AMDは2023年1月6日にCES 2023にて、TDP 65W版のRyzen 7000シリーズを発表した。そのパフォーマンス情報が2023年1月9日23時に解禁となったので、さっそく検証結果をお届けしたい。グローバルでの発売は1月10日だが、日本では2023年1月13日午前11時から発売開始となる。

新たに発表されたTDP 65W版のRyzen 7000シリーズ

TDP65Wの「Ryzen 9 7900」「Ryzen 7 7700」「Ryzen 5 7600」を追加

Ryzen 7000シリーズは2022年8月30日に発表された。5nmの製造プロセス、Zen 4アーキテクチャの採用、DDR5メモリに対応、Socket AM5へ変更と、2017年から続いていたSocket AM4でのプラットフォームから全面的に刷新。大きな性能向上を果たしている。そのあたりは大原氏の検証記事「Ryzen 7000 Seriesを試す(完全版)」に詳しいので気になる人はチェックしてほしい。

そのRyzen 7000シリーズはこれまでRyzen 9 7950X/Ryzen 9 7900X/Ryzen 7 7700X/Ryzen 5 7600Xの4モデルのみだったが、今回Ryzen 9 7900/Ryzen 7 7700/Ryzen 5 7600の3モデルが追加された。スペックと価格は以下の表にまとめている。

最大のポイントは、消費電力や発熱の目安となるTDP(熱設計電力)が65Wと「X」付きのモデルから激減したことだ。最近のCPUはTDPを引き上げ、発熱と消費電力がアップしてもギリギリまで性能を引き出す設計が多くなっている。AMDとIntelで熾烈な性能競争をしているので仕方の無い面もあるが、そこまで性能を追求せず、ほどよい消費電力と発熱で使いたい、またはMini-ITXマザーやケースと組み合わせて小型PCを自作したいのでCPUの発熱は抑えたいという人にとっては今回の「65W版」を待っていたという人も多いのではないだろうか。

なお、TDPは65Wだが、PTT(電力リミット)は88Wに設定されている。PTTとはCPUが十分冷えている場合に88Wまで電力のリミットを引き上げるというもの。リミットの電力が高くなれば、当然動作クロックも高くなる。36cmラジエーターの簡易水冷を使うなどCPUの冷却力が高ければ、高クロック(ブースト)での動作が維持されるというわけだ。

また、内蔵GPUは「X」付きと同じくRadeon GraphicsでCU(Compute Unit)は2基だけ。とりあえず画面を表示できるレベルで、ゲームをプレイできる性能はないと思っておこう。ビデオカードにトラブルが起きたとき、とりあえず表示できるだけでもありがたいわけだが。もちろん、3D性能を必要としていない人にとっては別途ビデオカードを用意する必要がないので導入コストの軽減になってくれる。



12コア24スレッドの「Ryzen 9 7900」。定格クロックは3.7GHz、ブーストクロックは5.4GHzと7900Xの4.5GHz/5.7GHzからはさすがに落ちている

前世代のRyzen 9 5900Xに対してゲーム系で最大31%、クリエイティブ系で最大48%性能が向上しているという



8コア16スレッドの「Ryzen 7 7700」。定格クロックは3.8GHz、ブーストクロックは5.3GHzだ

前世代のRyzen 7 5800Xに対してゲーム系で最大30%、クリエイティブ系で最大53%性能がアップとしている



6コア12スレッドの「Ryzen 5 7600」。定格クロックは3.8GHz、ブーストクロックは5.

1GHzだ|

前世代のRyzen 7 5600Xに対してゲーム系で最大30%、クリエイティブ系で最大46%性能が向上とのこと

もう一つのポイントはCPUクーラーが付属したことだ。「X」付きはすべて付属していなかったので、コストパフォーマンスも向上している。Ryzen 9 7900/Ryzen 7 7700は上部にRGB LEDを内蔵し、大型のヒートシンクおよび4本の銅製ヒートパイプを備える「Wraith Prism」が、Ryzen 5 7600にはLEDもヒートパイプのない小型でシンプルな「Wraith Stealth」が付属する。

Ryzen 9 7900/Ryzen 7 7700に付属するCPUクーラー「Wraith Prism」

CPUソケットのリテンションにフックを引っかけて固定するタイプ

底面にはグリスがあらかじめ塗られている

Ryzen 5 7600に付属するCPUクーラー「Wraith Stealth」

こちらはCPUソケットのリテンションを外し、ネジで固定するタイプ

同じく底面には最初からグリスが塗られている

ベンチマークテスト 「Ryzen 9 7900X」と「Core i5-13600K」と比較

さっそく、ベンチマークに移ろう。比較用としてRyzen 9 7900XとCore i5-13600Kを加えている。Core i5-13600Kの実売価格は50,000円前後。ポジション的にはRyzen 5 7600がライバルになるが、価格的にはRyzen 7 7700に近い。そのあたりも加味して性能差に注目していきたい。なお、Core i5-13600Kのパワーリミットは無制限に設定している。

