ひとつの建物内に複数の家族が同居するマンションは、海上自衛官である夫にとって「自衛艦」と同じように映った模様。そんな彼にマンション自治会の防火管理者という役割は、適材適所だったようです。

「火」の扱いには人一倍敏感な自衛官の夫

 海上自衛隊というと、所属隊員のほとんどが船乗りに思われる向きもありますが、そんなことはなく、航空機のパイロットや、デスクワークの隊員も数多くいます。そのため、各隊員は役割に応じて職種(マーク)と呼ばれる担当分野が割り振られていますが、それらは基本的に教育隊入隊直後に行われる適性検査や本人の希望などから決まります。たとえるなら「適材適所」によって、スムーズな部隊運用が可能になるともいえるでしょう。


対空ミサイルを発射する海上自衛隊の護衛艦(画像:海上自衛隊)。

 では、私の夫やこさんはどこに所属しているかというと、自衛艦において速射砲や魚雷、ミサイルなどの射撃を取り扱う「1分隊(砲雷科)」です。その影響からか、火器を扱うだけあって日常生活においても「火」の扱いには人一倍、敏感なんです。

 家庭内では誕生日ケーキのロウソクですら翌朝まで台所のシンクに置かれ「火災再燃の恐れなしなるまでここに置く。(教練)火災鎮火用具収め!」と号令(独り言とも)し、夏の思い出ともいえる花火に至っては、燃えカス(撃ち殻薬莢)の完全回収から用具収めまで厳重に管理するほど。

 なんというシーマンシップ。日頃、いかに艦艇の火災を避けようかと常に「安全第一」で動いているかがよくわかります。

 そんななか、ある日、私たちが住むマンションの自治会で防火管理講習の受講者を決めることになりました。自治会は会社員の割合が高いため、平日昼間は不在の人が多く、なかなか決まりません。もちろん、やこさんも仕事があるので断るかと思いきや……、「私がやりましょう!」と立候補したのです。

「国防スイッチ入ります!」

 やこさんいわく「マンションは一つの艦も同然、そして艦乗りは舷梯(げんてい。乗船用のタラップのこと)に一歩足をかけたら応急作業に責任があり、不測事態発生時には総員が防火防水に努める!」からだとか。


海上自衛隊の教育隊で行われている消火訓練の様子(画像:海上自衛隊)。

 いつの間に私たちマンション住人は艦乗りになったのでしょうか。もっと言うなら、うちのマンションには確か消防士さんが住んでいたはずです。その部分について聞いてみると、彼いわく「自分が防火管理講習を受けておけば、非常時に本職のサポートにも回れる」とのこと。

 まさに自衛官の鑑。「スマートで目先が利いて几帳面。これぞ国防スイッチ…」いえ、艦乗りです。

 こうして住まいにおいても適材適所が発動され、防火管理講習を受けてきたやこさんは、気持ち劇画タッチになって帰ってきました。マンション住人にも頼もしく思われる自衛官。しかし、彼が町内花火大会の役員になった際には、役員全員をワッチ(海自における警戒任務)に当たらせたことは、また別のお話……。