※この記事は2021年06月05日にBLOGOSで公開されたものです

昨年春以降に本格化した我が国のコロナ禍経済状況はこの春で1年を迎え、多くの企業が新年度入りした4月以降を機として、コロナ対応の長期化、あるいは経常化を前提とした新たな戦略を打ち出しています。

特に目に付くのは、コロナ禍における「勝ち組企業」の積極的投資による新戦略展開です。コロナ初年度「勝ち組企業」の第二年度戦略を追ってみます。

このタイミングで飲食業に参入するニトリの自信

真っ先に頭に浮かぶコロナ禍における「勝ち組企業」の代表格は、家具・雑貨販売チェーンのニトリでしょう。

ニトリは、コロナ禍でのステイホームや急激にニューノーマル化したテレワークの広がりで生活空間を快適にしたいというニーズの盛り上がりを受けて、通期でウイズコロナ期と重なった21年2月決算で、売上高が前期比11.6%増の7169億円、営業利益で同28%増の1376億円、最終利益は同29%増の921億円で34期連続最高益更新という、絶好調といえる業績を計上しました。

ニトリの業績進展に関しては、主に住宅地郊外に店舗配置されたニトリの立地も、都心部を避け車移動がよしとされるコロナ禍においては、大きくプラスに働いたといえます。そしてそんなニトリが、新たな事業としてこのコロナ禍にあえて始めるのが外食産業です。

「ニトリダイニング みんなのグリル」の店舗名で、低価格ステーキのチェーン店を展開しようというこの計画、基本はニトリ店舗の敷地内に出店し、郊外立地を活かしてコロナ禍においても家具店との相乗効果集客を狙うとのことです。

なぜ外食なのかという問いに対しては、家具店経営で培ったノウハウが活かせると考えたからというのですが、なるほどそこには家具と外食の意外な共通点がありました。

ひとつは、家具・雑貨部門で経験を積んできた、生産から販売に至るまでのSPA(製造小売り)モデルを外食にも転用することで、将来的な畜産業参入も視野に入れ低価格化を実現できる点。店舗づくりに関しては、本業のリフォーム部門が手掛けることで大幅なコストダウンがはかれるという点です。

現在、多くの企業がコロナ禍に苦しむ外食産業にあえてこの時期に新規参入するという決断には、成功体験に裏打ちされた並々ならぬ自信がうかがえます。

コロナ禍でも好調マクドナルドの強気な店舗刷新計画

外食産業のコロナ禍「勝ち組企業」の代表格といえば、マクドナルドでしょう。

昨春来のステイホーム、3密回避、飲食店への営業自粛要請等の影響で外食産業が軒並み苦戦を強いられる中で、同社は2020年12月決算で売上高が前年比2.3%増の2883億3200万円、営業利益は11.7%増の312億9000万円を計上。

さらにこの1~3月四半期では、前年比で売上高が5%増、営業利益で19.7%増と、その勢いを増して絶好調といえる状況にあります。

これは、コロナ禍でテイクアウト、宅配強化にいち早く力を入れたことで、テイクアウト需要の盛り上がりをしっかりと掴まえることができた点が大きいといえます。

中身を詳しくみていると、昨年12月決算ベースで、店内飲食は前年比約9%減ったものの、テイクアウトの増加が家族単位での購入増を促し客単価が17%も増加。この思わぬプラス要因が、外食にあって圧倒的な好調をもたらしているわけなのです。

そんな中、マクドナルドの新投資戦略として注目すべきは、店舗の大幅刷新計画です。上記のように客単価が上昇した「巣ごもり需要」に対応するために、各店の調理能力を2倍にするほか、店舗の建て替えなどでドライブスルーの受け入れ能力も拡大するという、大きな投資を計画しています。

その総額は240億円。このコロナ禍にあって13年ぶりの高水準投資であり、「勝ち」を決定づけるための強気の前向き戦略を打ち出したといえるでしょう。

都心へ出店計画を変更するスシローの新戦略

もう一社、コロナ不況の直撃を受けている外食産業で異彩を放っているのが、回転寿司チェーンのスシローです。

スシローを運営するフード&ライフカンパニーズの2021年3月中間連結決算では、一般の売上高に当たる売上収益が前年同期比10%増の1190億円、最終利益が54%増の78億円と、いずれも上半期としては過去最高を更新しています。

その原動力は、徹底した自動化を通じた非接触型店舗というコンセプトのニューノーマルな店づくりと、コロナ禍で多発する空きテナントをリーズナブルに取得する積極出店です。

自動化では、受付時の自動案内機をはじめAI搭載カメラで食べた皿枚数を画像認識した上で会計を自動計算するシステム導入や、店舗の混雑状況が分かる専用のスマホアプリで予約を可能にしたことで、コロナ禍においても家族連れが安心して食事が楽しめる店づくりを、印象付けることに成功しています。

この点では引き続き、非対面システムの導入の進展に積極投資をおこない、他チェーンとの差別化をはかっていくとのことです。

積極出店については、都心部の一等地での空き物件もかなり出てきており、不動産市況が低迷するこの時期にコロナ後を視野に入れ、これまでの郊外中心の出店戦略に見直しを加えて、都心部出店計画をおしすすめる考えも打ち出しました。

既に3月には、伊勢丹新宿店前の居酒屋撤退後の空きテナントをスシローの新店としてオープンさせるなど、新戦略への積極的な取り組みを始めています。

「負け組」も逆襲の一手を打つ中、業界勢力図は塗り変わるか

このようにコロナ初年度「勝ち組企業」は皆、現状に甘んじることなくいかにして次のフェーズでも勝ち組になるか、すなわち来るべきワクチン接種拡大による集団免疫獲得を機としたアフターコロナ市場でいかにして主導権を奪取するか、という観点での新戦略への取り組みに続々乗り出しているといえそうです。

コロナ初年度「勝ち組企業」がコロナ後も「勝ち組企業」でいられるか否かはこれらの戦略の成否にかかっているわけですが、一方で初年度「負け組企業」にとってもただただ待っているだけではありません。

例えば日本航空は中国の春秋航空子会社化によるLCC事業の強化を打ち出していますし、帝国ホテルは稼ぎ頭である東京の建て替えや京都進出を決めるなど、あえてこの時期にコロナ後を見据えた逆張り戦略に打って出ています。「負け組企業」にとっては、ここが逆襲に転じるための正念場といえるかもしれません。

コロナ初年度「勝ち組企業」「負け組企業」それぞれの思惑が交錯しつつ、「勝ち組企業」が続々新戦略を打ち出し「負け組企業」も逆襲の一手を打ちはじめたコロナ経済第二フェーズの幕開け。

多くの業界で優勝劣敗が進んで業界勢力図が書き換わるのか、初年度「勝ち組」「負け組」の動きから当分目が離せそうにありません。