※この記事は2018年05月25日にBLOGOSで公開されたものです

「お前、(相手のQBとは)知り合いか?」
「出来ませんでしたじゃ、すまされないぞ」
「僕にやらせて下さいと頼んでこい」
「やらなきゃ意味ないんだよ」
「相手が怪我して秋の試合に出られなかったらこっちの得だろう」

まるで、何十年も前のVシネマかなんかに出て来るヤクザのクサいセリフでも聞かされているようだった。

加害選手が前代未聞の「個人会見」

日本大学アメフト部の選手による、関西学院大学の選手への悪質なタックル問題で、加害者である宮川泰介選手が日本記者クラブで”個人会見”を開き、被害者の選手に謝罪、その上で内田正人前監督(62)や井上奨前コーチ(30)の発言や関わりを生々しく語った。

今回の騒動や宮川選手の会見については、さまざまな形で報じられているので、ここでは割愛するが、23日夜、名指しされた内田前監督と井上前コーチが、都内で緊急会見を開き宮川選手の発言について完全否定した。

それにしても、こんな会見は学生の団体スポーツとしては前代未聞の出来事である。いや珍事と言ってもいいかもしれない。

アメフトの人気というのが、どの程度なのかは分からないが、根強い熱狂的なファンは多いことは理解している。もっとも、明確なバロメーターではないが、関東で言うなら観客が1万人を超えたケースがないらしいから、テレビ中継という部分では難しいのだろう。

日本におけるアメフトだが、基本的には学生中心のスポーツとなっていることは言うまでもない。ちなみに、全国では約1万5000人の登録選手がいるというのだが、その半数以上が大学生なんだとか。

しかも、その人気は関東よりも関西の方が圧倒的だ。そういった盛り上がりもあってか、アメフトの大学日本一を決める「甲子園ボウル」では、関西勢が関東勢を圧倒している。そういった中でいうと、大学のアメフトに限っていえば東の横綱が関学大で、西の横綱が日大といったところかもしれない。

その関学大と日大との試合中に勃発した“事件”。しかも、一人の選手による“傷害事件”である。とは言っても、団体試合内での自らの行動の顛末を、選手自らが記者会見まで開き、弁護士を伴って明らかにする…こんな光景は考えられないことだ。

日本大学の歪んだ体質

もちろん、今回は前述した通り“傷害事件”にもあたる案件だけに「仕方ない」という声もあるが、本来なら大学や監督、コーチが身を挺してでも選手を守らなければならないはずだ。

だが、そんな当たり前のことが出来なかったから、今回のような、前代未聞ともいうべき事態になってしまったわけだが、実は、これによって「株式会社日本大学」の歪んだ体質が世間に晒されてしまったことは言うまでもない。

今回の出来事について、同大の企画広報部は「監督、コーチ、選手の間のコミュニケーションの問題」とか「認識が乖離していた」なんて、ノーテンキな言い訳をしていたが。

つまり、裏返して言うなら、いかに風通しの悪い環境下に選手が置かれていたかを吐露してしまったことになる。

しかし、前監督や前コーチだけではなく、大学全体が“動脈硬化”を起こしているように思えてならない。いや、“動脈硬化”どころか“脳梗塞”状態かもしれない。

宮川選手の会見について、23日の緊急会見では「私の指示ではない」(内田前監督)と話し、井上前コーチも「そうは言っていない」。とにかく保身に終始していたが、指導者として実に見苦しい。とにかく言ったか言わなかったかなんて「記録」も「証拠」もないだろうから、「言っていない」「覚えはない」「記憶にない」。とにかく徹底的に否定し続け、逃げ切ろうとしているのがミエミエだ。

「もはや失うものはない」と覚悟して会見に挑んだ宮川選手と、もはやヘドロのように濁りきった組織の中で、己の意見も何も言えない内田前監督と井上前コーチ…この違いが決定的に現れていた。何とも情けない。

内田前監督というのは、大学トップの田中英寿理事長の腹心だという。しかも、大学ではNO,2の立場にあり、「常務理事」(現在は一時停止となっている)なんて肩書きもあったという。そもそも、こんなお方に職員の人事権まで任せていたというから恐ろしい。おそらく、学生のことなんて二の次、“自分ファースト”で、私利私欲に紛れ、日々、ロクでもない話に明け暮れていたに違いない。23日の緊急会見を見ていても、そんな彼らの“人生観”が滲み出ていた。日頃の行動が、こういった時に露呈するものである。それは隠そうにも隠せないものである。

