※この記事は2009年09月10日にBLOGOSで公開されたものです

産経新聞社会部が取得したTwitterアカウント(*1)で、衆院選の結果に対し「産経新聞が初めて下野なう」「でも、民主党さんの思うとおりにはさせないぜ。これからが、産経新聞の真価を発揮するところ。」と発言。後に同アカウント内で謝罪した。(*2)
個人的には「民主党さんの思うとおりにはさせないぜ」という民主党批判ととられかねない発言については、不用意な発言ではあっても、さほど問題だと考えていない。
それよりも「産経新聞が初めて下野なう」という発言の方が問題である。そもそも「下野」という言葉は、与党が野党になることを指す言葉であり、もちろん今回の選挙で下野したのは自民党である。
下野という言葉を使った記者の頭の中では、産経新聞と自民党のアイデンティティーが結びついていると読み取れる。これでは「産経新聞は自民党の広報誌である」と、自ら宣言してしまっているようなものだ。
もちろん、私は新聞メディアの「公平中立・不偏不党」などというお題目を信じてはいない。信じてはいないが、少なくとも公平中立不偏不党であることを高い目標として保ち、自らを戒めることは、大変重要なことであると考えている。

Twitterの特性を考えると、企業がプロモーションなどのために、社員のつぶやきを掲載するというのは、かなり難しいだろう。気兼ねなく生き生きとつぶやきを書き込む、多くの魅力的な個人ユーザーの中で、業務として書き込まれるつぶやきを読みたいと思う人が多いとは、あまり考えられない。逆に個人の心情を生き生きと書こうと思えば、今回のような問題になってしまい、会社の利益を損なうことになる。
かといって、企業のTwitter利用が、今のようなプッシュ型ヘッドラインリーダー的な利用ばかりになってもおもしろくない。
少し前に朝日新聞がTwitterのアカウントを取得したことがあった。当初は実験だったのだろう、記者がサッカー日本代表の試合を見に行き、ニュースではない率直な「つぶやき」を投稿していた。(*3)
朝日新聞のアカウントでありながら、完全に記者個人がニュースソースと大して関係ないことをつぶやいているということで、Twitter利用者からは割と好評であったが、その後はasahi.comのヘッドラインを通知するだけのアカウントになってしまった。(*4)
しかし、別の視点で考えれば、産経、朝日、どちらの事例ににせよ、マスコミという固定的なイメージの奥にいる「中の人」に対する注目であることに変わりはない。事例はたまたま悪い例といい例に分かれたが、Twitterというシステムを好むユーザーは、○○新聞記者という社会的な立場に隠れたつぶやきを期待しているのではなく、人間としての記者個人のつぶやきを期待しているのである。
「ネットは仮想現実」だと、かたくなに信じている人たちにとっては、とても理解できないかもしれないが、Twitterで行われていることは、人間同士が話し合うという、基本的なコミュニケーションである。そこに人間の息吹を感じない書き込みは似合わない。
企業もTwitterを利用するのであれば、まずは人間を露呈させることから始める必要があるだろう。
まぁ、無理して使う必要はないとはおもうけど。

*1:「@SankeiShakaibu」http://twitter.com/SankeiShakaibu
*2:<産経新聞>ネットの社会部公式ページで民主党批判(毎日新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090901-00000089-mai-soci
*3:注目されるTwitter、記者が感じるその魅力とは(asahi.com)http://www.asahi.com/digital/internet/TKY200909010146.html
*4:つぶやきの役割は「@asahicom」に受け継がれているようだ http://twitter.com/asahicom


プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「「当たり前」をひっぱたく」。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。