まずは、CGレンダリングでCPUのパワーをシンプルに測る「CINEBENCH R23」と一般的な処理でPCの基本的な性能を測る「PCMark 10」から見ていこう。

CINEBENCH R23

PCMark 10

7900は、7900X同じアーキテクチャで同じコア数でもマルチコアのスコアは15%ほど落ちる。PPTによって65Wから88Wまで電力リミットが引き上げられているとは言え、7900XのPPTは230W。許容される電力量が全然違うのでこのスコア差は仕方が無いところだ。それでも、14コア20スレッドのCore i5-13600Kのマルチコア性能を上回っているのはスゴイというべきだろう。

PCMark 10は総合スコアのStandardは7700がトップだ。7900X/7900は二つのCPUダイ(CCD)で構成されているのが原因なのかオフィス系の処理を行うProductivityのスコアが伸びなかったのが総合スコアに影響している。複数回試しても傾向は変わらなかった。さすがにCPUパワー効きやすいクリエイティブ系の処理を行うDigital Content Creationは7900Xがトップになっている。

補足すると、Ryzen 7000シリーズは一つのCPUダイ(CCD)に最大8コアまで搭載できる。そのため、7900X/7900は2CCD構成、7700/7600は1CCD構成となる。

次はゲーム系を試そう。3D性能を測る定番ベンチマークの「3DMark」から見て行く。

3DMark Fire Strike

3DMark Time Spy

DirectX 11ベースのFire Strikeは、総合スコアを見れば7900Xがトップだが、7900X/7900はCPU/GPUの両方に強烈な負荷がかかるCombinedでスコアが伸びていない。CCDが2基構成の7900X/7900は、処理がCCDをまたぐ場合、1つのCCDで処理を行うよりも時間がかかる(レイテンシが増大する)。とくにゲーム系はCCDまたぎの影響を受けやすく、CCDが1基で構成される7700のほうが性能が高くなるケースがある。Combinedのスコアもその影響が出ているのではないかと推測される。

その一方で、DirectX 12ベースのTime Spyでは、CPUのグレードごとに見事分かれたスコアだ。Time SpyのCPUテストはCCDまたぎの影響は見られず、単純にコア数が効くようだ。そのため14コアの13600Kがトップに立っている。処理内容によって、優劣は変わってくるという良い例ではないだろうか。

次は実際のゲームでフレームレートを測定してみよう。まずは人気FPSから「レインボーシックス シージ」と「オーバーウォッチ 2」を実行する。レインボーシックス シージはゲーム内のベンチマーク機能、オーバーウォッチ 2はBotマッチを実行した際のフレームレートを「CapFrameX」で測定している。解像度はビデオカードがボトルネックになりにくいフルHDとした。

レインボーシックス シージ

オーバーウォッチ 2

フレームレートは「平均」に注目してほしい。レインボーシックス シージでトップに立ったのは7700だ。1CCD構成の強さがここでも見られる。そして、このゲームはRyzen 7000シリーズとの相性がよいようで、13600Kよりも大幅にフレームレートが出た。ここまであからさまに差が出るゲームは珍しい。

オーバーウォッチ 2は7900Xがかろうじてトップに立ったが、2位は7700と7900のフレームレートをわずかに上回った。ゲームにおける7700の強さが際立つ。

続いてレイトレーシングに対応する描画負荷の高いゲームとして「F1 22」と「サイバーパンク2077」を試してみよう。どちらもゲーム内のベンチマーク機能でフレームレートを測定している。

F1 22

サイバーパンク2077

F1 22、サイバーパンク2077ともマルチコアへの対応が進んでいるようで、コア数の多いCPUのほうがフレームレートが高くなる傾向にある。その中でもF1 22では若干ではあるが平均フレームレートで7900よりも7700のほうが高いという結果が出た。コストパフォーマンスから考えても、ゲームでは7700が一番お得だ。

クリエイティブ系の処理ではどうだろうか。AdobeのPhotoshopとLightroom Classicを実際に動作させてさまざまな画像処理を行う「UL Procyon Photo Editing Benchmark」を実行する。

UL Procyon Photo Editing Benchmark

このベンチマークでは、Photoshop中心に処理するImage RetouchingでRyzen 7000シリーズが強さを発揮する。7600でも13600Kを大きく上回るスコアが出た。7900と7700を見るとLightroom Classic中心のBatch Processingでは7900、Image Retouchingは7700が上と拮抗している。

続いて、動画のエンコードを試そう。HandBrakeを使って、4K解像度で約3分の映像をフルHD解像度のH.264、H.265にエンコードする時間を測定している。

HandBrake 動画エンコード

エンコードは全コアに100%の負荷がかかる処理だけにコア数が多いCPUが基本有利だ。そのためRyzen 7000シリーズはグレードが上になるほど処理時間が短くなるという順当な結果。エンコードで見れば、TDP 65Wでこれだけの処理速度を出せる7900は優秀と言ってよいだろう。

性能は十分、では65W版Zen 4の低消費電力&低発熱は本当か?

