ロシア・ウクライナ情勢、資源の高騰、デフォルト懸念 世界が抱える爆弾は……?
「デフォルト」とは債務不履行という意味だ。「国のデフォルト」と表現する場合は、その国の国債の元本や利子の返済を約束通りにできなくなることを指す。最近では、ロシアのデフォルトの可能性が取り沙汰されてきたが、ここにきてスリランカにおけるデフォルトの懸念が高まってきた。
■コロナ禍がデフォルト懸念の一因に
なぜ、スリランカでデフォルトの懸念が高まっているのかというと、国債の返済期限を迎えても、返済のための外貨が足りない恐れが出てきているからだ。外貨が不足している理由のひとつとしては、新型コロナウイルスの感染拡大により、観光客が激減したことがあげられる。
詳しく説明する前に、まずスリランカとはどういう国なのか、おさらいしておこう。
● ●そもそも「スリランカ」とはどういう国?
スリランカの正式名称は「スリランカ民主社会主義共和国」で、インドの南に位置する島国だ。人口は約2,200万人で、首都は「スリ・ジャヤワルダナプラ・コッテ」である。国民一人当たりGDP(国内総生産)は2020年時点で3,682ドル(約45万7,000円)となっており、産業の中心は農業や繊維業である。
スリランカにとっては、観光業からの収入はGDPの5%程度に過ぎないものの、外貨を獲得する手段として非常に重要な産業となっている。観光業は、繊維や縫製業、物流・輸送サービス業に次いで、同国の外貨獲得に貢献している。
スリランカを訪れる観光客数は2016年には200万人を超え、国の観光業の振興に力を入れた。しかし、2019年に連続爆破テロが起きたことで、年間の外国人観光客数は191万人と前年比で18%も減少した。さらには新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2020年は74%減の51万人となった。
このような事態により、スリランカの外貨準備高が大幅に落ち込んだ。2022年1月時点の英フィナンシャル・タイムズでは、2022年内に返済期限を迎える同国の債務は70億ドル(約8,700億円)だが、外貨準備高は30億ドル(約3,700億円)しかないと報道された。
■政情不安も起き、「デフォルト不可避」との声も
観光客の激減で外貨準備高が大きく減る中、スリランカでは政局の混乱も起きた。スリランカ国民が景気後退やインフレの加速、長期の停電などに抗議し、閣僚が一斉に辞任する事態が起きた。新たに財務省に就任した人物も就任後1日で辞任し、混乱に拍車をかけた。
インフレが加速している背景には、ロシア・ウクライナ情勢の悪化がある。世界有数のエネルギー産出国のロシアと小麦生産国のウクライナが戦争状態にある中、世界的に資源高が起きており、その影響がスリランカに対しても及んでいるわけだ。
スリランカ国民による抗議活動はもはや暴動へと発展し、スリランカ政府は非常事態の宣言や外出禁止令の発出に至った。
この混迷状態は、簡単には収束しそうもない。スリランカの代表的な株価指数である「S&Pスリランカ20」は、1月には4,600台にのせていたが、4月8日時点では2,600台まで落ち込んでいる。
■ロシアデフォルトの懸念も消えず
今後の焦点は、デフォルト回避に向けたスリランカ政府の動きだ。現在は情報が錯綜している状況だが、国際通貨基金(IMF)に対して緊急支援を要請したという報道もある。世界銀行への支援も模索しているようだ。しばらくはスリランカから目が離せない状況が続く。
一方で、同じくデフォルトの懸念が高まっているロシアについては、デフォルトを回避できるかどうか、非常に不透明な状況だ。現時点で、ロシアが海外で保有する外貨はかなりの金額が差し止められており、元本の返済や利払いに一層窮する事態となっているからだ。
そして4月4日、アメリカの金融機関におけるドル建てロシア国債の満期償還や利払いの手続きについて、米財務省がその手続きを承認しなかったことをロイター通信が報じた。米財務省がこの姿勢を貫けば、ロシアのデフォルトが半強制的に起きる可能性が高い。
ロシアに対しては、ウクライナにおいて市民の虐殺などの「戦争犯罪」を起こしたとして、欧米含む世界からの批判が一層高まる事態となっている。少なくとも当面は経済制裁が強化される方向に動き、ロシアのデフォルトの懸念は消えないだろう。
■世界が同時的に抱えている数々の「爆弾」
2022年、ロシアとスリランカがともにデフォルトする事態となれば、世界経済にどれくらいのインパクトがあるのか。市場関係者からは、ロシア・スリランカ発の金融危機を危惧する声も聞こえてくる。
新型コロナウイルスの再拡大、ロシア・ウクライナ情勢の悪化、資源価格の高騰による世界的なインフレ、そしてロシアとスリランカが抱えるデフォルト懸念……など、いま世界が同時的に抱えている「爆弾」はかなり多い。
特に、株式に投資している人は、大きな下落相場が始まるリスクを感じながら、慎重なトレードを心掛ける必要がありそうだ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)