初心者必見!!プロが注目のアーバンスポーツ「パルクール」について語ります
都市部をフィールドとして、進化し続ける新しい世代のスポーツ「アーバンスポーツ」。
従来の競技型スポーツと比較して、ライフスタイルに寄り添った競技として若い世代を中心に世界的な広まりを見せています。
そのなかでも「パルクール」は日本でも各種大会が開かれるほか、2028年の国際大会では正式種目化が検討されるなど、一際注目を集めているアーバンスポーツです。
今回は、パルクールの魅力や競技の歴史、注目の大会や日本人選手などを現役の選手に徹底解説していただきます。
TAISHIさん
22歳で本格的にパルクールを始めると、わずか1年半で世界大会『WFPF Parkour Pro-Am Championship 2016』に出場し、ファイナリストに選出。その後もさまざまな大会で上位入賞を果たす。現在は競技者としてのみならず、映画やCMに出演するなどパフォーマーとして活躍するほか、スクールでのレッスン講師も務める。
パルクールとは?
写真:Red Bull Art of Motion 2021より
パルクールとは、飛ぶ・走る・登るといった行為を通じて心身を鍛えるスポーツ。
さまざまな障害物をアクロバティックな技で乗り越えるなど、一見エクストリームで難しそうなスポーツですが、TAISHIさんは「すべての人間がパルクールの競技者だと思う。」と語ります。
「誰しもが子どもの頃、道路の白線の上をはみ出ないように歩いたり、公園にあるフェンスによじ登ったりして遊んでいましたよね?そういった“公園遊びの延長線上”にあるのが、パルクール。
テレビやYouTubeなどで見るパルクールの映像は、ビルの屋上からビルの屋上へとジャンプで飛び移るなど、ものすごいことをしているように見えるかもしれません。ですがパルクールは、公園での遊びのレベルを上げただけにすぎないんです。」(TAISHIさん)
「あの壁を登りたい」「ジャンプで飛び移りたい」など、その目的を達成するためにどういう体の動きをすれば良いのかを考えて練習する。スポーツでありながら、トレーニングの一環でもあるというパルクール。
競技としての側面もありますが、その本質は自分自身の限界にチャレンジする己との戦いにあります。
「派手なトリックが注目されがちですが、『危険なことはしない』というのもパルクールの精神の一つです。自分が越えられる障害物の難易度を徐々に上げていくことで、競技者としてもレベルが上がっていくし身体能力も確実に上がる。そういった目的意識を持った自己鍛錬的なトレーニングの要素が強いのも、パルクールの魅力ですね。」(TAISHIさん)
TAISHIさんが講師を務める教室では、小学生からお年寄りまで老若男女が習い事やトレーニングジムに通うような感覚でパルクールを実践しているのだそう。
パルクールの起源・歴史について
パルクールはもともと、二度の世界大戦中にフランス軍の軍隊で行われていたトレーニングメソッド「Le parcours」にルーツがあります。
「街中にある障害物などの環境を利用して、心身ともに鍛えていくというトレーニングがパルクールの起源です。その姿を街中の若者たちが真似して行うことで、エクストリームなスポーツに進化していった形です。」(TAISHIさん)
エクストリームスポーツとしての片鱗が見え始めたのは、1990年代。父から「Le parcours」のトレーニングを教わっていたダヴィッド・ベルが、友人たちとともにパフォーマンスグループ「YAMAKASI」を結成。
パリを中心にパフォーマンスを続けるなかで、注目を集めていきました。
その後、世界的に有名な映画監督リュック・ベッソンによる映画『YAMAKASI』のほか、いくつかの映像作品で活動が紹介されるなかで世界的に拡大。実際に競技化し始めたのは、2010年前後のこと。
「僕がパルクールを知ったのは中学生くらいだったんですが、その当時は日本に競技者はほとんどいませんでした。その後、大学4年生の頃(22歳)日本にプロチームがいることを知り、就職をやめて自分もパルクールの道に進みました。」(TAISHIさん)
現在では日本でも有名な世界大会が開かれるなど、アーバンスポーツとして広く認知されるようになったパルクール。
特にヨーロッパでは盛んに行われており、パルクールの団体や練習場所も整備され、気軽にできる環境が確保されています。
パルクールのルールについて
写真:NINJAGAMESより
パルクールは現在、特性ごとに4つの競技に分けられ、さまざまな大会が開かれています。
「日本では、スピードランとフリースタイルの2つがパルクールとして主流の種目になっています。同じパルクールでも競技によって、その性質は異なります。アイススケートで例えるなら、スピードがスピードスケートでフリースタイルがフィギュアスケート。各種目によって、必要とされる技術が違うのもパルクールの魅力ですね。」(TAISHIさん)
■スピードラン
パルクールのなかでも、最もシンプルな形で行われるのがスピードラン。
「A地点からB地点までに設置されている障害物を越えながら、そのタイムを競う競技です。簡単に言えば、障害物競走のような感じですかね。スピードを求めるうえでは、体を鍛えているだけでは勝てません。」(TAISHIさん)
