【ライブレポート】「皆さんを肯定したり安心させられる表現者になっていきたい」――“伊藤美来 Live Tour 2022 『What a Sauce!』”東京公演レポート
“伊藤美来 Live Tour 2022 『What a Sauce!』”東京公演レポート
4月16日、東京国際フォーラム ホールAにて、声優・伊藤美来によるライブツアー“伊藤美来 Live Tour 2022 『What a Sauce!』”の東京公演が開催。1年ぶりのツアーのファイナルとなったこの日のライブは、アーティストデビューから約5年間の歩みを振り返るベストライブの色合いももった充実の内容に。加えて、今後に向けた決意も明確に宣言され、彼女の活動の中でもターニングポイントの1つに数えられるであろう一夜となった。
大会場に“降臨!”サプライズとともに幕開けた充実のステージ
開演前はステージいっぱいに幕が張られており、セットはシークレット。ファンが期待に胸を膨らませるなか、ラテン風のパーカッションメインのインストが場内に流れ始める。そしてサーチライトに照らされダンサー4人のシルエットが浮かび上がったところでスクリーンが落ちると、伊藤がなんと、ステージ上空から“降臨”!このサプライズには、ファンも歓声の代わりに一段と大きな拍手をもって、喜びとともに迎え入れる。そしてインストからそのまま「No.6」へと突入し、ライブ本編がスタート。ホーンの映えるポップなナンバーで、いきなり場内を虜にしつつ盛り上げていく。2サビ明けの間奏部分ではダンサー4人と縦一列になったりとフォーメーションを活かした見せ場も作り、後奏のダンスも5人でピタリと揃えて魅せていくと、続いてもホーンが活きるナンバー「Shocking Blue」へ。凛とした響きにぐっと方向転換した歌声に加え、要所はピシッと決めつつもどこか麗しさや美しさを感じさせるダンスパフォーマンスでもって、サウンドに沿ったスタイリッシュな世界を形作ってみせた。そこからまたもガラリと楽曲のテイストを変えてみせたのが、続く「閃きハートビート」。キラッキラの笑顔で、MVでも見せたダンスも織り交ぜつつ、とびきりキュートなステージを展開。ただそのなかでも、サビの非常に複雑なメロディを乗りこなしながら振付の一手一手を正確に決めていくという高いパフォーマンススキルには、改めて唸らされた。
こうして冒頭3曲に持ち歌の中から比較的アッパーなナンバーを続けて、ファンのボルテージを上げつつライブの世界に惹き込んでみせた伊藤。この日初のMCパートでは、3年半前の国際フォーラム ホールCでのワンマンライブ“Live is Movie”を思い出しつつ、感慨深さも口にする。また、ツアータイトルに込めた想いについても改めて「色んな味のする楽曲を通じて、楽しい気持ちでお腹いっぱいになってもらえたら」と説明したところで、ライブ再開。そのコンセプトに直接的になぞらえてのものだろうか、「Morning Coffee」からしばらく“食べ物”絡みのタイトルの曲が続いていく。
その「Morning Coffee」は、リリース時から歌声にあったピュアさや振付の要所要所に乗せたキュートさを残しつつ、歌声にプラスされたほのかなオトナ感やステップの運びの巧みさなど、今ならではの表現に。決して見せびらかさず、しかしスキルの高さあればこそのステージをみせていく。そして曲名にちなんで、朝らしいひと伸びを「Pistachio」のイントロ中に挟んで“目覚め”を感じさせると、彼女の後ろでは2階部分がステージになっているターンテーブルがゆっくりと反転。レストランや店員に扮したダンサーが登場し、開店を迎えるというストーリーが展開していく。伊藤もステージ上をゆっくり移動しながらこのキュートなラブポップを愛らしく歌いゆき、2サビ明けにはそのレストランへと“入店”。着席したところで、続けて聴こえ始めたのは「パスタ」のイントロだ。2階ステージの側面部分のLEDに、落ち着いた雰囲気のレストランの映像が映し出されるなか、ゆったりとリズムにたゆたいながら一人で歌う伊藤。Bメロ中盤からはじわじわと歌声をクレッシェンドさせたり、落ちサビではふわっと柔らかく包み込むように優しく歌うことで、自ら手がけた歌詞に込めた意志を歌声にも反映してみせた。また、1サビ明けに店員へオーダーすると、2サビ後にはパスタが到着。後奏で実食を試みる……が、なかなかうまくパスタを巻けず、少々失敗気味に。ちなみに直後のMCにて、ツアーの1公演目・大阪公演では頬張りすぎて喋れなかったという経験を踏まえての結果であることも、合わせて語られていた。
