虎ノ門・新橋と晴海を結ぶ「東京BRT」の燃料電池バス(記者撮影)

晴海や勝どきなどの臨海部と都心部を結ぶ足として2020年10月に運行を開始した”バス高速輸送システム”「東京BRT」。当初は虎ノ門―新橋―晴海間を結ぶ1ルートで、2021年夏の東京五輪・パラリンピック後に3ルートへ拡張、さらに2022年度以降に4ルートの「本格運行」を開始する3段構えの計画でスタートした。

だが、五輪開催から約1年が経過した2022年7月時点でも、路線は第1段階の1ルートのままで、第2段階へ向けた停留所の整備にようやくメドが立った状態だ。本格運行開始後は、五輪選手村として利用された大規模マンション「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」の主要交通機関となる予定の東京BRTだが、現状と今後の見通しはどうなっているのだろうか。

コロナに翻弄された運行計画

東京BRTは、鉄道網へのアクセスが不便な臨海部の交通機関として東京都が計画。従来の路線バスより停留所を少なくし、2車体をつないだ「連節バス」の導入などで、将来的には新交通システムやLRT(次世代型路面電車)に劣らない速達性・定時性と輸送力を備えた高速輸送システムとなることを目指している。

現在は本格運行の前段階にあたる「プレ運行」の第1段階となる「プレ運行1次」の状態で、虎ノ門ヒルズのバスターミナルと晴海のBRTターミナル間約5kmを結ぶ1路線が営業中だ。当面の運行は京成バスが担当し、将来の本格運行時には同社が設立した新会社「東京BRT」が担う。

東京BRTはそのスタートからコロナ禍と五輪の延期に翻弄されてきた。プレ運行1次の開始は当初2020年5月を予定していたが、コロナ感染が急速に拡大した時期にあたったことで同年10月に延びた。さらに東京五輪・パラリンピックの延期に伴い、本来なら2020年夏の同大会終了後に予定していた第2段階の「プレ運行2次」への移行時期も先延ばしになった。そして、現在もプレ運行2次は始まっていない。

プレ運行2次は、虎ノ門・新橋から勝どきを経て東京テレポートまでを結ぶ「幹線ルート」と、晴海・豊洲市場方面への「晴海・豊洲ルート」、そして新橋―勝どき間のみを走る「勝どきルート」の3ルートに路線が増える。新たに整備が必要な停留所は7カ所で、都は2022年1月から3月にかけて施設整備を実施し、工事完了後は「速やかにプレ運行2次が開始できるよう取り組む」予定だった。

だが、停留所の工事に向けて都が今年1月に実施した競争入札は応札者がなく、契約に至らなかった。東京都都市整備局は入札参加者の辞退理由について業者にヒアリングを実施したうえで、「施工箇所が7箇所に点在すること」や「技術者を確保することが困難であること」などが契約不調の要因だったとしている。

これを受け、都は7つの停留所のうち、既存のバス停移設などを伴わず早期に整備できる「豊洲市場前」「有明テニスの森」「国際展示場」の3カ所について随意契約で工事を実施。バスの停止位置に白線を設けたり、乗降口にあたる部分の道路の柵を撤去したりするなどの整備を行った。さらに、5月には残る4カ所の停留所整備について再度入札を実施。都市整備局によると今回は応札者があり、8月ごろには工事に着手できる見込みとなった。

プレ運行2次は10月末以降

都市整備局によると、4カ所の停留所の整備は10月末までに完了する予定といい、プレ運行2次の開始は早くてもその後となる。運行認可などの手続きはこれからで、今のところ具体的な開始時期は決まっていないが、都市整備局交通政策課の担当者は「施設が完成すればなるべく早く実施したい」と話す。

ルートが増えるためバスの増車も必要となる。現在は連節バス1台、燃料電池バス5台、一般のディーゼルエンジンのバス3台の計9台を運用している。プレ運行2次で何台増やすかは「ダイヤの関係もあるため現時点では未定」(都市整備局交通政策課の担当者)だが、運行を担う京成バスによると、準備として5台の燃料電池バスをすでに導入したという。

ただ、プレ運行2次では「バス高速輸送システム」といえる段階ではない。本格運行時には所要時間の短縮に向け、電車のようにすべてのドアから乗車できるシステムを採用する方針だが、プレ運行2次では現在と同様、前のドアから乗車して後ろのドアから降りる一般的な路線バスの方式となる。


東京BRTのシンボルの1つである大型の屋根付き停留施設。設置は今のところ新橋のみだ(記者撮影)

また、停留所も当面は一般の路線バスと変わらないスタイルとなりそうだ。東京BRTは停留施設をシンボルの1つと位置付けており、ホームページなどでは近代的な路面電車のホームを思わせる2段の屋根を備えた乗り場のイメージを掲載している。乗客がバス待ちや乗降の際に雨に濡れないための工夫だ。だが、現時点でこの形となっているのは新橋の停留所のみだ。

これから工事を進める停留所も「プレ運行2次のスタート段階では上屋までは整備しない」(都市整備局交通政策課の担当者)といい、この形の施設をどの停留所に整備するかも含めて現状では検討段階という。一般の路線バスでも屋根のある停留所が多い中、しばらくは乗り場の環境はやや見劣りしそうだ。

本格運行はいつになる?

近年、タワーマンションなどの増加で急速な人口拡大が続く臨海部。現在注目が集まっているのは、五輪の選手村として利用された大規模マンション「晴海フラッグ」だ。同マンション群は最寄りの鉄道駅である都営地下鉄大江戸線の勝どき駅まで徒歩約20分と離れており、東京BRTの本格運行時には「選手村ルート」が開設され、都心部とを結ぶ主要交通機関となる。


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プレ運行2次から本格運行への移行は、主な走行ルートである環状2号線の本線トンネル開通以後となる。同トンネルの開通は2022年度の予定だ。都市整備局交通政策課の担当者は、2024年3月に予定される「選手村(晴海フラッグ)地域の街びらきまでには本格運行開始を目指す」と話す。

東京BRTの停留所には、BRTという交通システムについて「連節バス、PTPS(公共車両優先システム)、バスレーン等を組み合わせることで、LRTやモノレール並の速達性・定時性の確保や輸送能力の増大が可能となる高次の機能を備えたバスシステムを指します」との説明がある。ただ、現状は専用レーンなどはなく、”停留所の少ない路線バス”といったところが実情だ。

臨海部では銀座や東京駅など都心部に直結する地下鉄新線の構想もあるが、具体的な計画には至っておらず、当面は東京BRTが担うべき役割は決して小さくない。本当の「高速輸送システム」に脱皮できるかどうかは今後の施策次第だが、まずは本格運行に向けてプレ運行2次を早期に開始できるかどうかが今後への重要な一歩となるだろう。

(小佐野 景寿 : 東洋経済 記者)