日本国民の8割が反対する中で「東京五輪」を開催できるのか~田原総一朗インタビュー - 田原総一朗
※この記事は2021年05月25日にBLOGOSで公開されたものです
コロナの勢いが止まらない。4月25日から緊急事態宣言下にある東京や大阪はやや落ち着きつつあるものの、まだまだ感染者数は多い。加えて他の地域で感染が拡大し、北海道や岡山などにも緊急事態宣言が出された。このままでは東京オリンピック・パラリンピックの開催は難しいのではないか。そんな世論も高まるなか、政府としてどのような手を打っていけばいいのか。田原総一朗さんに聞いた。【田野幸伸・亀松太郎】
「緊急事態宣言が継続しても五輪を開催する」
今回は3度目の緊急事態宣言だが、当初は5月11日まで17日間の予定だった。しかしコロナを抑え込むことはできず、期間を延長せざるをえなくなった。政府の目算が狂ったのだ。
もともと専門家の間では「17日間は短い」という批判があった。それなのになぜ、菅首相は5月11日までという期限を設定したのか。背景にあるのは東京オリンピックで、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長が5月中旬に来日する予定だったからだ。
バッハ会長は5月17日に広島で開かれる聖火リレーの式典に参加し、18日に東京で菅義偉首相や五輪組織委員会の橋本聖子会長らと会談することを計画していた。そこでオリンピックの開催を最終的に決めるつもりだった。
菅首相としては、なんとしてもそれまでに緊急事態宣言を解除したかったのだ。
ところが、緊急事態宣言は延長され、バッハ会長の来日もキャンセルされてしまった。バッハ会長は7月に日本に来る予定だというが、オリンピックの開催直前である。そんなタイミングで良いのか。
世論は、コロナ禍の五輪開催に厳しい視線を送っている。新聞やテレビの世論調査を見ると、7割近くが中止か再延期を求めている。5月中旬に実施されたANN(テレビ朝日系)の世論調査では、「中止したほうが良い」が49%、「さらに延期したほうが良い」が33%で、あわせて8割以上を占める結果となった。
5月21日には、IOCのコーツ調整委員長がオンライン記者会見を開き、たとえ緊急事態宣言が継続していても「オリンピックを開催する」と明言した。だが、日本の世論と大きく乖離しており、開催国の実情を無視した姿勢と言わざるをえないだろう。
日本がワクチン獲得競争に失敗した理由
なぜ、このような事態になっているのか。
大きな要因は、日本がコロナワクチンの獲得競争に失敗し、ワクチン接種が大きく遅れてしまったことにある。イスラエルやアメリカなどの先行事例で明らかなように、ワクチンこそがコロナ対策の切り札と言える。
日本でもワクチン接種がもっと早く実施できていれば、オリンピック開催までにコロナの感染者数を大きく減らすことができたはずだ。
しかし、五輪の開会式まであと2カ月しかない。日本はようやく高齢者への集団接種が本格化したばかりで、非常に厳しい状況だ。世論の多数が、再延期・中止を求めているのも当然だろう。
では、なぜ日本はコロナ獲得競争に失敗したのか。
厚労省がファイザー社のワクチンを承認したのは、今年2月。欧米よりも約2カ月遅かった。遅くなったのは、厚労省が日本人だけを対象にした治験データを求めたためだ。
人種による効果や副反応の違いが出る可能性を重視して、慎重を期した形だが、結果的にワクチンの接種時期が遅れることになった。薬の承認は命にかかわることなので、慎重な対応が求められるのは当然だが、コロナ禍という緊急事態において対応が後手に回り、結果として、国民の命を脅かしているのは問題だろう。
緊急事態といえば、日経新聞が今年の憲法記念日(5月3日)の社説で、憲法に緊急事態条項を設けるべきかどうかを国会で検討すべきだと訴えた。
他国の憲法を見ると、戦争などの緊急事態が起きた場合に人権を大きく制限できる条項を設けている場合が多い。しかし、日本は第二次大戦後、新しい憲法で「戦争をしない国」という選択をしたため、緊急事態条項を設けていない。
これに対して、日経新聞が「コロナよりもさらに切迫した事態」が生じたときのために、憲法を改正して緊急事態条項を入れることも検討すべきだと提言した。マスコミではタブーといえるテーマに日経新聞が切り込んできたのだ。
コロナの問題は、緊急事態に迅速に動くことができない日本という国の課題を浮き彫りにした。日経の提言を受け、我々もどうすべきか考える必要がある。