乾貴士が清水に“ぴったり”な訳 ウィークポイント解消へ期待大、チームを変え得る“加入効果”とは?
【J番記者コラム】34歳・元日本代表MF乾貴士の加入にフォーカス
J1リーグ残り12試合となった時点で自動降格圏内の17位に沈んでいる清水エスパルスは、4季連続となるシーズン途中での監督交代を敢行。
6月に就任したブラジル人のゼ・リカルド監督の下で立て直しを急いでいる一方、その一環として例年と同様に夏の戦力補強も積極的に進めている。
とりわけ攻撃陣の強化が目立ち、FW北川航也(←SKラピード・ウィーン/オーストリア)、MFヤゴ・ピカチュウ(←フォルタレーザ/ブラジル)に続いて獲得した元日本代表MF乾貴士の存在が注目されている。
ドイツやスペインのクラブを渡り歩いた経験豊富な34歳アタッカーの加入効果は大いに期待できる。その理由は、彼の特徴や武器が、清水が欲している要素と見事に合致しているからだ。
清水の前線には、ここまで15試合でチームトップの7ゴールを決めているブラジル人FWチアゴ・サンタナが君臨。まずまずの決定力を発揮しているものの、シュート数は29本(1試合平均1.93本)と6位までの上位8人の中で最も少ない。決定率は24.1%と非常に高いため、彼がシュートを打てる状況をもっと増やせれば、得点ランクの上位に絡んでくる可能性も高くなる。
そうした意味で不足していたのが、ファイナルサードで独力による突破ができ、決定的なラストパスも出せる選手だ。実際ここまでの戦いぶりを見ていても、カウンターからチャンスを作り出すシーンが目立つ反面、組織的な守備陣形を敷かれた途端に攻撃が手詰まりになっている。
そこは残留争いのライバルチームに勝つためには重要な要素であり、“決定機を増やせる選手”として乾は大いに期待されているわけだ。乾の加入により、サンタナはもちろん、北川の存在もより生きてくるだろう。また、現在は負傷離脱中の20歳FW鈴木唯人とは、天才肌の選手同士で感覚が合うことも期待できる。
スペイン時代のエイバルで降格も経験、プレー面以外での貢献にも期待
清水への加入は、大熊清GMとの縁もあって「上のリーグ(J1)でやりたい」という思いが強かったことが大きい。オファーを受けた際には大熊GMからも「(プレースタイル的に清水に)合うと思うと言われました」(乾)とのことだ。実際に清水の練習に合流してからも、自分の特長を活かせそうなイメージは湧いていると、乾は自信を示す。
「うまい選手もたくさんいて、感覚の合う選手っていうのはすごく多いと思うので、ハマればいけるんじゃないかなと思っています」
トレーニング中のミニゲームでは、ドリブルでスルスルと突破してからラストパスを通すというシーンをたびたび作り、クオリティーの高さを見せつけている。周囲との呼吸が合ってくれば、「ハマる」シーンはより増えてくるはずだ。
乾の加入効果は、もちろんプレーの面だけではない。年齢的にはGK権田修一と同級生でチーム最年長。スペイン時代のエイバルでは降格も経験した。
「エイバルで降格した時は、監督のことを信頼しきれてなかったところがチーム内にあって、そうなってしまうと一気にガタガタといってしまうので、みんながバラバラにならずに同じ方向を向いてやっていくことが一番大事だと思います。そこをもう一度みんなで確かめ合って、合わせていきたいと思っています」
残留争いの渦中では、試合中に選手が冷静さを失いやすくなってくる。そうなった時にボールをしっかりと落ち着かせながら、精神面でもチームに落ち着きを与えられる乾の存在は大きな価値がある。
最年長ながら上下関係にはこだわらず、「下の子たちにも普通に接してほしいというか、全然タメ口でいいので」と乾。全体練習後に若手たちと一緒に和気あいあいと自主練に励んでいる姿も印象的だった。
「(清水には)本当に感謝しかないですし、それを早くピッチで返したいという思いが強いので、まずは降格することがないように自分の力を生かしていきたいと思っています」
そう語る乾の表情からは、オレンジのシャツを着て戦う喜びと覚悟が存分に伝わってくる。(前島芳雄 / Yoshio Maeshima)