きっと、今回のことも当初は深刻には考えていなかったはずだ。関学大や被害者が騒ぎ始めたことから、慌てて企画広報部が対応するようになった。ところが「保身」「言い訳」「善後策」ばかりを考えて対処しているのから始末が悪い。ハッキリ言って、こちらも大したコミュニケーションをとっていたとは思えない。

時代遅れで空気が読めなかった広報担当者

緊急会見で司会をしていた広報担当者を見ても分かる。この担当者は、かつて共同通信にいた記者らしいが、オレがオレがタイプで、きっと「任せてください。メディアの連中なんてチョロいチョロい」なんて思っているに違いない。だからだろう、広報部から出てきたコメントなんてものは、どれもこれもズレっぱなしだった。

時代に取り残された広報担当者だけに、空気が読めないのは当然だろう。こっちはコミュニケーション以前の問題。それこそ世の中から乖離している。きっと同大の「危機管理学部」の学生も嘆いているに違いない。どっちにしても、もはや日大の広報部はAIにでも任せた方がマシかもしれない。

内田前監督というのは、一応、アメフト界では有能な監督だと言われていたのかもしれないが、それも日大のNO,2だからって話だろう。学内や学生の前では偉そうなことを言っていても、その実態は無責任の権化。

私利私欲に紛れて…と前述したが、どんな醜い手段を取ろうと勝てばいい、勝つことで日大の中で権力を握れる。とにかく全てが自分の存在にはね返ってくるのだ。彼にとって選手なんてのは単なるコマの一つとしか考えてなかったのだろう。一事が万事である。それが今回のことで化けの皮が剥がれた。

謝罪会見で見えてくる組織の本質

そういえば、芸能界でも、似たような出来事があった。

一昨年、SMAPのメンバーがテレビで“晒し者”になったことがあったが、最近ではTOKIOのメンバーによる会見が記憶に新しい。アレは山口達也の“個人的問題”だったかもしれないが、何だかんだ言う声はあった。

しかし、所属事務所のジャニーズ事務所の関係者は誰も顔を出すことなく、(最終的にはジャニー喜多川社長が「異例のコメント」を出したが)常に後方に回り、(山口は仕方がないとしても)TOKIOのメンバーが連日、テレビで謝罪し、記者会見まで開いて詫びていた。

それってアリなの?所属プロダクションとしての管理責任だってある。スポンサーやレギュラー番組の契約は事務所が結んでいる訳だから、常識的に「おかしい」の一言だ。

会見場をキープして、マスコミを集めるだけが事務所の仕事ではない。もちろん犯罪は正していかなければならない。しかし、本来は所属タレントを守るのが事務所の役割であろう。タレントを矢面に立たせ、晒し者にするなんて事は理解に苦しむ。

もっとも、結果的には“災い転じて福となす”ではないが、4人のTOKIOのイメージアップになったことは確かで、結局のところ「結果オーライ」なのかもしれない。もちろん、これもジャニーズ事務所ならではのパワーかもしれないが、事務所の対応として納得がいかない部分はある。

宮川選手の会見を元監督・コーチは見習うべき

特筆すべきは、やはり宮川選手の会見ぶりだろう、あの姿は素晴らしかった。20歳とは思えないほど、落ち着いていて誠実さが滲み出ていた。

ズラッと並んだテレビカメラ、会場を埋め尽くした記者や大量のフラッシュを浴びる中で堂々と自分の考えを語り、さらに質問にも受け応えする…そんなこと百戦錬磨の大物タレントだって出来るものじゃない。

正直言って、私だったら怖くて体が震えてしまい、言葉も出なかったに違いない。やはり、覚悟を決めた人間の強さだろうか。同時にアメフト選手の強靭さを見た感じだった。もはや日大の誇りだといってもいいだろう。

それにひきかえ、内田前監督と井上コーチの緊急会見は何だったのか?これが指導者だなんて聞いて呆れる。偉そうにしていたのは、空気の読めない広報担当者だった。要は、ボロが出る前に、さっさと終わらせたかったのだろう。「最悪」の見本だった。

この際だから、恥をしのんででも宮川選手のもとで、こういった日大の腐り切った面々は「人間教育」をすることを勧めたい。