MCではほかにもその「パスタ」について、アーティストデビュー5周年記念シングルとして初めて作曲に取り組んだ際の裏話も披露。さらには“5周年”という話題から、この5年間における自身の感じ方の変化についても吐露。経験を積んだからこその表現への欲や、「今だからこそ歌える曲」についての話を繰り広げたところで、続いては大人っぽさや甘酸っぱさを感じさせる曲のゾーンへ。
まずはちょっと大人なミドルナンバー「気づかない?気づきたくない?」から。サウンド的には少々ダンサブルさも感じさせる曲ではあるものの、ここでは歌にほぼ専念。サビ後半部分で活かしたファルセットや中盤でスタイリッシュに決めたラップなどから、歌唱直前に言及したオトナ感を強く感じさせていくと、ステージを夜のようなムードが包み、「土曜のルール」へ。そのムードへ良好にマッチングしつつも、彼女ならではのかわいげも時折ちらりとのぞく絶妙なバランスで、オンリーワンの歌声を響かせファンを改めて魅了していく。そしてさらにもう1曲、メロウなミドルナンバー「ルージュバック」も歌唱。この曲も直前までのステージや歌声がまとうムードを保ちつつ、サビに少々盛り込まれた振付も、的確にリズムを捉えてまっとうしていく。また、落ちサビでの声の震え具合や大サビ終盤にあらわになった強めの感情など、楽曲が描く女性像やその想いに絶妙にマッチした歌唱表現を最後まで見せていた。
ここで伊藤は一旦降壇。ダンサーによるパフォーマンスタイムを挟み、ステージ奥のスクリーンには“ONE DAY DREAM”と題された映像が上映。伊藤とのショッピングデートを思わせるショートムービーとなっており、様々な色の服装で七変化をみせた後、試着室から顔だけを出したカットで映像は終了。ライブの後半とその衣装、それぞれへの期待をさらに高めたところで、「傘の中でキスして」のイントロとともに衣装チェンジを終えた伊藤が登場。客席とステージがブルーに染まるなか、ミドルテンポのポップスをキュートに、それでいてしとやかさも醸しながら歌っていく。
歌唱後、またもステージを離れたかと思ったら、すぐさまブルーのメガホンを持って再登場する伊藤。スポットライトに当たって「よーい、アクション!」と声をかければ、「恋はMovie」の始まりだ。この曲はそのまま伊藤が“監督”として、スタッフに扮したダンサーとの掛け合いを、表情豊かに展開していくショーのようなナンバーに。サビではすっかり定着した振付をファンと共に踊り、一体感も生み出していく。さらにこの曲の披露中、伊藤が立っている2階ステージがゆっくりと転回。そんななかでも笑顔でクラップを促し、しっかりステップを踏みながら歌ってみせた。
優しさ、そして頼もしさを生んだ、5周年ならではの力強い宣言
曲明けには、着替えたばかりの2着目の青い衣装をフィーチャーしてのトーク。ステージ両端まで歩いて行ってできるだけ近くでそれを見せ、ファンとのコミュニケーションを取っていく。そんな衣装のメインカラー・青といえば……ということで、発売直後のニューシングル「青100色」の披露へ。
歌唱前のMCで「原点回帰の曲」と自ら語っていたとおり、楽曲に非常によくマッチする、彼女の歌声がもつピュアさをしっかりと出しての歌唱。その一方で、サビの中盤から終盤にかけての三連符や早口といった高い要求に応える技術面や、聴く人それぞれに寄り添うようにA・Bメロでふわりと優しさが込められた歌声などからは、しっかりと成長も感じることができた。
そんな最新曲から続けたのは、なんとデビュー曲「泡とベルベーヌ」!やはりこの曲には欠かせないイノセントさは健在な一方で、歌詞に沿った表情を色濃くつけたBメロ部分の歌唱や、全体として柔らかさをもたせた歌声は表現面での成長を伺うことができるものに。この2曲を並べたからこそ、より伊藤の成長が浮き彫りになっていたように感じられた。
そんな感慨に浸る間もなく、「まだまだ疲れてないですかー!?」との煽りに続き、最新シングルのカップリング曲「La-Pa-Pa Cream Puff」からラストスパートへと突入。ファンのクラップに支えられながら、サビ直前の脚をぴょこっと上げる振付など、歌声に加えパフォーマンス面でもキュートさをバッチリ表現し、続く「ミラクル」でもペアでハートマークを形作るダンサー二人との掛け合いも交えるなど視覚面でもファンを楽しませ続けていく。その光景がファンの高まりを生んだか、「all yours」ではイントロでの曲のリズムに合わせたクラップの響きが、この日一番の大きさに。伊藤もサビではマイクを持たない側の手を用いて、ファンのクラップを先導していく。
