【赤木智弘の眼光紙背】食料生産者にリスクを押し付けるな - 赤木智弘
※この記事は2009年11月11日にBLOGOSで公開されたものです
斑点米というお米があるそうだ。これは、カメムシなどに吸われて褐色の斑点が付いてしまったお米のことだが、これが農家の出荷する新米に混ざると、食味などには問題がないにも関わらず「等級」を下げられ、買い取り価格が大きく下がってしまう。
こうした状況に対して、農家や市民グループが検査基準の見直しを求めているという。(*1)
お米の「等級」というと、つい等級が高い方が美味しいお米であると考えがちだが、そういう基準ではないようだ。判断基準は「透明で欠けや割れのないお米」や「死米や斑点米などの着色米、そして異物など」の割合によって決められている。
しかし一度買い取られてしまえば、当然後者は選別によって除去される。そうなってしまえばどちらも白米には変わりなく、その多くは流通段階で混ぜられてしまうそうだ。私たちがお米屋さんなどで手にするお米には、産地や品種の表示はあっても、等級の表示はない。等級はあくまでも買い取り価格を決定するための基準である。
そして、その基準のうち斑点米などの「着色粒」混入に対する基準が厳しく、わずかな斑点米で買い取り価格が下落してしまうために、農家は収入を守るために、ムダな農薬を利用しなければならなくなっているというのが、農家や市民グループの主張である。
確かに生産者に一方的なリスクを負わせる等級制度は不合理なものだと思う。
本来であれば流通段階で負うべき選別のコストを、生産者に買い取り価格の下落という形で負担させてしまっている。ただでさえ病気や不作という自然を相手にする上でのリスクを負いがちな生産者にとって、流通のリスクまでもを負わされるのは、たまったものではないだろう。
しかし、私はこうした主張の一部に賛同する一方で、彼らの「農薬」に対する主張に対し、疑問を覚えたのも確かである。
どうも彼らの主張を見るに、どうも斑点米の問題を通じて「反農薬」の主張を広めたいという意図があるように思える。
しかし、過剰使用ならともかく、農薬を適切に使って作物を育てることは、多くの農家にとって、病気や虫や雑草といったリスクを減らすことに繋がる。
農薬を使った農業を批判し、有機・低農薬栽培を翼賛することは、言葉を変えれば農家に対する「病気や虫や雑草というリスクの押し付け」ということにならないだろうか?
「等級」も「反農薬」も、生産者に対してリスクを押し付けているという点で、本質的には同じ意味を持つのではないか。私はそんな疑問を持ってしまった。
日本で「食の安全安心」が叫ばれて久しいが、私は食料生産者が一方的にリスクを負わされるような現状では、食の安全安心を守れるとは思えない。まずは国内で食料を生産する人たちが、過剰なリスクを負うことなく、安心して生産を続けることができる社会にすることが必要ではないかと考えている。
*1:<斑点米>味変わらず 農家「等級下げ」見直し要望(毎日新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091106-00000055-mai-soci
プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「「当たり前」をひっぱたく」。
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。