オリラジ中田敦彦の「前言撤回力」顔出し引退宣言は実験の1つか - 放送作家の徹夜は2日まで
※この記事は2021年05月13日にBLOGOSで公開されたものです
放送作家のおおたけです。
教育系YouTuberとして大活躍中のオリエンタルラジオ中田敦彦さんが自身のYouTubeチャンネル『中田敦彦のトーク- NAKATA TALKS』に投稿した3月12日の動画で今後、自身の顔を出さず「N」というアバターを使い、声のみでYouTubeの投稿を始めると宣言しました。
この件はネットニュースやテレビのワイドショーでも取り上げられ、是非についての議論が行なわれたのですが…。顔出し引退宣言から約1ヶ月後の4月5日。同じYouTubeチャンネル内で『【前言撤回】中田敦彦より重大発表』というタイトルの動画を投稿。今度は顔出し引退を撤回すると発表しました。
1ヶ月も経たないうちに起きた前言撤回ですが、アバター化の間、『中田敦彦のYouTube大学 - NAKATA UNIVERSITY』に投稿された動画は『デスノート』『推し、燃ゆ』『人新世の資本論』の6本(それぞれ前後半の2本立て)。この6本の動画に寄せられたコメントなどを見て、顔出し引退宣言を撤回するという判断に至ったのでしょう。動画投稿のペースを考えると、かなり早い段階から顔出し引退の撤回を考えていたかもしれません。
1冊の本や物語を圧倒的な熱量のプレゼンで届けるYouTubeチャンネル『中田敦彦のYouTube大学 - NAKATA UNIVERSITY』。話のわかりやすさ、説得力もさることながら、『エクストリームコミック』シリーズなどで魅せる中田さんのキャラクター憑依芸はYouTube大学の魅力の1つだと思います。
あの表情、あの手の動き。飛沫NGの時代にモニター越しに飛んではいけないものが飛んでくるのでは…と錯覚するほどの熱演。そこには落語のような魅力もあったのではないでしょうか。
アバターをやめて、これまで通りの顔出しスタイルに戻して撮影された動画『HUNTER×HUNTER 全力一挙解説』は、前半が2時間56分9秒、後半が2時間48分43秒という、狂気すら感じる熱のこもり具合でした。
前言撤回が当たり前だったオールナイトニッポン
「顔出し引退」「顔出し引退撤回」「狂気の6時間動画」
ここだけ切り取ると、中田さんの予測不能の動きにパニック状態に陥ってしまうかもしれません。でも安心してください。それはまだアナタが中田敦彦という生き物の魅力を知らないだけです。中田さんの前言撤回など今に始まったことではありません。前言撤回こそが中田敦彦の生み出すエンターテインメントの真骨頂です。
中田さんが2018年10月~2019年3月まで担当していた『中田敦彦のオールナイトニッポンPremium』において、前言撤回は日常茶飯事。
初回放送では、LINEが当たり前の時代にメールで投稿を募集しているなんて古い!ということで、「葉書もメールもいらない、とにかく #中田敦彦ANNP をつけて3行以上のツイートをしてくれ!読むぞ!」と叫ぶ。
しかし、Twitterはつぶやきを投稿するもので、それを元にラジオで話をするには文字量が物足りない面も。そこですぐさま前言撤回。圧倒的な文字量の長文メールだけを募集することになりました。
まだあります。ラジオ内でTシャツにプリントする架空の四字熟語を募集するコーナーが本人の発案でスタート。長文でもないため投稿のハードルは低く、多くの架空四字熟語が送られてきました。しかし、思っていたのと違ったのか、圧倒的な熱狂を生むコーナーになると感じなかったのかはわかりませんが、わずか数週間でコーナーの廃止を宣言!