そうして会場内の一体感を高めに高めて曲を締め括り、ダンサーを送り出すと、いよいよ本編は残り1曲。その歌唱を前に、伊藤が今の心境を語り始める。開演を迎える前に感じていた緊張などにも言及しつつ、やはりメインとなったのはファンへの感謝。この日も緊張していた自分を支え勇気を与えてくれたこと、この5年を通じてたくさんの愛情や夢をもらってきたおかげで活動を続けられたこと――それらについて「感謝してもしきれない」とまとめる。
そして「皆さんの声のおかげで私は、自分に自信を持つことができるようになったり、自分を肯定できるようになりました。なのでこの5年を区切りに、ここから先は私が皆さんを肯定したり安心させられる、そんなアーティスト・役者・表現者になっていきたいと思います!」と力強く宣言し、ラストナンバー「ワタシイロ」へ。いつものようにファンは思い思いの色を灯し、伊藤に向けて掲げていく。そんな数多の光をゆっくりと見回しつつ微笑みながら歌う姿は、直前の宣言と結びつくことで早速ファン一人ひとりの想いを優しく肯定するかのよう。たまらない優しさと頼もしさをもって、それぞれの“ワタシイロ”に寄り添っていく――そんな感覚も覚えさせられたなか、本編は締め括られた。
歌唱後、伊藤が降壇し、暗転のなかアンコールを求めるクラップが響き渡ると、ライブTシャツを身にまとった伊藤が再登場。改めてこの日のライブを振り返りつつ、ツアーファイナルということでステージセットに込めた仕掛けも同時に種明かし。昨年のツアー“Rhythmic BEAM YOU”を彷彿とさせるキューブや、2ndアルバム『PopSkip』のリード曲「PEARL」にちなんだ真珠風のライトをステージ上に多数据えていたりと、5周年を記念したツアーにふさわしい仕掛けが多数あったことを明かしていく。言及されなかったステージ上方の、映画のフィルムを模した装飾なども含め、隅々まで彼女の今までの足跡を反映したステージセットになっていたのだ。
そんな振り返りに続いて、アンコール1曲目として歌われたのは「孤高の光 Lonely dark」。直前の「盛り上がっていきましょう!」との言葉通りのハイテンポかつシリアスな曲を、まっすぐで高音まで伸びやかな歌声をもってしっかりと歌い、改めてファンを惹き込んでみせると、「またみんなと絶対に会いたいです!みんなと私は“Best friend”ですよー!」と呼びかけてから、ラストナンバー「君に話したいこと」がスタート。歌詞になぞらえて直前に「Best friend」と呼んだファンとの繋がりを改めて示すように、ここでも客席を見回しつつステージをゆっくり歩きながら、ファンと笑顔で視線を交わして繋がっていく。最後には2階ステージからメインステージへと降りて“ベスフレポーズ”で締めくくり、去り際には「みんな、また会おうねー!」とオフマイクで叫び、自身二度目のツアーを締め括った。
重ねた年月と研鑽による高い技術が実現した、満足度の高いものとなった今回のライブ。それをここまでのものへと引き上げたのは、ライブ中に語った「ファンを肯定したり安心させられる表現者になりたい」という想いだったのではないだろうか。例えばその発言の直前の「all yours」で若干前傾気味になりながらクラップを煽っていた姿にも、今振り返ればその姿勢が現れていたように思う。それを、この5年間を総ざらいするようなライブできっちりみせてくれたことで、“声優アーティスト・伊藤美来”への期待はますます高まった。この日を境に引っ張られる側から引っ張る側に回った彼女が、果たしてこれからどんな変貌をみせるのか。これからも一歩一歩着実に進んでいくであろう彼女の歩みに、さらに注目していきたい。
TEXT BY 須永兼次
●“伊藤美来 Live Tour 2022『What a Sauce!』”東京公演
2022.04.16@東京国際フォーラム ホールA
【SET LIST】
M1. No.6
M2. Shocking Blue
M3. 閃きハートビート
M4. Morning Coffee
M5. Pistachio
M6. パスタ
M7. 気づかない?気づきたくない?
M8. 土曜のルール
M9. ルージュバック
M10. 傘の中でキスして
M11. 恋はMovie
M12. 青100色
M13. 泡とベルベーヌ
M14. La-Pa-Pa Cream Puff
M15. ミラクル
M16. all yours
M17. ワタシイロ
EN1. 孤高の光 Lonely dark
EN2. 君に話したいこと
関連リンク
伊藤美来 オフィシャルサイト
https://columbia.jp/itomiku/
伊藤美来 オフィシャルTwitter
https://twitter.com/infoitomiku