ジム・ロジャーズ「日本円が世界で捨てられる日」
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)
円安、インフレ……「失われた30年」で衰退につぐ衰退を続けた日本経済に、残念ながら好転の兆しはなく、「日本円は、世界中の投資家たちから今後も見捨てられ続ける」――世界三大投資家のひとり、ジム・ロジャーズ氏はこう語る。
ジム・ロジャーズ氏が見抜いた、この国で新たに始まった「捨てられる日本円」、恐怖のシナリオとは?最新著書『捨てられる日本』より紹介する。
世界の投資家たちから、日本円が捨てられる日
この国は今、未曽有の危機に直面している。
かつて「エコノミック・アニマル」と称され、一気呵成に経済成長を遂げた戦後の栄光は、今や見る影もない。
国が抱える、月まで届きそうなほど積み上がった負債。先進国のなかで最も深刻な少子高齢化。新たな産業が育たず、イノベーションが生まれる土壌がない。平成以来続いている「失われた30年」は終わる気配がない。
「一流国」から「二流国」へ転落したかのように思われるこの国に、逆境の嵐が吹き荒れている。円安だ。かつて安倍政権が推し進めた経済政策・アベノミクスの「第一の矢」である金融緩和が尾を引き、日本銀行(以下、日銀)は紙幣を際限なく刷り続けている。これが昨今の円安を誘引した。
2022年12月、日銀はこれまで続けてきた金融緩和策を一部改めることを決定し、約0・25%に抑制してきた長期金利を、約0・5%に引きあげる方針とした。この動きにより、投資家たちの間で、「日銀は金融緩和を一層縮小させるだろう」という見方が広がったためだろうか。2023年1月3日の外国為替市場では、日本円は一時1ドル=129円台まで上昇する局面もあった。
とはいえ、気を抜くのは危険だ。円安傾向は当面続くと私は考える。
大半の海外投資家は、昨今では、徐々にこの国を見捨て、「円売り」の動きが加速しつつあるからだ。
このように、日本政府や日銀の現状を見れば、どうしても暗い話が多くなる。しかし、こうしたなかでも個人として充実した人生を生きることはできる。日本の皆さんに、混迷の時代を切り抜けるための具体的プランを語るために筆をとった。これを契機に皆さんも、来るべき未来に備えてほしい。
こうした状況のなか、アメリカでは物価上昇の高止まりが懸念され「アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が今後も急激な利上げを続けるのではないか」という見方もされているようだ。バイデン大統領も、一向に気にする気配がない。
世界経済の減速傾向が強まれば強まるほど、基軸通貨であるドルを買う動きにつながりやすい。そうなれば世界中の投資家が「円を買う」という選択肢は、ますますなくなっていく。
日本円が世界中から見捨てられ始めている、という兆候に気づいている投資家は、今はまだ少数かもしれない。大半の投資家はこれまで。「日本円は安全資産であり、リスク回避のための避難通貨」だと考えてきた。その理由はいくつかある。主要国の通貨のなかで、高い評価を得ていること、世界有数の対外資産を保有していること、日本は治安がよく、テロやクーデターなどにより相場が暴落する危険性が低いことなどだ。これまで日本円は非常に信用されていた。しかし、それは過去の出来事になりつつある。
ロシアのルーブルより価値が下がる?
これからの日本の未来を予測するうえで、2022年2月に始まった、ロシアによるウクライナ侵攻を抜きにして進めることはできない。なぜなら、世界の覇権地図を大きく塗り替えた出来事でもあったからだ。
ウクライナ侵攻が始まって以来、世界中から厳しい経済制裁を受けたロシアにお金を貸したがる国が減ってしまったためか、ロシアの対外債務は比較的少ない。
このように言うと驚く人が多いかもしれないが、現在の日本の財務状況は、ウクライナ戦争に突入した以降のロシアよりも悪い。近ごろのロシアの負債額は、日本よりも少ない状況にある。驚くべきことに、日本よりも健全な財務状況なのだ。
戦争を始めたことによって、国際社会におけるロシアという国家の信用は地に落ちた。「信頼」というものは、為替市場において非常に重要だ。ロシアはこれから、信頼回復に向け行動することになるだろう。
仮に、ロシアがウクライナ侵攻の停止を発表したとしよう。その段階でも日銀が金融緩和を続けていれば、日本円は経済制裁を受けているロシアのルーブルよりも弱い通貨になるかもしれないのだ。
「日本は、国際社会でロシアより信用されている」と思う人は多いだろう。しかし、必ずしもそうとは言い切れない。
世界各国の10年国債利回りを比較すれば一目瞭然だ。アメリカ、ドイツ、イギリスなどの先進国では利回りが上昇しているなか、日本だけがずっと横ばいで推移している。これは、日本に対する信頼が徐々に低下していることの表れといえないだろうか。
皆さんは、本稿をきっかけとして是非とも自分自身を守る方法を学び、きたるべき将来へ備えてほしい。今はそれほど危機感を抱いていない人も、きちんと学べば日本の行く末が心配になり、そうなれば将来に備えて計画的に準備を進めていくことができる。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
(ジム・ロジャーズ : 投資家、ロジャーズホールディングス会長)