愛犬家はお断り!?「今堀日吉神社文書」が伝える室町時代のイヌ飼育禁止令

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人間は社会的動物と言われますが、家族や仲間と円滑にコミュニティを営むためには、ルールづくりが欠かせません(不文律を含む)。

そこで様々なルールが作られたのですが、中にはなぜ作ったのかが分からないルールも少なくありません。

今回は室町時代、近江国今堀郷(現:滋賀県東近江市)で定められたこんなルール。

犬を飼ってはいけない村の掟。なんで?(イメージ)

一、犬かうへからす事(犬を飼ってはならない)

これは室町時代の延徳元年(1489年)11月4日に定められた掟の一つで「今堀日吉神社文書(いまぼりひえじんじゃもんじょ)」に記されています。

犬は太古の昔から人類のパートナーなのに……なぜなのでしょうか。ただ禁止するだけで理由が書かれていないため、研究者の間では、いまだに決着がつかないのだとか。

今回はそんな犬飼育禁止令にまつわる諸説を紹介。皆さんは、どれだと思いますか?

犬を飼うメリット・デメリット

犬の飼育を禁止するのは、メリットよりもデメリットの方が大きいから。そこで犬を飼うことのメリットとデメリットを考えてみましょう。

【犬を飼うメリット】
・防犯対策に有効
・害獣駆除に有効(熊、狼、鹿、狐など)
・かわいい(個体や主観による)

犬同士を闘わせて娯楽に供する闘犬。当時は動物福祉の概念などない。「北條高時犬合戦之図」

【犬を飼うデメリット】
・狂犬病や伝染病を媒介するリスク
・吠えてうるさい、人畜に怪我をさせることも
・餌のコスト(食糧または金銭)がかさむ
・闘犬(バクチ)を始めるヤツが出る

……などなど。

一般的には江戸時代から渡来したと言われる狂犬病。しかし甲斐国の年代記『勝山記(かつやまき)』によると「犬にわかに石木、または人かみつき、自滅すること数を知らず(文明8・1476年)」という記述から、室町・戦国期には日本に入っていたものと考えられています。

また狂犬病でなくても人にケガをさせたり、餌代がバカにならなかったり(排泄物による景観・衛生問題も)、挙げ句の果てには闘犬≒バクチを始めて風紀が悪化するなど踏んだり蹴ったりです。

一方で防犯対策や害獣駆除(そして何よりかわいい)といったメリットはあるものの、あまり厳重すぎると人が寄りつかなくなってしまいます。

犬に吠えられ、うんざりする旅人(イメージ)

この辺りは平地のため、どちらかと言えば交易が盛んな地域。もちろんよそ者や犯罪には警戒するものの、行商など人の出入りは活発に保ちたかったのでしょう。

以上のような要素をもろもろ天秤にかけた結果、ウチでは犬の飼育を禁止しようと決められたものと考えられます。

終わりに

そんな中で面白い説もあり、今堀郷を管轄する日吉神社の神使(みさき)は猿なので、「犬猿の仲」を配慮して犬を飼わないのだとか。

猿は山神様のお使い(イメージ)

神様も地域の住民であり、共に生きていた中世の人々らしい発想ですね。もしかしたら、その辺りが正解なのかも知れません。

他の日吉神社が管轄している地域には同じような犬飼育禁止令があるのか、調べてみたいですね!

※参考文献:

清水克行・高野秀行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』集英社、2015年8月