海岸で遊泳中に地震 沖にいる人の命を守る「津波フラッグ」を知っていますか? - 岸慶太

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※この記事は2021年05月11日にBLOGOSで公開されたものです

インドネシアやポーランド、さらにはオーストリアやスイスの国旗とも見間違うかもしれない。赤と白色の2色が取り入れられた格子模様の旗をご存知だろうか。

名称は「津波フラッグ」。聴覚に障害のある人や沖で遊泳中の人に津波警報の発表を伝えることで、命を守るための旗だ。気象庁が昨年6月に導入したが、課題は知名度の低さ。海水浴場を抱える全国446の自治体のうち、約14%にしか普及していない。

東日本大震災の発生から10年2ヶ月が過ぎる5月11日。初夏に入り、海の季節がやってきた。新型コロナウイルスが猛威を振るう中だが、海開きを迎える海水浴場も少なくない。フラッグの意味だけでも頭の片隅に留めておけば、万一の際、誰かの大切な命を救うことができるかもしれない。

沖にいる人へ津波をどう伝える 東日本大震災で浮かんだ課題

例年、関東を中心に大勢の人が海水浴に訪れる神奈川県鎌倉市。由比ガ浜、材木座、腰越の三つの海水浴場は例年、大勢の人が訪れる関東随一のマリンレジャースポットだ。

津波フラッグの誕生前、鎌倉である旗が津波襲来の合図として使われるようになったのは11年春、東日本大震災の発生直後のことだ。当時はオレンジ一色の旗だった。

オレンジ色の旗を浜辺で振ったり沿岸の建物に掲げたりして、沖合にいるサーファーやヨットマンらに津波の襲来を伝える。東日本大震災の発生時、沖にいる人の中には地震が起きたことすら気付けずにいる人もいて、津波がやってくることを伝えるのに苦労したことを教訓にしたという。

鎌倉発祥のこの取り組みは近隣の逗子、藤沢両市に加え、千葉県いすみ市や静岡県御前崎市、沖縄県北谷町などにも普及。一方、全国を見回すと赤色回転灯や赤色の旗など津波の襲来の伝え方には地域差もあり、全国共通の方法を求める声が生まれていった。

全国共通のルール 2020年に赤と白色の格子模様の旗

全国共通の伝え方を決めるため、気象庁が主体となって検討を重ね、2020年6月に津波フラッグが誕生。デザインは、色覚の多様性にマッチし海外の人にも分かりやすいようにと、赤と白色の格子模様が採用された。

音が聞こえない曲面も 視覚的な伝達が重要

鎌倉で生まれたオレンジ色の旗と同様、津波フラッグも東日本大震災の教訓を大切にしている。

警察庁のまとめによると、今年3月9日時点で、東日本大震災の死者数は1万5899人。行方不明者数は2526人だった。特に被害が大きかった岩手、宮城、福島の3県では、聴覚に障害のある人の死亡率が、障害のない人の2倍に上ったとの統計の存在もある。

海上と岸とでは状況が大きく異なることも旗が重宝される理由の一つだ。遊泳中などで海中にいる場合に加え、船の上にいる場合でも波音や風で遠くからの音を聞き取ることは難しくなる。加えて、海中を潜っている際は、もし地震が起きたとしても地上にいる時よりも揺れを感じにくいとされる。

津波警報の発令は、テレビやラジオ、スマートフォン、サイレン、鐘などで伝えられるものの、音が聞きにくい状況では視覚的な伝達が重要になってくる。津波フラッグは、砂浜にいるライフセーバーがたなびかせるほか、高い建物に掲げられて用いられる。

導入から来月で丸1年が過ぎる津波フラッグ。その意味が十分に浸透したとは言いにくいのが現状だ。

普及率は14% 今後の定着が課題

いわゆる“海無し県”の群馬と栃木、埼玉、山梨、長野、岐阜、滋賀、奈良の8県を除いた39都道府県に海水浴場はある。ところが、今年2月末時点で、海水浴場がある446市町村のうち、津波フラッグを導入した自治体は約14%の63にとどまる。

都道府県別では、神奈川が最多の13で、静岡が8、千葉が4と続く。一方、海に囲まれた沖縄県や、関西きっての夏の行楽地・白浜を抱える和歌山県などがゼロなど、全国的に定着しているとは言い難い状況だ。

こうした中、気象庁は2025年度までに80%の普及率を目指している。地震津波防災推進室の担当者は「日本ライフセービング協会や全日本ろうあ連盟などと連携しながら、津波フラッグの導入に向けた自治体への働きかけを強化したい」としている。