次はシステム全体の消費電力を試す。OS起動10分後をアイドル時、CINEBENCH R23実行時の安定値を測定した。電力計にはラトックシステムの「REX-BTWATTCH1」を使用している。

消費電力

Ryzen 7000シリーズのアイドル時の消費電力が大きめなのは、AMD X670チップセットは、マザーボード上に2基のチップセットを搭載する仕様が影響していると考えられる。CINEBENCH R23時は7900と7700は同じTDPなので同じ消費電力になるのは当然というところ。7600はコア数が少ない分、消費電力も下がったということだろう。7900Xから100W以上も減っており、省電力派にはよいCPUと言える。

最後に、CINEBENCH R23のマルチコアテストを10分間実行した際の推移をモニタリングアプリの「HWiNFO Pro」で追ってみよう。Ryzen 7000シリーズのCPU温度は「CPU (Tctl/Tdie)」、CPU消費電力は「CPU Package Power」、CPUクロックは「Core Clocks (avg) 」の値だ。Core i5-13600KのCPU温度は「CPU Package」、CPU消費電力は「CPU Package Power」、CPUクロックは「P-core 0 Clock」の値だ。Core Clocks (avg) だと動作クロックの低いEコアを含めた平均となってしまうため、P-core 0 Clockの値を掲載している。なお、室温は暖房を使って22度に調整、バラック状態で動作させている。

CPU温度の推移

CPU消費電力の推移

CPU動作クロックの推移

温度の推移で注目は7900だろう。概ね56度前後で推移と非常に低い。電力とクロックの推移を合わせて見れば分かるが、7900/7700/7600はTDP 65W、PPT 88Wなので今回は冷却が強力なこともあってほぼ消費電力は90W前後で推移。そして動作クロックを見ると7900は4,450MHz前後で推移と、電力リミットの制限で動作クロックが伸びていない。PPT 88Wでは12コアのパワーを引き出し切れないのがよく分かる。その影響でCPU温度も低いということだ。7900は低消費電力で使うにはもったにないように思えるが、クリエイティブ系の処理に弱いわけではなく、ゲーム系でも7700に対してわずかに劣るケースが見られる程度。それでこの低発熱ならむしろ悪くないのでは……と思ってしまうところ。ただ、予価で69,800円前後と高いCPUなので、コストパフォーマンスで選ぶなら7700が圧勝と言える。

ちなみに、AMDでは電力のリミットによって性能を出し切れない7900に対して、「Ryzen Master」を使って「Precision Boost Overdrive」を有効化してオーバークロックし、簡易水冷クーラーと組み合わせることで最大39%もCINEBENCH R23のスコアを向上できるとしている。しかし、TDP 65W版のRyzen 7000シリーズは低消費電力、低発熱が一番の魅力。水冷まで使ってオーバークロックするなら最初から7900Xを買えばいいわけで、ちょっとちぐはぐなアピールと言える。まあ、性能をアップできる余地がある、というのは悪くはないが。

Ryzen 9 7900はRyzen Masterでオーバークロックすることで、最大39%性能向上が行えるとしている

と、ここまでがRyzen 9 7900/Ryzen 7 7700/Ryzen 5 7600のテスト結果だ。「X」付きのRyzen 7000シリーズは高性能だが、発熱、消費電力ともに大きかったが、TDPが65Wになることで大幅に改善された。もちろん、TDP 65W/PPT 88Wの電力リミットが性能の足かせになっている部分もあるが、発熱は大幅に下がっており、空冷のCPUクーラーでも使いやすくなった。小型のPCに組み込みやすくなったのは大きな強み。今回のテストでは一番下のモデルになるためRyzen 5 7600は目立たなかったが、3万円台で購入できる6コアCPUとしては高性能なのは確かだ。

Ryzen 7000シリーズは、マザーボードの価格が高い上に、メモリはDDR5だけになったことでパーツの使い回しがしにくく、Ryzen 5000シリーズのような爆発的人気とはないっていないが、Socket AM5プラットフォームは少なくとも2025年までは継続して使用するとしており、将来性は非常に高い。今回のモデル追加で、Ryzen 7000シリーズがさらに盛り上がることを期待したいところだ。