通常、ラジオのネタコーナーはある程度の期間を設けます。それはラジオがリスナーと共に番組を作り上げていく部分が大きいため。スタート当初は、それほど盛り上がっていないコーナーも、リスナーが遊び方を見つけて、爆発的な熱狂を生むこともあります。
それをわずか数週間でコーナー終了という、ラジオのネタコーナーとしては異例のスピードで終了。これも前言撤回の1つでしょう。このように中田さんの前言撤回は今に始まったことではないのです。
正気の沙汰じゃないほどの朝令暮改
ラジオだけの話ではありません。著書『幸福論 「しくじり」の哲学』の目次には「『前言撤回』精神」とあり、自身が運営しているオンラインサロンの運営については次のように書かれています。
「コロナ禍を機にサロンの在り方をあれこれ変えたが、こういうのはぼくにとって日常茶飯事。なにしろぼくの座右の銘は『前言撤回』と公言してあるのだ。その言のとおり、オンラインサロン運営においてぼくは、正気の沙汰じゃないほど朝令暮改をする」
「正気の沙汰じゃないほどの朝令暮改」
職場の上司であれば、嫌われてもおかしくない行動ですが、この点について著書にはこうあります。
「オンラインサロンをはじめインターネット関連のビジネス現場では、それくらいでちょうどいいようだ。トライアンドエラーを無限に繰り返して中身を磨いていくのが常道なのである」
今回の中田アバター化計画もトライアンドエラーの1つでした。ただ方向転換のスピードが並ではありません。傍目にはまだトライの途中に見えるものでも、絶えず微調整を行い進化させてアウトプットを行います。
その精神はどこから生まれてくるのか。著書『労働2.0』には次のように書いてあります。
「やりたいことを言え!言ったらやれ!」
パワフルな物言いですが、これについて本文ではオンラインサロンを始めるにあたって
「何をするところなのか、何ができるのかまったく見えない。でも、わからないまま始めてしまおう、と思いました。まず、仲良しのよしみで(キングコング)西野さんのサロンに入会させていただき、雰囲気をつかんでから自分も開設。無謀と言えば無謀です」
とあります。
何かを始めようと思った時、失敗をしないように慎重に計画を立てて、頭の中でシミュレーションをしてからスタートを切るというのはよくあります。ビジネス用語で言うPDCAサイクルですね。
Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字から来ていますが、中田さんの場合はPlanにかける時間を短くして、DoとActionに比重をおいた考え方のようです。
「とりあえずやる」がモットーのため、失敗するリスクも抱えますがそれ以上にとにかくアウトプットをし続けるということでしょう。
有名な話では、作詞家として大成功を収めている秋元康さんも多くのヒット曲の歌詞を書いていますが、その影には、ヒットチャートにランクインしなかった作品もあります。
成功の裏には失敗があり、失敗があるからこそ成功がある。大成功を収めている人でも、数々の失敗が糧となって成功に至っているわけです。
「アイデアはすごくない」の精神
「やりたいことをやる」
とてもシンプルなことではありますが、それだけやりたいことがあるというのも才能かもしれません。行動をするためにはそのためのアイデアが必要です。
このアイデアについて、中田さんは自身の著書『労働2.0』でこう記しています。
「アイデアはすごくない」
ヒットするためのアイデアはとても価値が高いように思いますが、中田さんの考え方は逆のようです。その真意が著書に綴られていました。
「人が何かを考えつくとき、おそらくほかにも同じアイデアを持っている人は何人かいるはずです。アイデアはニーズのあるところに生まれるものであり、そのニーズを誰もが感じているからです」
自分だけが閃いたと思っているアイデアも、すでに誰かが思いついていたり、実行していたりするということでしょう。
だからこそ、思いついたことをすぐに実行に移すことが大切。頭の中でいつまでもシミュレーションをして機をうかがうよりも、パッと行動に移すことが大切という考え方のようです。
一般社会で前言撤回を繰り返すと敵を作ってしまうことも大いにあると思います。ただ「前言撤回」というカードをポケットに入れておくだけで、「失敗してもまたやり直せばいいや」と気楽に考えられるようになるでしょう。SNSの出現で、個人でも様々なチャレンジができる現代において、前言撤回力は必要な能力なのかもしれませんね。
おおたけまさよし
なんでも調べる放送作家
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