世帯の人数が減ったり、ライフスタイルが変わったりして、より小さな住まいへの住み替えを検討する人も増えています。自身も、老後のための住み替えを実践したファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんに失敗しない住み替えのコツを教わりました

老後のための引っ越しは65歳までに!思わぬ落とし穴にも注意

井戸さんは、昨年、35年住んだ家を処分し、夫婦2人のサイズに合わせた住まいに転居。老後を見据えた住み替えを経験し、気づいたことや苦労したことをうかがいました。

●売れなくなる前に…築35年の一戸建てを売却

「暮らしていたのは『子どもをのびのび育てたい』と、見晴らしのいい高台に建てた一戸建てで、敷地面積は100 坪あまり。日当たりもよく気に入っていましたが、どこに行くにもクルマが必要で、高齢になって免許を返納したあとの暮らしに不安を覚えるようになりました。子どもが独立して家を出ていき、夫と2人暮らしになると、使っていない部屋が増え、傷みも気になるように。駅から遠いこともあり、『今後、わが家は売れるのか?』という心配で首をもたげるようになったのです。家を購入した当初は、なるべく長くこの家に住み続け、配偶者のどちらかが亡くなったら施設に入ろうと考えていましたが、家の老朽化に合わせてリフォームを繰り返すよりは…と、思いきって手放すことに」

そこで、不動産業者数社から見積もりを取り、売却と並行して家探しを行うことに。貯金を取り崩さなくていいように賃貸マンション転居を決め、老後資金の計画が破綻しないか、事前にシミュレーションしたそう。

●「何歳まで生きるか」老後資金は緻密に計算を

「夫と私が何歳まで生きるのかを細かく計算しました(笑)。日本人の最多死亡年齢は、男性88歳、女性93歳。健康寿命は男性73歳、女性75歳といわれますから、70代半ば以降、15年から20年は体のどこかに不調を抱えながら生きる可能性があります。
老後の生活費のほか、医療・介護費でそれぞれ1100万〜1200万円程度を取りおいたうえで、家を売ったお金で無理なく住み続けられる金額を割り出して転居先を決めました」

転居先に選んだ賃貸マンションは、駅まで徒歩圏内。周辺に医療機関や郵便局もある利便性が決め手でした。

●3トントラック4台分!不用品の処分は体力勝負

「新居は3LDKのマンション。夫婦2人暮らしにはそれなりに余裕のある間取りを選んだつもりでしたが、そこに収まる量に荷物を処分するのが大変なこと! 婚礼家具、そろいの食器、節句飾りに座布団など、30年以上にわたって蓄積してきたものを手放すにはパワーが必要でした。ものの処分や新しい土地のコミュニティに入るために、住み替えはなるべく早く。65歳ぐらいまでには決断した方がいいと痛感しました」

処分したものは4トントラック3台分。あき部屋に不要品を集め、貴重品は仕分けて買い取ってもらうなど、およそ3か月もの時間を費やしたと言います。

●夫が骨折!住んでみて初めて気づく不具合も

「実際に暮らしてみると、これまで住んでいた家の3分の1ほどの広さということもあり、圧迫感が気になって…。夫との『距離感の近さ』に疲れて体調も崩しがちに。なんと夫は、家の前の坂道で転倒。骨折で、入院することになってしまいました」

高齢になると慣れない場所ではケガをしやすいもの。体だけでなく、新しい環境に気持ちもついていかなかったと話します。

「持ち家では必要なかった家賃や駐車場代などの出費が毎月かかるのがストレスで…。結局、賃貸生活に別れを告げ、別の物件を購入することにしました。今度もマンションですが、角部屋で戸数が少なく、一戸建てに近い開放感があります。緻密に計画していても、住んでみないとわからないことも多いもの。二度の転居で余分な出費もありましたが、シニアの住み替えは、“お試し”が必須と痛感しました」

世帯の人数やライフスタイルに変化が起きるオトナ世代は、ものを手放したり、コンパクトに暮らす工夫が大切。発売中の『オトナ世代の 今度こそ捨てる!』(扶桑社刊)では、井戸さんに、老後の住まいの選択肢や注意点をさらにくわしくうかがっています。断捨離の提唱者・やましたひでこさんのお宅訪問や、近藤麻理恵さんのインタビューも。ぜひチェックしてみてください。