありません。世界中の空軍で使われていたソ連製MiG-15戦闘機のエンジンが、鉄道にも導入されています。鉄路のMiG戦闘機が戦った相手は西側の戦闘機でもなく、ほかのジェットトレインとの競争でもなく、「氷雪」。ジェットエンジンの熱い排気流で厄介な雪や氷を吹き飛ばす除雪車というアイテムでした。
国家の威信をかけ派手なスピード競争を繰り広げたジェットトレインと比べると、除雪車とはいかにも地味な印象ですが、氷雪との闘いも国家の流通を支えるという重要な任務です。様々な兵器(除雪車)が開発されており、それぞれの形を見るだけでも工夫を凝らしているのが分かります。中でもジェット戦闘機は強力な援軍になりそうです。
多すぎる雪はラッセルするだけでは排除に限界があり、分岐器に付いた氷の除去は除雪車では難しく人力作業に頼らざるを得ません。冷たい氷雪に対抗するには熱が有効だということで、1960年代に実用化が進んだジェットエンジンを使おうというのは優れたアイデアだと思われました。
チェコスロバキアでは、MiGの胴体ママ載せた例も
ジェットエンジン除雪車のアイデアはソ連だけでなく、カナダやアメリカ、日本でも試行されています。戦闘機のエンジンは小型で大パワーなので好都合でした。ソ連は退役したMiG-15戦闘機のTRD-VK-1エンジンをリサイクルします。貨車にTRDエンジンの排気口を斜め下に向けて取り付け、エンジンの制御は空軍の軍人が行いました。
実験では噴出ガス温度450度、噴出速度は500m/秒を記録。ほかの機材よりも軽量かつ早く除雪でき、分岐器も除雪できました。しかし燃費は悪く動かすには手間がかかり、駅構内での使用は危険とも判断されました。なおチェコスロバキアでも、MiG-15戦闘機の胴体をほとんどそのまま載せたような除雪車が数両作られています。
実用化されることはなかった「ジェットトレイン」。ソ連にて(画像:KB3、Public domain、via Wikimedia Commons)。
日本では国鉄大宮工場が1961(昭和36)年、航空自衛隊から借用したF-86戦闘機用のターボジェットエンジンJ47-GE-27を、トキ15000形貨車に取り付けた除雪車を試作しています。噴出ガス温度は600度、噴出速度は600m/秒。北海道で試験が行われましたが調整が難しく、雪や氷だけでなくバラストや踏切の敷板なども吹き飛ばしてしまい、騒音も大きく日本では実用性がないと判断されました。
凄まじい騒音というのは空港や基地周辺にいれば分かりそうなものですが、実際に作ってしまうのはそれだけ氷雪との闘いに苦戦していたということでしょうか。そもそも航空自衛隊のF-86戦闘機には、当時のソ連のMiG戦闘機と北の上空で対峙する本来任務がありました。
広大な豪雪地帯が続き、騒音があまり気にならない環境のソ連やアメリカでは、一時的に使われたようです。鉄路と氷雪の戦いは世界共通であり、ジェットエンジンが普及し始めた1960年代に、同じようなアイデアが各国で試行されたのには興味を引きます。