高い壁を越える、細い棒の上を走るなど難解なアスレチックをもろともせず、ダイナミックに駆け抜けていく姿はまさに圧巻。
純粋にタイムを競う競技ではありますが、障害物の越え方一つをとってもそれぞれの選手の個性が表れます。
■フリースタイル
会場に置かれた障害物を駆使して、競技者がさまざまなトリックを披露し、その技の精度や難易度を競うのがフリースタイル。パルクールのなかでも、より芸術性が求められる競技です。
「僕の主戦場は、このフリースタイル。ダンスカルチャーとの親和性が高く、オリジナリティが求められます。競技としては黎明期(れいめいき)にあるため、10秒ごとに1回ずつ演技をするバトルスタイルなど、大会によってさまざまな形式があります。」(TAISHIさん)
大会によって採点方法は異なりますが、基本的には複数人の採点者が競技者の技をジャッジ。技の難易度・安全性・流れの良さなど、細かく採点項目が決まっています。
■スキル
A地点からB地点までの障害物を、あらかじめ指定された技で越えていく種目スキル。
「白旗or赤旗が上がるYes or No形式のジャッジで行われる種目です。ステージが進むにつれて求められる技の難易度が上がっていくなど、分かりやすく言えばパルクール版の『SASUKE』みたいな感じですね(笑)。」(TAISHIさん)
飛ぶ・走る・登るといった、パルクールの基本的な行動要素それぞれに対して高いスキルが求められる種目です。
■タグ
写真:パルクール鬼ごっこ日本選手権2022より
正方形の限られたスペースの中に障害物が設置され、そのなかで追う側・追われる側に分かれ、“鬼ごっこ”のような競技を行うタグ。
「追われる側は相手にタッチされないように、指定された時間内を逃げ切る。追う側は、相手をタッチする。攻守を入れ替えて行います。日本ではまだまだ普及していない種目ではありますが、日本人の性質に合っていると思います。」(TAISHIさん)
実際に、以前TVの企画で行われた海外のタグ専門チームとTAISHIさんを含む日本のパルクールチームとの試合では、日本はタグ専門チームでないにも関わらず海外のチームに勝った経験も。
パルクールの国際的な大会、注目の日本人選手について
写真:第1回FIGパルクール世界選手権より
世界各国でさまざまな大会が開催されるなど、今後より注目を集めていくパルクール。現在世界的に有名な大会として挙げられることが多いのが『FIGパルクール世界選手権』と『Red Bull Art of Motion』の2つです。
■『FIGパルクール世界選手権』
2022年10月に第1回大会が開催されたのが、『FIGパルクール世界選手権』。記念すべき第1回はなんと、日本の有明アーバンスポーツパークに特設会場を設置し開催されました。
「FIGというパルクールのなかでも、最も有名な団体が立ち上げた世界大会です。スピードとフリースタイル2種目で争われる大会なのですが、世界チャンピオンの座をかけた戦いが繰り広げられ、今年は日本人選手が大健闘していましたね!」(TAISHIさん)
■『Red Bull Art of Motion』
2007年からRed Bullが主催している国際大会。
オーストリアで第1回目が開催された後、これまでイングランド・アメリカ・スウェーデン・ギリシャ・イタリアなど世界各国で開かれてきました。
種目はフリースタイルのみで、よりストリートカルチャーに寄り添った大会となっています。
「スケートボードなども支援しているRed Bullが主催する老舗の大会ということで、よりパルクールの本質に近いストリートカルチャーを体現するような大会だと思います。競技者目線からすると、この大会でタイトルを獲得することが一つの目標と言っても良いほど注目されています。」(TAISHIさん)
各大会では日本人選手も奮闘中!今後、パルクールを楽しむうえで注目すべき日本人選手をTAISHIさんに伺いました。
「10月に行われた『第1回FIGパルクール世界大会』女子フリースタイルで世界2位に輝いた山本華歩選手は、今日本で最もNo.1タイトルに近い選手なのではないかと思っています。
技の精度はもちろん、切れ目なく流れるように繰り出されるトリックは非常に美しいですね。年齢が32歳なのですが、そういうベテラン勢が国際大会で表彰台に上がるのは、個人的にも勇気をもらえました。幅広い世代の人が楽しめる競技ということを証明してくれて、うれしかったです。」(TAISHIさん)
日本でパルクールが認知され始めた10年以上前から競技を続けている山本選手。
自身の競技活動に加え、指導者としての資格を取得して後進の育成にも取り組むなど、日本でのパルクール発展にも貢献する大ベテランの活躍に今後も注目です。
「また、『第1回FIGパルクール世界大会』の男子フリースタイルで4位に入賞した鈴木智也選手も注目です。彼は同じパルクール教室で働く同僚でもあるんですが、若手のなかではずば抜けてうまい選手の1人。日本の大会では、これまで三度の優勝を誇るなど勢いのある競技者です。」(TAISHIさん)
まだ24歳と若く、今後より競技として発展していくであろうパルクールの未来を担う1人です。
2028年夏季に開催される4年に一度のスポーツの祭典において、正式種目入りが検討されているというパルクール。日本人選手の活躍にも期待しながら楽しみたいですね。
撮影/大田浩樹
文/マイヒーロー
編集/GetNavi web