※この記事は2009年11月04日にBLOGOSで公開されたものです

北方四島とのビザなし交流の枠組を用いて国後島を訪れた日本代表団が、10月29日、同島で白いひぐまの撮影に成功したと発表した。

<ビザなし専門家交流訪問団(NPO法人北の海の動物センター主催、10人)は29日、北方領土の国後島で白いヒグマの撮影に成功したと発表した。訪問団によると、同島に生息する推定300頭の約1割が白いヒグマとみられ、北方領土だけで白いヒグマが独自の進化を遂げた可能性もあるという。
訪問団は同島の爺爺(ちゃちゃ)岳(1822メートル)の麓をベースキャンプに、22~26日に、定点観測調査や痕跡調査を実施。22日午前8時半ごろに団員2人が白いヒグマを目視した。さらに23日午前4時ごろには、赤外線センサーによる自動撮影装置を使って、別の個体とみられる白いヒグマの右半身の撮影に成功した。また、ハンターなどに聞き取り調査したところ、ヒグマの約1割が白い個体とみられるという。
訪問団によると、白いヒグマは雲と同系色のため、ヒグマの餌となる川魚が水面を見上げたとき、警戒心が薄くなる可能性があるという。団長の大泰司紀之・北大名誉教授は「白い個体は森の中では目立つが、国後島にはもともと(天敵の)オオカミが生息していないので、魚を捕獲するのに有利な白い個体が残ったのではないか」と話している。>(10月30日毎日新聞北海道電子版)

この白いひぐまの話を北方領土交渉を進める材料にすることができる。ロシア人は熊に対してつよい愛着をもつ。ロシア語で熊をメドベージと言うが、これは「蜂蜜を食べるお方」という意味だ。キリスト教が伝来する以前、ロシアの自然宗教で熊は神だった。この神にも名前があったが、恐れ多いので名前を直接呼ぶことを避けて、「蜂蜜を食べるお方」と間接的に呼ぶようになった。モスクワの動物園に行っても、熊の檻がいちばん人気がある。ロシアのメドベージェフ大統領の名字も語源は熊だ。

次回の日露首脳会談で、鳩山由紀夫総理がメドベージェフ大統領に、日本の専門家が国後島で白いひぐまの撮影に成功した話を披露し、日露両国の専門家が双方の法的立場を害さない(つまり日本代表団は、パスポートとビザをもたない)形態で、国後島に長期滞在して白いひぐまの調査をすることを提案するのだ。メドベージェフ大統領はおもしろがってこの提案を受け入れる。

そうして、北方領土に日本人が長期滞在できるメカニズムをつくる。長期滞在する日本人の中には外務省のロシア語を理解する専門家を入れて、現地事情を調査するとともに、対日感情の改善につとめるのだ。その入り口として、白いひぐまの話を最大限に活用すべきと思う。(2009年10月30日脱稿)

プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
近著に「外務省ハレンチ物語」、「獄中記 (岩波現代文庫)」、「インテリジェンス人生相談 [個人編]」、「インテリジェンス人生相談 [社会編]」など。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。